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遥か先に視る想い  作者: 埋木花咲
第2章 後に続く者
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Aldebaran

読み方:アルデバラン

意味:後に続く者

 その一言で彼女は悟る。この臭いの原因がパトリックでないことを。そしてそれが誰なのかということも。

 猛烈な吐き気に襲われ、彼女は崩れ落ちた。

 なぜ、彼女が死ななければならなかったのか。

「キャシーが死んだんだ」

 畳み掛けるようにミキトが言う。わかってる、わかってるよ、だから現実を突きつけないでくれ。ヒカルは胃の中から溢れだすものを堪えながら、涙目で彼を、宙を扇いだ。

「……悲しむ君は美しいよ、ヒカル」

 そう囁きながら、ミキトがヒカルを抱き締める。

「こんな美しい人に悲しんでもらえる彼女は幸せ者だ」

 ヒカルを笑わせようと冗談のつもりで言っていたのかもしれない。だが、彼の声は震えていて。それが更に彼女の悲しみを煽った。

「キャシーに……別れを言わなければ」

 おもむろに彼女は立ち上がる。しかし、身体が言うことを聞かない。崩れ落ちそうになる膝に力を込め、ミキトに寄り掛かるようにして部屋の扉を開けた。10センチ程開いて扉が止まる。その隙間から、放心状態のパトリックの姿が見えた。その手には血にまみれた白く細い手が握られていた。薬指にはキャシーの愛称でもあったイエローサファイアが煌めいていた。

「パトリック」

 ヒカルの呼び掛けにパトリックの肩が跳ね上がった。

「……ヒカルか」

 こちらを見て安堵の表情を浮かべる。

「誰かが私を殺しに来たのかと思ったよ」

 その瞳からは生きる気力が失われていた。「いっそ、殺してほしいさ」そう呟いてまた妻の亡骸に視線を戻す。

「パトリック……」

「見てくれ、ヒカル、ミキト。これがイエローサファイアを薬指につけ『合衆国の太陽の宝石』とまで呼ばれた女の最期だ」

 惨めだ、と彼は呟いた。そんな彼にヒカルはなにも言えなかった。

「パト」

 ミキトが彼の肩に手を置き「泣いてちゃ報われない。……アイリーンとレオが待ってる」と告げる。その言葉に彼は弾かれたように立ち上がり「そうだ。2人のところへ行かねば」と部屋を早足に出た。ちょうど部屋を出てきたアイリーンとレオが父親の姿を見て泣き出した。その声は母親を失った悲しみがどれ程大きいのかを物語っていて。パトリックは2人を抱き締め「パパがいる」とだけ言った。

 そして3人の泣き声は船中に響き渡り、他の船員達に少し早い夜明けを迎えさせる。

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