第九話 招待状(2)
『明日の昼間って忙しい?』
「京香からだ」
「オレもだ。一斉送信したな」
「別に忙しくないけど、何だろうね」
「どうせ、ろくでも無い事考えているんだろ」
「結構、京香のこと嫌いでしょ」
「いや、キライじゃないよ。友達だから」
「ふーん。さて、何て返事をしようか」
しばしメールの文字を眺めていたが、京香の意図が読み取れないまま返信した。
『忙しくは無いけど、何?』
すると一馬が「お前たち、バイトは?」と聞いてきた。
「次のバイトは明後日だよ」
「いいなぁ、暇で」
「来週からは四日入るって言ってたよ」
「そうかぁ、オレは五勤なんだよなぁ」
「ゴキン?」
「五日勤務だよ」
「なるほど」
そんな会話をしていると、京香から返信が届いた。
『明日、パーティするから。我が家に集合されよ!』
「変な日本語だね」
とメールの文を読みながら夏美が文句を言ってみる。
「何のパーティなんだ? 誕生日ならプレゼントくらい用意しないとならないだろう」
「お金ないよ」
「聞いてみたら?」
「うん、続きがあるけど、読まずに聞いちゃう?」
「続き読んでからでいいよ」
「あ! やっぱり? 気が合うねぇ」
「普通だよね、それって」
至って真面目な一馬に、せっかくのボケをスルーされて、多少の隙間風を感じながら続きを読むことにする。
『時間十時! 以上、必ず参加すること!』
「何のパーティか書いてないね」
「何のパーティか分からないなら、放置してもいいかな」
「一馬のところにも同じ内容が来てるの?」
「まだ返信してないから、何も来てないよ」
「どうするの?」
「……面倒だなぁ」
二人でケイタイを眺めていると、一馬のケイタイが鳴った。開けてみると京香からだ。
「返信してないのに来たね」
「結構気が短いヤツだな」
「まだ、京香の性格分かってないんだぁ」
夏美が面白そうに笑って見せた。そんな夏美を横目で見ながらケイタイを開いてみると
『明日、暑気払いのパーティやるから必ず来ること! 場所 沢渡家 時間 十時!』
「あぁー、命令されてるねぇ」
一馬のケイタイを覗いていた夏美が面白そうに目を細めた。
「お前だって、同じ様なもんだろ」
「京香の家ならエアコンがあるから」
「そこかよ」
「それが一番でしょ!」
「まぁ……そうだな」
『了解』と返信を打つと、忘れていた暑さが甦ってきた。
「あ・づ・いぃ」
視線を外に向けると、熱せられた空気が揺れるのが分かる。
「本当は涼しい!」
ひときわ大きな声で吠えてみるが、暑さは飛んで行かなかった。
夏美の可笑しな行動を見て、一馬が笑っている。
近くて遠い、微妙な距離を保ちながら、時間がゆっくりと流れていく。