第二話 それでもやっぱりガールズトーク(2)
「わぁ、パリジャンヌやめてー!」
飛んできた大きな毛むくじゃらは、「ワン!」と吠えながら京香へと喜びのアタックだ。
「これって……クマ?」
瑛子が面白そうに聞くと、
「クマじゃないわよ! ワンって吠えるクマがいるわけないでしょ」
ベロベロと舐めまわされながら、何とか反論してみせる京香だ。
「慣れてるねぇ。そのクマ」
「クマじゃないから!」
「で、そのクマの名前って、まさかのパリジャンヌ?」
「そうよ。ぴったりの名前でしょ」
どんなもんだと言いたげに、胸を張っているつもりで舐められている。
途端に二人が大爆笑だ。
「悪趣味だよー!」
「パリジャンヌって……そこまでして、笑いを取らなくてもいいでしょうに」
「誰が笑いを取ってるって! お昼作らないからね!」
「あははぁ……ごめん、じゃぁパリジャンヌの唐揚げという事で宜しく」
大笑いしながら、瑛子がパリジャンヌの料理方法を提案する。すると、夏美が参戦してくる。
「いや、どうせならパリジャンヌの鍋でしょ」
「何で?」
「クマの肉は鍋だろう」
「クマじゃないから!」
京香の反応に、更に大爆笑だ。
「でもさぁ、京香ん家って犬いなかったよね」
毎日のように沢渡家を訪問しているが、犬を見たのは始めてなのだ。
「二~三日前にお父さんがもらってきたのよ」
「普通もらってくるのって、仔犬だよね。これって、仔犬?」
暎子が不思議そうにパリジャンヌを見て言うと、
「急に飼い主が引越しすることになって、貰い手を捜していたんだって」
「へぇー。京香のお父さん、優しいねぇ」
瑛子と夏見が顔を合わせた。
さて、そんなこんなで落ち着いた三人は、大きなパリジャンヌを交えて車座になり、エアコンで涼みながら冷たいそうめんなどを頂いていた。
「やっぱり夏はそうめんだよね」
と、すすりながら夏美が言う。
「冷奴もいいよ」
瑛子が冷たいそうめんに、舌鼓を打ちながら応えた。
「そばもいいよね」
「夏といえば、フラッペでしょう」
急に話が飛ぶのが女子高生特有だろう。
「そういえば、京香の彼氏って格好いいよね」
瑛子がニヤニヤと笑いながら言ってきた。
「飛びついでにガールズトークですか!」
夏美がため息混じりに、瑛子を見た。
「どうせなら、そこまで飛んでみようかと」
「もう、別れたでしょ」
夏美が冷やかした。
「失礼ね! 別れてないから!」
「付き合ってどの位?」
瑛子が楽しそうに聞いてくる。
三人が友達になって一年と一学期が過ぎたが、瑛子がこの手の話を好むのは変わらないらしい。
「半年経つよ。瑛子は?」
「うーん……一ヶ月」
「え! 二ヶ月前に付き合ってた彼氏は?」
「それって昔過ぎて忘れた」
「忘れるなよ!」
こういう話になると着いていけないのが夏美だ。
夏美にも彼氏と呼ぶべきかどうか分からない存在がいるのだ。
しかし、友達以上彼氏未満の付き合いが長きに渡っているのだ。
「夏美は?」
「……いるような……いないような……いないような、いるような」
「複雑ですなぁ」
「要するにいないんでしょ」
京香が冷たく突っ込んでくる。
「あぁ、そういうこと?」
言われると納得するタイプの瑛子。二人とも夏美の彼氏が誰なのかは良く分かっていながら、進展のない夏美を小バカにしてくる。
「勝手に決めないでよ!」
「じゃぁ、チューしたことある?」
「え……ちょっと」
二人の視線が夏美に注がれた。