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第十話 パーティ(1)

 翌日も暑さは変わることなく夏真っ盛りだった。


 夏美は自転車を走らせ、早急にエアコンに当たるべく頑張っていた。


 通いなれた通学路を右に折れ、左に曲がれば京香の家だ。こういう時につくづく思うのだ。




(遠くの学校でなくて良かったー!)




 なぜなら、遠くの学校なら友達も遠距離になる。すると遊ぶのも遠距離で遊ぶことになる。冬は寒く、夏は暑い。そんな中を友達に会う為に移動しなくてはならないのだ。




(冗談じゃないよぉ)




 基本的に、夏美は面倒臭がりだ。遊びに行くことすら、面倒臭くて約束を破りたくなるくらいだ。しかし、さすがに約束を破れば喧嘩になるので、それはしない。例外を除いては……。




(うん、例外例外。一馬は別に、約束破っても怒らないしねぇ)




 藤田一馬なら夏美の性格を知り尽くしているので、怒ることは無いのだ。それどころか、基本的に約束はしないと決めているらしい。




(あー! 暑い……)




 信号で自転車を止めると、ドバッと汗が噴き出てくる。今まで風を切って走っていた心地良さが、一挙に灼熱地獄へと変わるのだ。




「死・ぬぅ……」




 ハンドルに両腕をついて、恨めしそうに信号を眺める。




(早く信号が変わらないと、焼け死ぬぞぉ)




 などと思っていると、夏美の脳内劇場が幕を開ける。





 炎天下、自転車を止める自分。


 信号は赤!


 じりじりと照りつける太陽。


 もうだめだぁ。


 体中の水分が蒸発して、干からびて……。




(ヤバイ、グロイグロイ……ハハッ)




 さて、信号が変われば京香の家はもうすぐだ。




(もうすぐだぁ! エアコンだぁ!)




 大汗を流しながら、京香の家の呼び鈴を鳴らす。




(これで留守だったりしたら……考えただけでも恐ろしい)




 と、思っているとドアが開き、涼しげな京香が現れた。




「ハロー……あづい……」


「あ! 人違いです。さよなら」




 京香がドアを閉めようとした瞬間、夏美の右足がドアの隙間に滑り込んだ。




「あ、あらぁ、夏美さん。地獄のゾンビかと思ったよ」




 あまりの形相に間違えたと大笑いだが、夏美はそれどころではない。




「いいから、早く家に入れろー……ぉ」


「本当に死にそうね」


「外に出てみれば分かるよ」


「面白いから、もう少しここにいる?」


「殴るよ!」




 そのリアクションに大喜びしながら、ドアを大きく開けてくれた。


 すると、中から暑苦しくも大きな毛玉が走ってきた。




「止めろ! パトラッシュ!」


「誰がパトラッシュよ! パリジャンヌ、ダメだよ。病気が移るからね」




 家の中に踏み込むと、かなりの温度差を感じる。死んでいた体が生き返るようだ。




「誰が病気よ!」


「さっきのは、病気だとしか思えなかったわよ」


「この暑さの中、自転車飛ばして来たんだからね! 死にそうになるのも当たり前じゃない」


「瑛子も藤田も、夏美ほど酷くは無かったわよ」




 部屋のドアを開けると、そこは天国だった。そして、その天国に涼しげな顔をした瑛子と一馬が座り込んでいたのだ。




「なんだ、早かったんだぁ」


「二人とも九時半には来てたよ」


「そうなのぉ?」




 一馬が頷き、瑛子が笑う。思い過ごしか、パリジャンヌまで笑ったように見える。




「さて、メンバーも揃ったし、暑気払いパーティの開催と行きますか!」


「暑気払いパーティって、何するの?」




 夏美が不思議そうに京香を見ると、京香が意味ありげに笑ってみせる。




「大人なら、グイッといくところだろうけどね」




 とジョッキを持つ真似をした。




「あぁ、ビールね。じゃぁさ、これは?」




 瑛子がタバコを吸う真似をする。




「タバコ! って、あんた何してるのよ! ジェスチャーゲームじゃないんだからね!」




 京香が瑛子を軽く睨んだ。その間、一馬は何をしているのかと視線を投げると、涼しげにエアコンを眺めている。




「藤田ぁ、何見てるの?」




 瑛子が一馬の視線を追いかける。




「いやぁ、涼しいなぁと思ってさ。俺んち、経費節約とかってエアコンつけると親に怒られるんだよ」


「厳しいねぇ」


「うつぃも同じだよ」




 夏美が話しに入ってきたが、言葉がおかしい。すかさず、瑛子が夏美の真似をする。




「うつぃも同じだよって、何噛んでるかねぇ」




 一馬と二人だけなら、言葉を噛む事などないのだが、どうしてか、京香と瑛子が一緒だと噛むことが頻発するのだ。




「藤田のこと意識しすぎてるんじゃないのぉ? やっぱ、彼氏だからぁ。私たちに捕られたくないって意識だったりするぅ?」




 瑛子は、逆に一馬が一緒だと語尾を延ばす癖があるようだ。もちろん、これは一馬に限定されるわけではなく、男子が傍にいると決まって、この話し方になるのだ。語尾を延ばすくらいなら、まだ許せる。酷いときには、体がくねくねと動き出す。それは、まるで悪いものでも食べたのではないかと聞きたいくらいだ。


瑛子のそんな癖を、最初は眉を寄せて否定したが、今となっては諦めているのだ。なにせ、瑛子なのだから。




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