第一話 夏休み(1)
女子高生の夏休みをテーマに書いてます。
娘に読ませたところ、笑っていました。
ということで、楽しんでもらえたら嬉しいな~^^♪
うだるような暑さ。
ギラギラと照りつける太陽。
うるさいくらいに鳴き騒ぐセミたち。
教室の窓が全開になっているというのに、全く風を感じることが出来ない。
暑い……。
流れ落ちる汗と、べったりと張り付くブラウス。
(これじゃ男子、大喜びだよね)
何て事も考えてしまう。
誰もが前を向き、教師の話を聞いているように見えて、誰も聞いていないのが分かる。
ただただ暑さを堪えながら、早く終わることだけを祈っているのだ。
しかし、残念ながら教師は嬉しそうに夏休みのシオリなるものを読み上げている。その声は、いつになく張りがあり、余計に暑苦しい。
(頑張るよねー。誰も聞いてないっつーのに。あー、あづいよー)
榎本夏美はそんな事を考えながらも、一応は前を向いていた。
「という事で、事故の無いように。新学期にはみんなの揃った顔が見られるようにしてくれよ」
教師が締めくくりの、挨拶のような言葉を口にすると、日直が元気に号令を掛ける。すると、教室中が一斉に椅子を蹴って立ち上がる。
「おい日直。まだ終わりだとは言ってないぞ」
苦笑いしながら、教師が教壇の上の書類を纏めだした。
日直は聞く耳が無いのか、そのまま「礼!」と大声で言うと、教室中の生徒の頭が動き、夏休みが始まった。
「ヤッホー! 夏休みだー!」
「海だ! プールだ! ハワイだぁ!」
「日本のハワイだろぉ」
と言いながら、大笑いしたり奇声を上げたり、誰もが夏休みのスタートに歓喜の声を上げている。
もう誰も、暑いことを気にする者などいないかのように、教室中が清清しい熱気で満ち溢れた。
「夏美ぃ。これからどうする?」
友達の沢渡京香が声を掛けてきた。
京香と一緒にいるのは仲良しトリオの南光瑛子だ。高校に入ってから、三人は仲良しトリオとして、ずっとつるんできているのだ。
京香は、頭が良く学年でもトップクラスをキープしている。それでいながら、言ってることは、今風のJKそのままなのだ。
その真逆に、瑛子はお色気ムンムンの女子で、女性に生まれてきたことを堪能しているようだ。成績の方は下から数えた方が早いだろう。
さて、夏美はというと、二人の中間と言えばよいのか。サバサバとした性格はまるで、性を超越している。普段から、ボーイッシュな服装で、あまり物事に頓着しないようだ。
「これから?」
「せっかく早く終わったんだからさ。どこかに行こうかって思ってさ」
京香がキティちゃんの団扇で扇ぎながら、夏美の前の椅子に座り込んだ。
「どこかって言ってもね。どこへ行っても暑いよぉ」
「夏だもの、暑くて当然でしょう。ってかさ、夏美は夏生まれでしょ。何で夏に弱いかねぇ」
キティちゃんの団扇が生暖かい風を起こす。京香は夏美に向かって団扇をパタパタと動かした。
「生まれてくる時に、暑い中頑張りすぎたから、暑いのが嫌いになっちゃったんだよ」
と、適当なことを言ってはみたが、実際どうやって産道を通ってきたのかなんてことは、覚えているわけがない。
「夏美は口から先に生まれたんじゃないのぉ」
瑛子が面白そうに口を挟んできた。