Procyon
読み方:プロキオン
意味:先立つ者
「……パトリック、何を言っているの?」
キャシーが鋭い目で夫を見た。彼女に抱かれたレオはぬいぐるみをきつく抱き締めている。いつも父親にべったりのアイリーンですら、彼の側から後ずさった。
「キャシー、本当のことなんだ」
そう言う彼の顔は、何とも言えない表情だった。不安と疲労と哀愁が入り交じったような顔。その表情を見れば誰も「嘘ついちゃって!パトリックたら」なんてからかうこともできなかった。
「その可能性が高いってことだよ」
ミキトは「自ずから命を絶った可能性も、少なからずはあるけどね」と言う。そんな彼をアンリが鬼のような形相で睨み付けた。
「……ミキトくん。わたしの師匠を汚す気か?」
ドスの効いた低い声に、ハルとミヤビが震えた。
「でも、あれだろ?リンは研究してたんだろ?そのアメーバ」
ヨシキがロイに語りかけるように聞いた。ロイも頷く。
「研究のために自分でアメーバを体内に入れたって事だと思ってたわ、私」
「……そんな筈ない!」
ロイの発言にアンリが勢いよく答えた。テーブルにぶつかり、グラスが倒れる。それがルークが読んでいた雑誌にかかる。
弾かれるようにルークが立ち上がった。驚いて皆、そっちを見る。
「話し合いを続けてくれ。……だけど、もう少し回りを見てくれよ、アンリ、パトリック」
その一言で2人は我に返ったように目を見開いた。
「……レオ、アイリーン。すまないね、チハルもだ。幼いのにこんな話をいきなり聞かせてしまった」
「……ごめんね、みんな。食って掛かったように話してしまった」
ヒカルはアンリの肩を抱き「しかたないさ」と告げる。
「……そこでみんなに提案がある」
パトリックが呟いた。視線が彼に集まる。
「わたしは誰も疑いたくないんだ」
皆が相づちを打つように頷く。ミキトだけは先程と同じように、遥か先を見つめていた。
「忘れよう、このことは。2人の死んだ理由も」
空気が詰まったような気がした。息ができなかった。あまりの衝撃によるものかもしれない。彼の無責任な言葉を聞いたのは初めてだった。
「……ふざけないで」
そう言ってアンリが外への扉を開いた。
「パトリック、ふざけないでよ」
そう言い残して立ち去ったアンリをヒカルは走って追いかけた。