第二話 それでもやっぱりガールズトーク(1)
「このままどこかに行く?」
教室を出ても寄り道の話で盛り上がる。
「どこかって言っても、お金無いし」
「あん? 瑛子バイトしてるって言ってたっしょ」
一学期が始まった頃、瑛子が「私、バイトする! もう、高校生だよ。バイトしなくちゃ! 立派な社会人になるために!」と拳を天に突き上げたことを忘れてはいない。
「止めた」
「えー!」
二人して大きな声で驚いてみせる。
「あんた、あんなにバイトしないと大人になれないみたいなことを言ってたじゃない!」
「そういう夏美だって、バイトするって言ってたじゃん!」
「面接は受けたけど、落ちたもん」
「そりゃしょうがないね」
二人のやり取りを聞いていた京香が納得したように頷いた。
「京香は?」
「秋から考えよう」
「何が秋からよー!」
二人に攻められるはめに陥る。
「結局ボンビーな夏休み」
夏美が言うと。
「なんか、語尾に音符ついてなかった?」
瑛子が突っ込む。
「どうしてだろうね」
「同類だからかなぁ」
別に嬉しいわけでもないが、やはり仲間がいると思うと安心するためか、心が軽くなる。これが自分だけがバイトもできないでいたのでは、なんとも居心地が悪いではないか。ということで、三人そろって「そうだねー」と傷の舐めあいだ。
そんな話をしていた三人の行くべきところは、一番近い家で、エアコンで涼みながらのんびりできる場所ということで話が決まったのだった。
「うちらって相変わらずだよね」
「ボンビーだからしょうがないよ」
「そのボンビーたちはお昼をどうするつもりよ!」
家とエアコンを提供することに決まった京香が聞いてきた。
すると二人の足がぴたりと止まり、京香を指差す。
「えー! 誰が作るのよ!」
又しても、京香を指差すのだ。
「冗談じゃないよ! 台所は暑いんだからね!」
「だって、作れないもん」
当たり前だと胸を張る瑛子。
「私も同じぃ」
夏美が同調する。
「覚えろよ!」
「他人の台所をうろつくのは、礼儀としていかがなものかと……」
夏美が言うと、今度は瑛子が頷く。
「何が他人の台所よ! しょっちゅう来てるくせに!」
「あ! 私、二百円持ってるからジュースを提供するし」
瑛子が胸を張って見せた。
「じゃぁ、私は……友情と愛情を提供しよう!」
夏美が笑顔で言い切ると、そろって二人に「要らない!」と返された。
転がるように笑いながら、歩みを進める。
京香の家に着き玄関の鍵を開けて、室内へと一歩を踏み込む。すると家の中がどことなく涼しく感じた。
「なんか涼しいね。どこか、開いてるの?」
夏美が漂う冷気にほっとしながら、京香に聞くと。
「non、今に分かるから」
冷気の元へと三人が踏み込むと、部屋の真ん中に大きくて白い、毛むくじゃらな物体が転がっているではないか。どうやら、毛むくじゃらの為にエアコンをつけているらしい。何てゴージャスな生活をしているのだろう。
「あれってもしかして」
夏美が足をぴたりと止めて、その物体を見ていると、うっとうしそうに毛むくじゃらが動いた。
一人寂しく日中を過ごしているのだから、家人が帰ってきたときの喜びはひとしおだろう。毛むくじゃらなそれは、三人を確認すると大喜びで飛んできたのだ。