第七話 彼氏、一馬(2)
「何って、五階にあるゲーセンだよ」
「ゲーセンで何してるの?」
「椅子に座ってるだけだよ。お客が何か言ってきたら動くんだ」
「何よ! それでお金もらえるって、おかしいじゃない! 不公平だよ!」
瑛子は、そんな美味しいバイトがあるなら、自分が先に行けばよかったとばかりに文句を言っている。
夏美は、一馬がバイトを始めたのも、どんなバイトなのかも全て知っているだけに、黙って事の成り行きを観察していた。
「藤田ぁ。そのバイトいつからやってるの?」
他人の彼氏でも関係なく、名前を呼び捨てにするのも、高校生ならではだろう。
「いつからって、一年の頃からやってるよ」
「そうなんだぁ」
瑛子が、ちょっと見直したぞという感じで一馬を見た。
「夏美、知ってたの?」
「うん、知ってるたよ」
「何、噛んでるのよ」
「あ、別に……」
京香が面白そうに、夏美を見ていたと思ったら、一馬にじっとりと視線を投げてきて、ボソッと呟いた。
「お・ご・れ」
その呟きに誰もが一瞬かたまり、次の瞬間には笑いが炸裂した。そして、笑いが収まる頃には、一馬の了解を得ずに
「ソフトクリームのストロベリーね」
「私はバニラとチョコのマーブル!」
「私は、バニラにチョコチップ入りがいいな」
と、注文が出揃っていた。たかられ放題の状態で、困った顔をしているが、さすが同級生かつ友達だ。ここで、断ったら恐ろしい事になると分かっている一馬は、地下へと降りて行ったのだった。
結局四人が別れるまで、一馬と夏美の恋人らしい会話は皆無だった。
「ねぇ、一馬と夏美って本当に付き合ってるの?」
別れなしに瑛子が一馬に聞いてきた。
「多分」
言葉少なに一馬が応える。
「夏美ぃ、本当に一馬と付き合ってるの?」
「多分……ね」
夏美も言葉少なに応えるが、それでも“ね”一文字分多い。
「何かさぁ、いつも一馬と夏美が一緒にいるけど、どう見ても友達同士にしか見えないんだよね」
「そう?」
「腕組むとかさ、肩を抱くとか無いわけ?」
思わず二人が目を合わせ、同時に同じ言葉を吐き出した。
「無い!」
あまりの力強い否定に、さすがの瑛子も謝るしかない。
「いいじゃないの。こういうカップルもいるよ」
京香が横から、さらっと流すように言葉を挟んで、この話は終了となったのだった。
それにしても、一馬と夏美。この二人の関係は、中学生の頃から何も変わっていない。お互いの家に遊びに行って、お互いの両親を知っているが、だから何があるわけでもなく、二人で一緒にいてもゲームを楽しんだり、音楽を聴いたり、パソコンに向かったりしているだけなのだ。
発展無しだと瑛子や京香が言うが、夏美は今の距離感が一番楽だと思っている。そして、一馬も同じ様に思っているのだろう。
駅ビルを出ると、日が傾いていた。
四人はそれぞれの方向へと散らばって行った。
まだ夏休みは始まったばかりだ。