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遥か先に視る想い  作者: 埋木花咲
第2章 後に続く者
33/38

Aldebaran

読み方:アルデバラン

意味:後に続く者

 ヒカルは気だるい身体を持ち上げ、カプセルから外に出た。服を着替え腰に携帯用の武器を持ち、部屋を出る。そして真っ直ぐにチハルの部屋へと向かった。

 ドアに手をかざす。いつもは自動で開く筈のドアが開かない。ヒカルは焦った。早く、早くしなければ。何故私に解るのかが解らないけれど、と呟く。彼女が危機にさらされている気がしてならなかった。

「チハル。ちょっとお茶しに行きましょ」

 そう言いながら扉を叩く。腰につけていた武器を胸元に隠す。脂肪の合間に埋もれたそれを出しやすい位置に直す。

「……ヒカル? 今チハル寝てるんだ。ごめんよ」

 中からアキラの声がする。その声は焦りと喜びを混ぜ合わせたようで、不気味だった。

「大事な話があるのよ。チハルには悪いけど、起こしてくれないかしら」

「……それは酷いね、ヒカル。妹が可哀想だ」

「そんなことないのよ。少し予知夢を見たの」

「予知夢?」

「チハルが殺されそうになってる夢をね」

「……そうなのか。じゃあ、俺から誰に気を付ければいいか言っておくよ」

 ミキトが部屋から出てきた。向かいの部屋まで聞こえてしまったのだろうか。心配そうな顔でみてくる。

「それはだめよ。私が直接言うわ」

「だからって起こすのは……」

「だったらここを開けて。起きたらすぐに言うから」

「……それはできないかなぁ」

 そう言いながらアキラが笑いだした。何故彼は笑っているんだ、とミキトが呟く。その理由をヒカルは口にできなかった。

「ヒカル、覚えているかい」

「……何」

「この船を操っているのは、何処の誰の力なのか、ということをね」

 ヒカルは押し黙った。その言葉を出されたら終わりだった。

「君が下手に動けば、僕はすべてのプログラムをシャットダウンさせた上で、ウイルスを侵入させるよ。修復不可能な程のウイルスをね」

 部屋の中から聞こえてきた笑い声が止まる。

「チハルがどうして僕と同じ部屋なのかは、わかるだろ? 彼女は俺の天使だ。この世に舞い降りた天使。俺の事を暗闇の中から助け出してくれた。チハルが船に乗るといったから、俺も乗った。それだけの話だ。彼女を誰かに渡すわけにはいかないんだよ。特にどこぞの骨とも知らない警察官にはな」

 ヒカルはミキトを見た。困惑が隠せない顔で見返してくる。何がどうなっているのか解らない状況だった。

「2人とも押し黙っちゃってどうしたのさ」

 そう言ってまた笑いだす。

「何故2人だと」

「この船は僕の身体。目であり耳であり口なんだよ。誰がどこにいて何をしているかなんて筒抜けなんだ」

 ミキトが扉に手をかける。その瞬間、扉が突然開いた。

「わかるんだってば」

 アキラが笑いながら部屋に入るよう促す。

「何を見ても叫ばないでよね」

 そう言いながら笑う彼はまるで悪魔だった。

 部屋は薄暗く、ほぼ何も見えない。一瞬先は闇。その言葉が良く似合う部屋だった。奥の方で何か啜り泣きのようなものが聞こえた。そちらへと一歩ずつ進む。

 いきなり電気がつけられた。そして、そのおぞましい物体を照らし出す。

 両手足を拘束され、裸体には赤い傷が何本も走っていた。視覚、聴覚は黒い布によって奪われ、喋ることすら出来ないようだった。首から上には傷がない。それがアキラの周到さを物語っていた。

「今はね、お仕置き中なんだ」

 アキラが言う。そんな彼にミキトが拳銃を向けた。それを見てせせら笑う。

「僕を殺したらさっきいったことが現実になるよ」

 そう言ってアキラがシャツを脱ぐ。胸を斜めに赤く浮き出た線が横断している。そこを優しく撫で回しながら彼は続ける。

「初めてチハルがやった手術だよ。彼女は本当に優れている。何せ、俺の心臓とこの船の心臓……すなわちすべてのプログラムを作動させているスイッチを見事に結合させたんだからね」

 ミキトが銃を下ろした。それを見てアキラが嘲笑った。

「御愁傷様」

 その言葉を背に2人は部屋を出る。おぞましい空間に長居したくなった。「ごめんね」と一言呟き、扉を閉めた。中から悪魔の笑い声がした。

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