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SIDE:A

問題編?

 




忘れ物はありませんか?


 忘れてしまったことはありませんか?


 夏休みのプール教室。


 朝早くから出掛けた虫取り。


 きつかったけど、楽しかった部活の朝練。


 最後まで残した宿題。


 年を重ねるごとに捨てて忘れてしまったこと。

 

 照りつける太陽。


 駄菓子屋で飲んだラムネの味。


 縁日のトウキビの味や雰囲気。


 そして、ワクワクしたあの感覚。


 それらを捨てて忘れてしまった子どもの残骸がオトナなのかもしれない。





 忘れ物はありませんか?


 忘れてしまったことはありませんか?







  Nostalgic Phantom SIDE:A






 夏休みの終わり。

 8月31日のことだった。

 私、こと、玖珂伊織くがいおりは、その日、体験した。




 私は、時乃学園高等部二年B組に所属する、拳法部のフツーの女の子だ。

 八センチまでなら、合板を叩き割れるがフツーの女の子、だと思いたい。

 実家が寺だけど、極ありふれたサラリーマン(ちょっと高給)の父と娘の名前を男の子用の伊織しか用意してなかったちょっとうっかりヤな母、アニキが上に二人と下に双子男が一組。

 間違っても、女の子って感じではないけどね。

 理系は苦手だけど、他の三教科で点数を稼ぎ、一学年百八十四人中八十番台アタマを維持していて、体育を楽しみにしているどこにでも、クラスに一人は居そうな女の子だ。

 もちろん、恋だってしてる。同じクラスの裄瀬ゆきせくん。

 名前は、衛伴えばんと言って、一応、日本国籍ではあるが、彼の両親がイギリス出身で帰化した為、向こう風の名前らしい。

 暗めの赤の髪がステキな空手部の主将だ。

 ちなみに、中等部一年からの同じクラスだったりする。

 私と彼、男子と女子二名が良くつるむメンツ。

 校外学習なんかで、同じクラスの男女五名ぐらいでグループ組まされるよね、それの定番って感じ。

 一応、男子こと、坂内雅郁さかうちまさくには、他のクラスに彼女がいる。

 弁当を一緒に良く食べる子で、休みに遊ぶ時は一緒に遊んでる子だ。

 ちまちまとした小動物みたいな子と言うとなんとなく、通じるだろうか?

 お盆明けの登校日に、昼からの部活の前に、私と女子、坂内、その彼女とお昼にした。

 ちなみに、女子二名は、背が高い子と平均ぐらいの子。

 高いほうが、近藤茉莉こんどうまりと言って、染めてないけどちょっと茶髪っぽい水泳部の子。

 平均の方が、大道寺沙奈子だいどうじさなこって言うちょっと大仰な名前だけど、普通に美術部で絵の具だらけになってることが多い。

 ちなみに、坂内は黒髪を刈り込んでる空手部の副将だったりする。

 そんな六人で、どうしてだか、こんな話になった。

「ねぇねぇ、知ってる?

 八月三十一日にだけ、現れる幽霊がいるんだって。」

 サナのそんな話から始まった噂話。

 この学校ができてすぐ、ぐらいの話で約十五年前。

 文芸部の三年生が、四階の一年F組から飛び降りたらしい。

 しかも、真夜中の十二時過ぎに。

 その前後に、中庭に変な音がしたというのは、警備員の言。

 翌朝、頭から落ちたらしい彼の遺体が見つかった。

 ただし、大学受験に関しては本人の志望校へは全くの心配も無かったし、指定校推薦枠も勝ち取っていたので問題なかったし。

 家庭も円満、彼女もいたという。

 真夜中の学校どころか、真昼間であろうと自殺をする理由が無い少年だった。

 時折、彼の姿を見る生徒もいたようではあったが、彼が接触しようとしたのは同級生だけだった。

 そして、それから、少子化の影響でE組までしかなくなっても、彼は学校にいた。

 ほとんど、彷徨ってるだけの彼と接触できるのは、八月三十一日の真夜中・・・つまり、彼が死んだ辺りだけ。

 まぁ、そんな話。

 よくあるといえば、よくある話。

 うちの高校・・・と言うか小学校から高校までのエスカレータ式のって、二十年ほど前のこの辺の再開発で大きく再編成された東京都内まで一時間二時間で行ける解りやすくいえば、近所に鎌倉がある山と海がある大きな市ということになる。

 実際に、一応、そういうことがあったレベルで数年に一度自殺がないわけじゃないが、『意味不明』『原因不明』となれば、話に上るのが、彼だったりするのだ。

 んで、来年は大体が受験だったりするし、最後の自由な夏休みってなれば、そりゃ、肝試しやるよね?





