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遥か先に視る想い  作者: 埋木花咲
第2章 後に続く者
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Aldebaran

読み方:アルデバラン

意味:後に続く者

「……酷い顔してる。寝てないのか?」

 端麗な外見に相反するような男勝りな喋り方で、ヒカルは問いかけた。その言葉に意外そうな顔をするミキト。

「隈も酷いが顔色が優れない。……これでも飲んでおくといい」

 そう言って渡されたのは桃色の小さなパック。遥か昔に流行った飲み物だ。今は高騰してしまって、一般人では到底買えない。昔はワンコインで買えたと言うのに。

「飲まないのか?おいしいぞ」

 ぐいぐいと押し付けられ、受けとる。パッケージには『いちごみるく』と書かれていた。何だかギャップがありすぎて笑ってしまった。そんな彼を見て訝しげに眉をひそめるヒカル。

「君、面白いね。ここの職員?」

 そう言って後ろを仰ぎ見る。さっきまではそびえ立っていたそいつが、今はちっぽけに見えた。いつか越えてやるさ。心の中で呟く。

「いや……気づいたら小さな部屋にいて、いまさっき解放されたところだ」

「気づいたら?」

「記憶が……ないんだ」

 そうか、と言ってミキトは天を仰ぐ。こんなにも無情な事が今まであっただろうか。

「お前は何をしているんだ? こんな日に傘もささず」

「……本当に覚えてないのか?」

「……は?」

「いや、なんでもないさ。僕はね、試験に落ちたんだ。もう2度目だ。諦めようかと思ってるよ」

「……3度目の正直といこうじゃないか」

「……」

「私も記憶を取り戻すために頑張る。だから、お前も頑張れ」

 そう言って笑いながら彼女は傘をぐい、と押し付ける。ミキトはそれを反射的に受け取る。

「次の試験は何時だ」

「……3ヶ月後だよ」

「じゃあ、その時にこの傘を返してくれ」

「……いや、でも」

 止めるミキトを振り払い、ヒカルは駆け出す。右手を頭上にあげ、大きく振った。それは彼との再会を誓っているように見えて。

「そして僕は恋をしたんだ、君にね」

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