第二話 それでもやっぱりガールズトーク(3)
「その顔は無いのね!」
瑛子が勝ち誇ったように手を叩いた。
「無くて悪いか! 瑛子みたいにコロコロと男を変えるほど、バカじゃないのよ!」
夏美の言う通り、瑛子はどういうわけか、次から次へと彼氏を変えているのだ。
どう見ても、それほどの美人というわけではなく、スタイルが良いというわけでもない。
それなのに、何故それほどまでにもてるのか、今世紀最大の謎だと囁かれている。
「コロコロ変えてるって、失礼だねぇ」
「じゃぁ、どのくらいで別れてるよ」
「長くて三ヶ月。最短、二週間」
「短かっ!」
「そういう京香は、今の彼とどのくらいよ!」
「だから、半年だよ」
「聞いたっけ。いくつの人?」
自分で質問していながら、忘れてしまうところが瑛子らしい。
「一人は大学一年で」
「ちょっと待ってよ、一人はって……」
さすがに聞き捨てなら無いと夏美が言葉を遮った。
「だって、二人と付き合ってるもん」
「……あんたたちって……絶対に変だから!」
「変なのは夏美だよ!」
と、二人に攻められる。
夏美の親は、夏美が中学生の頃に離婚している。父は、夏美の母を置いて、他の女性のところへと行ってしまったのだ。
母が言っていた
「私より若いなら理解も出来る! 私より綺麗なら、納得もする! あれは何?!」
夏美も一度だけ父親の彼女に会った事があるが、母と同じ疑問を感じたものだ。そしてそれ以来、夏美は男という生き物を信じていない。信じていない生き物とチューするなどとは、到底考えられないのだ。
「夏美は彼氏とどのくらい付き合ってるのよ?」
否定された悔しさからか、京香が食い下がってきた。
「付き合ってるって、訳じゃないけど……」
「付き合ってないの?」
瑛子が面白そうに覗き込んでくる。
「中学からの友達だから、よく分からないよ」
「中学って、中学何年よ」
「中学一年からだよ」
「わぁ、中学一年からの恋って。何だか、純粋過ぎるぅ」
瑛子が夢見る乙女に変身したその瞬間、毛むくじゃらのパリジャンヌが「ワウン」と言ったものだから大爆笑が起きた。
夏美と藤田一馬は、中学校で同じ部活だった。運動オンチでありながら必死で頑張る夏美を、一馬は気になる存在として意識していた。
入部して一ヶ月、部活で帰宅が遅れた女子を男子が送り届けるという事になった。恋愛話には付き物の設定だ。
この時もご想像通り一馬が夏美を送って行ったのだ。だからといって、素晴らしいほどの進展があったわけも無く。ただ、お互いの距離が縮まり、話しやすくなった程度だろうか。
あれから四年、どちらが告白したわけでもなく。何となくお互いに、他の誰かに目が行くことはなかった。
高校も何故か同じところを受験し、同じ様に受かった。これまた、恋愛小説にはよくある設定だ。
結局、お互いそれ以上意識することも無く、ここまで来てしまった為、手を握るとか、チューしようとか、更には先へ進もうとか。そんな気はさらさら無いわけだ。
(私と一馬は、今のままが一番いいのよ)
夏美は、ずっとそう思い続けてきたし、これからも変わらないだろう。
「ってかさ、高校二年にもなって、純粋ってキモクね」
思春期真っ只中の青少年の頭の中は、エロをエロと意識していないのか。経験が無いことに対して否定に走る。
「失礼だね、あんたは!」
「んーまぁ、世の中いろいろだからさ。大人は人のことでとやかく言わないものだしねぇ」
今度は京香が、経験者は大人なのだと仄めかす。
京香と瑛子の考え方の由来は知らないが、どうもこの二人は男性経験がある=大人である、と思い込んでいるらしい。
(Hしたら大人だって、どうしたらそんな考えになるのよ!)
とは思うものの、口で言っても二人を相手にしたのでは敵わないので、黙っているのだ。