 三十一日の午後十時。

 私と衛伴くん、マリ、サナ、マサの五人は、校舎裏の勝手口?というか、搬入口と言うか、そんなトコにいた。

 ここの鍵が馬鹿になってることと理事長の意向でSAGOMなんかの電子系セキュリティが入ってないのだ。

 一応、アナクロではあるけど、宿直の先生はいるらしい、けど、九時半ぐらいに一度目の巡回が終わってるから、午前二時の巡回までなにもないらしい。

 一年F組・・・生徒玄関からみて六番目の教室にあがった。

 私達が入ったとこのすぐにある階段からあがると一番近い教室。

 今は、D組までだから使われていない部屋になるけど、定期的に掃除はされているようで、蒸し暑いが特にホコリくさいというわけではない。

 窓を開けると、下が中庭で真下に池があるためか、カエルの声がうるさいぐらいに響いている。

あれから、あれこれ調べて・・・と言うか、衛伴くんの九歳上のお姉さんが昔やったことあるらしく、いわゆる、こっくりさんで話すのが一番良いらしい。

 十年前は、失敗したらしいけど。

 サナ達が調べても同じだったし、大丈夫だろう。

 解りやすくいうなら、ひらがな50音と『YES』と『NO』と赤い鳥居の紙といえば、解りやすいかもしれない。

 300均で売ってるカンテラ型の懐中電灯とホントのカンテラをいくつか床に並べて灯りにしている。

 初めは、私と女子二人でTの字で、やることにした、

 机を二つ、向かい合わせにして、回りに椅子を四つな並び方。

 衛伴くんは、ちょっと離れて座っていて、マサは一応、警戒の為、廊下にいるようだ。

 廊下の間仕切りになってる窓を開けているから様子は見ているようだけど。

 「カシマさん、カシマさん、おいでください。」

 ちなみに、この呪文のカシマさんっていうのが、その飛び降りた子の苗字らしい。

 しばらくは、動かずに居たコイン。

 それがするすると動き出す、少なくとも、私は動かしてないし、他の二人も同じだろう。

 後は、しばらく、差しさわりの無い質問をしていき、そうして、確信の質問へと移った。

 「カシマさんですか?」

 


   『YES』



 「カシマさん、貴方はどうして死んだのですか?」




   『こ』『こ』『の』『ま』『ど』『か』『お』『と』『さ』『れ』『た』



 「・・・っ」

 コインが動き、示された言葉。

 『ここの窓から落とされた』

 思わず、息を呑む。

 パニックになりかけた三人。

 コインから手を離さなかったのは褒めて欲しい。

 そこに、何も無かったように近づき、誰もいないところに化粧水のようなちょっと大きな瓶の中身を丸ごと掛ける。

 なんていうかな、コンクリの床に水をかけたら、色が変わる感じというか。

 一番近いのは、リトマス試験紙かな、この間のテストでやった。

 出てきたのは、黒髪黒目で細身の少年で学ラン姿って言うのかな、そういうの着た子。

 足もあるけどそれでも、血が通っていないように白い肌が、『カシマさん』なのだろう。

 『どうもどーも、カシマさんこと、化島あだしまです。

  下の名前は、章太郎しょうたろうと言いますが、何かご質問は?』

 妙なエコーが掛かっているが、ちょっとお調子者の委員長と言った感じで幽霊とは、思えない。

 なんというか、勉強ができるのに、ユーモアも理解できて男女両方の立ち場を理解できそうと言うか。

 モテそう、衛伴君とは別の意味で、モテそうと言う感じなのだ。

 それでも、マリは茫然自失と言うか、半分意識を飛ばしかけていたけれど。

 『・・・・・・って、大道寺くんと近藤さんに、裄瀬さん?!』

 「え?」

 「・・・ひゃい?」

 「残念ながら、似てるだろうが、それの妹や弟だ。」

 『へぇ~、似るもんなんですね、とても、そっくり。』

 「女顔といわれて嬉しいと思うか?」

 はい?サナとマリ、衛伴くんが、〈カシマさん〉を知ってる人の妹弟?

 一応、衛伴くんはもちろん、兄弟がいるのは知ってるし、二人にも兄姉がいるのも知ってたけど。

 とりあえず、質問したいことがありすぎて、軽くテンパってる私に代わり、衛伴くんが取り仕切る形になる。

 



