Aldebaran
読み方:アルデバラン
意味:後に続く者
それは突然訪れた。
部屋に引きこもっていたパトリックが外へと飛び出し「見つけたぞ」と叫んだ。皆が皆、人殺しのことかと思いお互いを睨み付ける。結局は、新居となる星が見つかっただけだったのだが。
チハルは憂鬱だった。ヒカルのあんな告白を聞いたら、このままどこにも着かず自分が殺されるのを待っていた方がいいんじゃないかとすら思っていた。だから、嬉しいよりも悔しい方が強かった。どうにかして船を止めたかった。
それに、自分もまだ思いを伝えられていない相手がいるのだ。同じ法科大学にいた身としては、彼は彼女の憧れであり夢だった。そんな彼と今、自分は時を同じにしているのだ。この機会を逃したら、もう2度と会えないかもしれない。そんなことを考えながら窓から外を覗き混む。目的の星なんてちっとも見えず、真っ暗な海だけが広がっている。そう言えば久しく大きな水溜まりを見てないな、何て思った。
「チハル」
アキラが後ろから声をかける。チハルはこの兄貴が苦手だった。
「もうすぐみんなとお別れだな」
そう言って首に手をかける。だんだんと強まるその力に息が詰まる。
「駄目だって言ったよね? みんなと仲良くしたら」
その言葉に激しく頷くも、力は揺るまない。
「しかもさ。お前はミキトが好きなのか? ……この間、随分と熱い視線を送ってたじゃないか」
やってしまった、と心のなかで呟いた。バレないように気づかれないようにと頑張っていたのに。どうしたらいいのかわからなくて。泣きたいのに苦しくて泣けない。
「いい子にしてられない子にはお仕置きだね」
その言葉に駄目だ、と覚悟する。こういう時の兄貴は手に負えない。それにいつもこのタイミングで来るはずの上のお兄ちゃんは船尾室なのだから。
まだヒカルにさよなら言ってないよ。
まだミキトさんに好きって言ってないよ。
神様は不公平だ。神様なんか大嫌い。
そこで夢から覚めた。