第二十六話 ラブホ(4)
「一馬、次はあれやろうよ」
あれと言われて、夏美が指差す先にはエアーホッケーの台が設置されている。
「いいよ。どうせオレの勝ちだから」
そう言われては聞き捨てならないと、夏美が台に駆け寄る。
白熱するゲームの展開を楽しむ夏美と一馬。
冷房の効いた店内で、大きな柱の影に隠れるように、二人がゲームに興じる姿を見続ける京香と瑛子。
「なんかさぁ、なんで私たちあの二人を監視してるわけ? おかしくない?」
「だって、他に楽しいこともないじゃない。イケメンもいないし」
「そうだけど……」
結局夏美が寸差で負けたようで、悔しそうに地団駄を踏んでいる。
それをなだめるように、笑いながら夏美の手を取って歩き出す一馬。
「ちょっと! あれって!」
すごいものをみたといわんばかりの瑛子だ。
「あの二人が手をつなぐって、どういう展開があったんだろう……」
さすがの京香も理解に苦しむようだ。
更に尾行を続けていると、プリクラ機の中に入って笑っている二人を目撃した。
「あれって、どう見ても恋人同士だよね」
「夏美も女の子だったんだねぇ」
おかしな感想が口をついて出る。
「プリ機で撮るなんて、夏美と一馬では考えられないよ」
人生何が起こるか分からないと、肩をすくめる二人だ。その姿は高校生と言うよりは、中年のオバサンだろう。
プリクラを撮り終えると、カラオケ店へ入って行った。店内に入る二人を尾行しようにも、カラオケでは尾行のしようがない。京香と瑛子は、店先で夏美たちが出てくるのを待つしかないのだ。
「いっそ、店内に入って一馬にたかろうか」
炎天下の暑さから逃れるためなら、この尾行を断念するつもりの京香だ。だが、さすがは恋一筋の瑛子だけのことはある。二人のこの先を確かめることが重要なのだと、京香の行動を抑えた。
「だって、暑いし喉が渇いたよ」
「分かったよ。缶ジュースおごるから」
「マジ? サンキュー」
瑛子が財布からお金を出すと、京香が隣の店先に設置されている自販機に走り寄った。それにしても、一馬と夏美がどうなるかを見定めるために、炎天下をひたすら耐えて尾行している自分たちは、なんとも……。
「偉いじゃない」
瑛子は言うが、京香にしてみれば尾行するくらいなら、一緒に一馬にたかったほうが利益は大きいと思うのだ。
「あ! 出てきたよ!」
「もう、やめない?」
尾行に飽きだしている京香が言う。