表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/46

第七話 彼氏、一馬(1)

 駅ビルに入ると昨日同様、エアコンが体温を下げてくれる。その冷気は、節電だと騒がれていても、極度に熱を浴びた体に気持ちが良い。




「あー、涼しい。やっぱり、駅ビルは涼しいよねぇ」




 夏美が専門店の並ぶ広場めがけて歩きながら、喜びの声を上げた。




「バイトしてそのまま帰っても、家の中は暑いもんねぇ」




 そうなのだ、バイト先からそのまま自宅に帰っても良いのだが、とても暑くてその元気が無いのだ。唯一、京香だけは涼しい我が家に帰れるのだが、今この瞬間にそれを口にしたら、どうなるかは分かりきっている。




「あのお姉さん、山下さんって言うんだね」


「そうなの?」




 夏美が話題を提供しても、瑛子は上の空だ。




「綺麗な人だったよね。優しそうで」




 京香が、よく名前覚えたねと不思議そうに夏美を見ている。




「名札見たからね」


「あぁ、名札かぁ。それにしても瑛子ってば、露骨だよね」




 なるほどねっというように京香が頷き、瑛子の方に話を振った。




「え! 私の何が露骨なのよ!」




 自分の動向に露骨な点など微塵も感じられない瑛子が、眉間にしわを寄せて京香を見た。




「副店長だと興味ありありって感じでケイタイ覗き込んだのに、店長の名前だと全く興味無しって感じだったものね」


「そうそう、露骨・ろっこつぅ」




 夏美も同意見のようで、わけの分からないことを言いながら、大きく首を上下に動かした。




「そんなこと無いわよ!」


「じゃぁ、店長の名前覚えてる?」




 意地悪そうに、夏美が突っ込む。




「え……えっと……」




 目を宙でウロウロさせているが、全く思い出せない様子だ。




「ホラね」


「じゃぁ、副店長は?」


「荒木素也!」


「ね! 露骨でしょ」




 そういって、大笑いするのだ。




「酷い!」




 三人で大口を開けて笑っている時、背後から声がした。どこかで聞き覚えのある声だ。三人が振り向くと、高校生にしては背の高い、スポーツマンタイプで、決してイケメンではない男子が立っていた。




「ビックリしたぁ!」


「藤田じゃん! どうしてここにいるの?」




 京香が親しげに藤田と呼ぶ彼は、夏美の彼氏だ。そして、三人の同級生なのだ。




「オレ、ここでバイトしてるから」


「こんな涼しいところで?」




 瑛子が驚いて見せるが、自分たちも涼しいところでバイトしてきたばかりだ。




「あぁー、確かに。涼しすぎるほど、涼しいね」


「何のバイト? 働いてたらエアコンが効いてたって、動くんだから暑いでしょう?」




 瑛子が偉そうに胸を張って異論を唱える。別段、汗をかくほど動いたわけではないが、そうでも言わないとプライドが崩れる。そして、仕事に慣れれば必然的に暑い思いをして働くことになるのだ。それなのに、同級生が涼しいバイトをしているのでは、あまりに不公平だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