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Procyon
読み方:プロキオン
意味:先立つ者
室内はまるで誰もいないかのように静かだった。
時折誰かの鼻を啜る音が響くだけ。誰も何も言わなかった。否。言えなかったのかもしれない。今のパトリックの顔を見て一体、なんと声をかければいいのだろう。何が正解なのか、ヒカルにも船員達の誰にも判らなかった。
「……と、まあ。昔話はやめにしてだな」
パトリックが2つの包みを取り出した。
「アンリ、ヒカル。この包みを覚えているか?」
それは確かに記憶の片隅にある。
「リンから渡されたものよ」
アンリが表情1つ変えぬまま呟く。それがむしろ彼女が涙を堪えているような印象を与える。
パトリックが「そう。その通りだ」と言いながら、包みを開いた。中にあったのは古いビデオテープと紐で括られた冊子の束。それぞれ『マオへ』『アンリへ』と書かれている。
「このビデオテープは以前流したから皆も知っているだろう」
机の上に置きながら彼は言う。
それは、リンが船上から消えてから2日後の出来事だった。