第二十六話 ラブホ(3)
「あれって……絶対にありえない光景だよね」
「うん……昼間のお化けより、不思議な光景だよ」
そういうと、二人は頷きあい、近くにある看板に身を隠した。
「でも、何で隠れてるんだろう」
隠れはしたものの、隠れてしまった行動に動揺する京香と「それは、これから起こる前代未聞の事実を見定めるためでしょう」と、珍しくまともな意見を述べる瑛子だ。
二人は更に、視線を一点へと集中させた。それは、数日前に経験した取調室よりもはるかに胸躍る情景なのだ。
流れる汗、照りつける太陽。いつまでも、同じ店先で笑いながら品物を手にしている男女。
「あの二人って、あんなにベタベタした関係だった?」
「あ! 歩き出したよ」
「よかったぁ。もう少しで、干物になるところだった」
瑛子の干物では、誰も食べたくは無いだろう。
「あー、ゲーセンに入ったよ」
「そうか、一馬のヤツバイト代が入ったんだ」
思い出したように京香が唸る。別に唸るほどのことでもないと思うのだが。
先を行く男女は、今までの友の姿にあらず、まるで知らない男女のようにラブラブなのだ。
「一馬、これ取って」
夏美が指差すその先に、見るからに可愛げのない人形が山盛りにされている。
「相変わらず、ゲテモノ好きだよな」
「ゲテモノってねぇ。いわゆる可愛いものよりも、不細工のほうが可愛いんだよ」
「オレには分からないな」
そう言いながら、二百円をゲーム機に投入する。クレーンを目的の場所まで運び下げる。するとアームがひとつの人形をつかむ。
「わぁ、やったー。さすが、一馬!」
「ねぇ、夏美がユーフォーキャッチャーでぬいぐるみゲットしてもらって喜んでるよ。ありえなくない?」
なぜありえないのか理解できないが、二人にとってはありえないようだ。
「あれは、夏美の着ぐるみを着た他の可愛げのある女子ではないのか?」
京香が複雑な表情をしながら、瑛子を見た。瑛子も同感らしく、力強く頷いて見せた。




