第五話 面接
そうと決まると、バイト経験のある瑛子が店に電話を入れた。
相手が電話に出ると、声のトーンが変わる。それを、噴き出しそうになりながらじっと堪え、成り行きを見守る。
電話を切ると、瑛子がいつものトーンで話し始めた。
可笑しすぎるって!
「明日の三時に来てくれってさ。履歴書と写真が必要だよ」
「履歴書と写真ね」
「写真、撮りに行かなくちゃ」
「駅前に証明写真あったよね」
と話しているそばで、瑛子の様子がどこかおかしい。
「瑛子?」
京香と夏美が覗き込むと、顔が桜色に染まっているではないか。
「どうした?!」
「……超イケボだった」
“イケボ”とは“イケてるボイス”の略なのだ。
「耳が犯されるぅ」
もだえ喜ぶ瑛子を、思わず前と後ろからどつく二人だった。
翌日になると三人揃って駅前にいた。
三人とも同じ格好が良いだろうという事で、制服で面接に臨もうということに決まっていたのだ。それ故、今も暑いのを我慢して制服姿だ。
「暑いよねぇ」
「お店に入れば涼しいよ」
「涼しくなかったら、詐欺だよぉ」
そんなグチを言い合いながら、約束の時間には店のドアを開けた。
店内はひんやりと心地良かった。
「生き返るねぇ」
瑛子がオバサンのようなセリフを吐いている。
店内に通されると、まもなく店長らしき人がやってきた。更に、副店長だろうか、かなりのイケメンだ。
瑛子の背筋が急に伸びたのが分かった。
大したことも聞かれず、適当に笑いながらも面接が終了した。出されたジュースを飲み干すと、三人は宜しくお願いしますと頭を下げて店を後にした。
店を出ると、体中に真夏の熱気が纏わり付いてきた。
「うわぁ! 地獄だ!」
エアコンの中で体が冷えていた分、一挙に汗が噴き出した感じだ。
三人は急いで駅ビルに走り込むと、体の熱を冷ました。
「それにしても、イケメンだったよね」
「あの人が現れてから、瑛子の態度が変わったから、そう言うだろうと思ったよ」
夏美も京香も笑い転げた。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
「分かりやすいよねぇ」
「恋多き乙女なのよ!」
「恋多すぎる乙女でしょ」
三人の目が合い、また笑い転げる。箸が転がってもおかしい年頃というが、実際に箸を転がしてみたいものだ。
「これからどうする?」
「外、暑いものね」
「涼しくなるまで、この中ブラブラする?」
「そうだねぇ」
ということで、暑さしのぎにウインドゥショッピングだ。
何を買うわけでも無く、ブラブラと品物を見ては大笑いを繰り返す。
「一週間後位に面接の結果出るんだよね」
「一週間も待ってたら、夏休み終わっちゃうよ」
「早く電話来ないかなぁ」
「バイトすれば、毎日エアコンの中に居られるんだよね」
「それって、美味しいよね」
「中華だけに、美味しい!」
「そっちかぁ」
一週間と待たず合格の連絡が来て、三人仲良く過酷なバイト生活をスタートさせることになるのだが、今のところ誰もそのことを知る者はいないのだった。