Aldebaran
読み方:アルデバラン
意味:後に続く者
「……酷い顔してる。寝てないのか?」
端麗な外見に相反するような男勝りな喋り方で、ヒカルは問いかけた。その言葉に意外そうな顔をするミキト。
「隈も酷いが顔色が優れない。……これでも飲んでおくといい」
そう言って渡されたのは桃色の小さなパック。遥か昔に流行った飲み物だ。今は高騰してしまって、一般人では到底買えない。昔はワンコインで買えたと言うのに。
「飲まないのか?おいしいぞ」
ぐいぐいと押し付けられ、受けとる。パッケージには『いちごみるく』と書かれていた。何だかギャップがありすぎて笑ってしまった。そんな彼を見て訝しげに眉をひそめるヒカル。
「君、面白いね。ここの職員?」
そう言って後ろを仰ぎ見る。さっきまではそびえ立っていたそいつが、今はちっぽけに見えた。いつか越えてやるさ。心の中で呟く。
「いや……気づいたら小さな部屋にいて、いまさっき解放されたところだ」
「気づいたら?」
「記憶が……ないんだ」
そうか、と言ってミキトは天を仰ぐ。こんなにも無情な事が今まであっただろうか。
「お前は何をしているんだ? こんな日に傘もささず」
「……本当に覚えてないのか?」
「……は?」
「いや、なんでもないさ。僕はね、試験に落ちたんだ。もう2度目だ。諦めようかと思ってるよ」
「……3度目の正直といこうじゃないか」
「……」
「私も記憶を取り戻すために頑張る。だから、お前も頑張れ」
そう言って笑いながら彼女は傘をぐい、と押し付ける。ミキトはそれを反射的に受け取る。
「次の試験は何時だ」
「……3ヶ月後だよ」
「じゃあ、その時にこの傘を返してくれ」
「……いや、でも」
止めるミキトを振り払い、ヒカルは駆け出す。右手を頭上にあげ、大きく振った。それは彼との再会を誓っているように見えて。
「そして僕は恋をしたんだ、君にね」