1/20
1
この獣人達の国をスパイとして潜り込んでから、数10年になる。
人間の国から来た俺は、竜族の化身というふりをしてこの国に身を置いていた。
ここでの俺の職業は商人だ。雑貨類を扱っていて、まあまあ儲かっている。
知り合いや友人も向こうにいる時よりも、こっちの方が断然増えているし、居心地がいい。
思わずスパイをしているのを忘れそうになることもある。
スパイと言っても大したことはしていない。隣国にある我が国に戦争を仕掛けてこないか、そういう噂が流れてこないか耳をすますことが俺の裏仕事になっている。
しかし、数10年いることで分かったことは、獣人達の独立国は今日も平和だということのみだった。