  ◆◇◆  ◇◆◇  ◆◇◆  ◇◆◇  ◆◇◆ ◇◆◇




「とりあえず、順にから言おう。

 約十年前に、ウチの一番上の姉貴が、今のオレ達のように《カシマさん》を呼び出した。

 その結果と噂から疑念を持った姉貴は、恋人に相談して、幾つかの検証をした。

 それを束ねて、数年前に二番目の姉貴が質問をしたわけだ。」

『なんだよね~。

 ここ十年、毎年のように呼び出されてるから、何かと思ったんだけどね。』

「・・・ある意味で、霊能者って意味じゃないが、プロだからな、義兄にいさん。

 一応、刑事時効過ぎたけど、どうする?ぴんぴんしてるけど。」

「ちょちょちょ、マテマテマテ、エバスケ。

 まず、お前は普通に見えて話せるのは知ってるが、オレらはどうして見えてるの?」

 そうだよね、小さい頃・・・覚えてる範疇でも、そういうの、血まみれオジサンが立ってるのとか、親戚の死んだおばさんが来たとか、そういう類のことは一切無い。

 少なくとも、覚えてる範囲では、上の弟がそういうこと言ってたことがあるぐらいで、私自身はそうじゃないはずだ。

 マリやサナとは、高等部に入ってからの付き合いだけれど、そういうことを言うタイプではないと思う。

 どっちかと言えば、マリのほうは、さっぱりとしてる性格だし、なんというか見えてても、気にせずぶん殴るようなタイプだし。

 サナの方は、あらあらまぁまぁで、済ませそうというか、見えてたら天然発言であっさり言いそうな気もする。

 マサにしても、脳筋というまでは酷くないが、ゲームっぽく言えば、INTよりSTRにステ振りしてそうなタイプだし、今の発言からすれば、見えてなかったのがいきなり見えてしまった感じだし。 

 「分からん。」 

 『一応、補足はしよう。

  専門用語、ではないが、円形コーン・沈黙区域サイレントと呼ばれる現象だよ。

  ・・・章太郎しょうたろう、数年ぶりか、存在していて何よりだ。』

黒板の上のスピーカーから、低めの女性の声が流れる。

ハツラツとか、明るいとかって雰囲気とは全然円が無さそうな、だけど、とっても楽しげ ・・・ニュアンスになるけど、愉しげな声だった。

『えっ?メルちゃん?』

『そうそう。』

 「あ、あの、質問いいですか?」

 『私の正体関係以外なら、どうぞ。』

 「結局、カシマさんってなんだったんですか?」

 サナが、そんなことを聞いた。

 少々、迷ってからか、間が空いて説明しだした。

 要点をまとめるとこんな感じ?




 ・カシマさんこと、化島章太郎を殺したのは、この学園の教師。


 ・殺された理由は、別件の殺人事件の目撃者であったから。


 ・ちなみに、その殺人事件の被害者は未発見=殺人の立証ができない。


 ・化島を殺したという物証も、非合法なバーでの証言から得られたモノの為、表沙汰にはできない。


 ・私(=メル)も、同業の裏の人間から引き継いだ為、それが不文律。

  (そのバーのマスターが同業。)


 ・必然、カシマさんも放置せざるえない。表向きでも自殺で終わってるのだから。


 ・ついでに言うなら、カシマさんがここにい続けるのは、その犯人の執着のせい。


 ・犯人教師は、高校生ぐらいの男子生徒がそういう意味で好物。(別件殺人も、その関係)



 「・・・ど、どれくらいヤバイの?」

 『一般人にわかりやすく言うなら、大物政治家と大物ヤクザがタッグ組んで敵対してくるレベル?

  さばけない訳じゃないけど、極力やりたくはないわ。』

 なんというか、ライオンが子猫のネコパンチが鬱陶しいけれど、面倒だから動きたくないという感じが一番近いのだろうか?

 声だけで、ありありと解る。

 少なくとも、政治家とかヤクザとか、関わりたくない存在ではあるのに、彼女にかかっては子猫扱いだ。

 だけど、一応、日本は法治国家だ。

 「あ、あの。何で警察に届けないんですか?」

 『時効、過ぎちゃってるのよ。

  私が関わった時点で、面倒な諸々差し引いて、一年少しだったけどね。

  刑事事件・・・刑務所に送り込む云々はできないわね、民事でお金取れるかも怪しいし。

  人殺しに呵責を持たないクソヤロウに関して、穏便に済ませる理由はないからね。』

 この後は、話が早かった。

 時間も時間だったというのもあるけれど、本当に早かった。

 『まぁ、もうしばらく、僕は此処に縛り付けられてるだろうから。

  最後に一言。

  どんなことでも、終わりがあるし、その終わりは突然やってくるもんなんだ。

  君達にとってなんでもない今日でも、それは僕にとって生きたかった明日なんだ。

  反対されても否定されても、明日終わるかもしれないなら、後悔しない道を選んで。』

 そんなことを言って、カシマさんは消えた。

 消える前に、スピーカーに向かって何か言っていたようだけど。






  此処からは余談になるけど。


  夏休み明けに衛伴くんと私は付き合うことになった。


  サナは今まで以上に美術に没頭して、上のランクの美大を目指すことにした。


  マリも、高校で水泳を辞める気だったようだけど、目指せオリンピックなんて言うほどになった。


  マサも変わらないようで、それでもいつもどおりバカをやっていた。



  そうそう、夏休みの間に二人先生が亡くなっていたらしい。


  片方は、元々体が弱い年配の先生でそれは、普通に交通事故で問題は無いと思う。


  片方は、まだ若い三十代の理科教師で、あの日の当直だった教師だ。


  職員室で他の先生が話しているのを聞いた感じ、恐ろしい物でも見たようなそんな顔で事切れていたそうだ。







  私達は何かを忘れている。


  諦めることばかり覚えて、何かをがむしゃらにやることを。



  だけど、何かに向かって走ることは、みっともないことではないんだ、と私はその夏、彼に教えてもらった。







一応、2005年準拠なので、微妙に法律違うのです。

具体的には、凶悪犯罪への時効の撤廃前です。

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