Aldebaran
読み方:アルデバラン
意味:後に続く者
息が詰まるような感じがした。13分にも及ぶ沈黙にヒカルは正直、苛立ちが募っていた。皆視線では訴えるが何も言わない。なぜ、思ってることがあるのに言わないんだ、そう思っていた。そう思いつつもそれを言わない彼女もまた、彼女の中での苛立ちの対象だった。
多くの視線はアンリに向けられている。それは責めるような視線だったり同情する視線だったり、はたまた軽蔑するような視線だった。
「……やめてくれませんか」
アンリが口火を切った。その目の鋭さが沈黙を切り裂いた。
「私の事を疑いたいならそう思えばいいし、言いたいことなあるなら言えば良い。……黙ってたって何にもならないじゃない。あなたたちもう、子供じゃないのよ?見つめるだけでわかってもらえると思ったら大間違い」
そう捲し立て、彼女はため息をつく。そして、にっこりと笑った。
「あー。すっきりした。皆も思ってること言えば?」
この空気に似合わない彼女の笑顔のせいだろう。皆口々に喋りだす。
「人が3人も死ぬなんて……」と、ハル。
「もう。誰を信じたら……」と、ミヤビ。
「私はね、パトリックが……」と、ロイ。
「それは違う。そもそも……」と、ヨシキ。
「アイリーンとレオは大丈夫……」と、チハル。
「独りでいるのが一番……」と、ユウキ。
「…………」と、ルーク。
「グレープで行動すりゃいいんじゃないの?」
アキラが今更、思い付いたように言う。ヒカルはさっきからずっとそれを小声で主張してただろ、と心の中で言いながら「それが良いな」と言った。
皆その意見には賛成らしい。わらわらと自分が信頼できる仲間と集まり始めた。アンリはぽつりと独りでたっている。ヒカルは彼女に声をかけようと歩み寄った。
「アンリ先生!」
だがしかし、先に声をかけたのはハルだった。
「私、先生のこと、信頼してる!だから一緒に来てよ」
アンリが戸惑ったように彼女を見た。
「……だけど」
「それに!ミヤビが倒れたりしたときに、アンリ先生いないと駄目でしょ!」
ミヤビが勝手に人を病人にするな、と呟き「よろしくお願いします」とだけ言った。
そのやり取りにヒカルは溜め息をつく。信じていたのは私だけじゃなかったんだな、と安堵した。そして自分の周りを取り囲む3人に目を移す。
アキラはつまらなさそうにそっぽを向いている。
「……チハルがさ、ヒカルが良いって」
反対にチハルはキラキラとした目でヒカルを見ていた。
「ヒカルちゃんが守ってくれるよね!」
そんな仮面ライダーやウルトラマンを見るような目で私を見つめないで欲しかった。「私は騎士でもなんでもないんだよ」と呟く。
「ま、ヒカルが守れなかったら、俺が守ってやるさ」
自信ありげに胸を叩いて見せるミキト。「あんたは違うの!」とチハルに叩かれていた。
部屋の中を見渡す。
ロイ、ヨシキ、ルーク、ユウキ。
アンリ、ハル、ミヤビ。
そして、アキラ、チハル、ミキト、ヒカル。
3つのグループができていた。意外な組み合わせもできるもんだな、とヒカルは思う。とりあえずはアンリが安全そうなところにいられて良かった、と思った。