Aldebaran
読み方:アルデバラン
意味:後に続く者
『セントリーズ』は異様な静けさに包まれていた。
あのお喋り者のロイでさえも沈黙を貫いている。部屋にはハルとミヤビの啜り泣く声だけが聞こえていた。アイリーンとレオは『クリスティ』で寝ている。その部屋はパトリックの部屋からは遠い。異臭も不安も無いから安心しなさい、とパトリックは言っていたけれど。2人だけで残してきて大丈夫だったのだろうか、とヒカルは思った。
「アンリ……君なのか?」
パトリックが唐突に言う。
「私がリンの事を忘れようなんて言ったからなのか?」
「……何を言ってるのかわからないわ、パトリック」
「君なんだろう?妻を殺すことで私の中に傷を残したかったんだろう?」
「違うよ、パトリック」
ヒカルが口を挟んだ。
「昨日、私は彼女と一緒に部屋を出た。そしてそのまま船尾室の方まで行き、話をしていたんだ」
「……殺人者を庇うのか」
「パト、そんな言いがかりはよせよ」
ミキトが間に入った。パトリックが黙る。チャールズが消えてから彼にとってミキトが一番の理解者だったからだ。警察官だったミキトとは幅広い知識を持っていて、傷心していたパトリックの心を和ませたのも彼だった。
「すまない……私は、もう、皆の事が信じられない」
しばらく『クリスティ』で家族3人穏やかな休暇を取らせてくれ、と言って部屋を出ようとする。しかし不意に立ち止まり、全員の顔を見渡した。そしてアンリを凝視して言う。
「忘れようなんて言った私が馬鹿だった。この事は忘れるものか」
扉が閉まる。部屋をまた静寂が包んだ。