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第十一話 パーティ(2)

 しばらく三人で、冷たいものを食べながら先生の話やイケメングループの話をしていた。もちろんイケメン話しの主役は瑛子である。どのクラスの誰がイケメンで、どこに住んでいるか、誰と付き合っているか、詳しく知っているのだから、ストーカーなみだ。


 女子のそんな話を聞いているのかいないのか、部屋の隅で一馬はパリジャンヌと遊んでいた。とりあえず暑くないので、それだけで全てが許せるようだ。

そんなこんなで時間が過ぎ、時計の針が昼に近づいた頃、京香が立ち上がった。




「パーティの準備をしてくるからね。瑛子手伝ってよ」




と有無も言わさず、瑛子を引っ張って部屋から出て行った。


 そうなると、必然的に部屋には夏美と一馬の二人っきりになった。いや、二人と一匹だ。




「あ!」




 その一匹の存在に気がついた京香が小さく叫んだ。




「何よ! ビックリするじゃない」


「パリジャンヌを置いてきちゃった」


「別にいいんじゃない。あれはあれで居ても居なくても」


「存在感が無いみたいに言わないでよ」


「二人の距離を縮めるための時間だからさ。パリ……パリィミキが」


「パリジャンヌ!」


「あぁ、それ! それが居ても居なくても、あんまり関係ないんじゃない?」


「そうかなぁ」


「私なら、関係ないな」


「瑛子はそうだろうけど、夏美だよぉ」


「夏美だって、女の子じゃん。藤田だって男じゃん。男と女が狭い部屋に二人っきりだよぉ」




 瑛子の目がいやらしそうに細くなる。




「そうかなぁ。そんなに簡単に行くと思う?」


「行くよ! 私なら!」


「瑛子はね!」




 憮然とした面持ちで、二人は視線をぶつけ合った。




「じゃぁ、見てこようか」


「……うん、そっとね」




 台所から、京香の部屋の入り口へと移動する。ドアの向こうには、若い男女が居るのだ。そこで繰り広げられているであろう事を想像しながら、二人はドアに耳を寄せた。すると、中からは―――。





 無言。




 京香と瑛子が視線を合わせ、お互いに首をひねる。


 瑛子の考えは、無言で抱き合っているという想像だ。しかし、京香はどうも納得がいかない。そこで、更にドアに耳を押し付けてみた。その行動がいけなかった、しっかりと閉まっていなかったドアが、ギッと音を立てたかと思うと、お約束の如く大きく開かれ、可笑しな格好の瑛子と京香が倒れこんできたのだ。


 驚いた夏美と一馬が硬直していた。その横で、パリジャンヌが「ワン!」と一声吠えたかと思うとあまりのことにプチパニックを起こしたのか、自分の尻尾を捕まえようとぐるぐると回りだした。


 京香は倒れ込みながら、夏美と一馬の行動をスローモーションのように、脳裏に焼き付けていた。


 その光景は、二人の計画にはあってはならない姿だったのだ。




「何してるの?」




 急に開いたドアに驚きながらも、夏美がやっと声を出した。




「体張って、ギャグしなくてもいいよ」


「ギャグじゃないわよ!」


「本当に付き合ってるかどうか、二人の行動をウォッチングしてただけよ!」




 瑛子が立ち上がりながら、勢いよく応える。その言動を聞いた京香が思わずパンチだ。




「痛い! 京香、ぶつこと無いじゃない!」




 二人の小競り合いを眺めながら、一馬が納得顔だ。




「お前ら、そういうのを何て言うか知ってるか?」


「え? 何?」




 瑛子が目をキラキラさせて一馬に聞いてきた。




「デバガメって言うんだよ」


「デバガメ? どんな亀よ」


「瑛子! あんた、本当にバカでしょ!」




 京香がため息を吐いて瑛子を睨んだ。同じ高校に通っていることが信じられないといった風だ。




「バカじゃないわよ!」




 騒ぐ瑛子を放って、京香が一馬に言った。




「デバガメじゃないわよ。似たようなことはしてるけど」


「じゃぁ、なんだよ」


「あんた達が、本当に付き合ってるように見えないから、少し雰囲気を出してあげようと思っただけよ。そしたら、瑛子がさ……」


「私のせいじゃないわよ!」


「お前ら……」




 一馬が不愉快そうにため息を吐くと、夏美が呟いた。




「涼しいから、いいじゃん」




 珍しく噛まずに言葉を発した夏美に驚き、三人の視線が一斉に夏美に集中した瞬間だった。





「それにしても、せっかく二人っきりにしてあげたのに、あれは無いよね」




 京香がさっきの二人の状態を思い出して笑った。




「何してたの?」




 瑛子は、倒れ込むときに目を固く閉じてしまったので、何も見ていないのだ。




「何って、オレはパズルしてたよ」




 とクロスワードパズルの雑誌を取り上げて見せた。




「私はクマと遊んでたよ」


「クマじゃないから!」


「あぁ、はいはい。パ・パンドラの箱と遊んでたよ」


「わざと間違えようとするな!」





 結局、二人の悪巧みは成立することなく、夏の一日が暮れていったのだった。



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