城は不時着いたしました
ありのままに起こったことを説明いたしましょう。
朝起きたら、部屋が真横になっていました。えぇ、説明が意味不明だという意見はごもっともだと思います。だって、私ですら状況を理解できていないので……
「魔王様。どういうことでしょうか?」
城の外でテントを張り、動揺している二人のメイドを何とか静めたメイド長は、改めて状況を確認する。
外に出てみれば、魔王城は地面に突き刺さるようになっていて、周りには平原ばかりで何もない。
この世界の特徴として、各都市間の間が異常に広いのだ。
各所にある転移魔法を応用した転移所などの関係でバカ正直に歩くよりはよっぽどかましなのだが、転移所を使わずに歩くとすれば隣町まで一年というのも長くないという。
それほどまでに広い、この世界において地図もなくさまようというのは死に相当する。幸いにも真横ながら城は残っているのでこれさえ復旧させられれば何とかなるのだろう。
「うむ……魔力系統の不具合か……それとも外的要因かどちらかだろうな」
「いえ。この前の嵐の際に魔力を大量に消費したため魔力切れではないでしょうか?」
「…………」
魔王は完全に言葉に詰まっていた。
正直認めたくないが、メイド長の言葉は的を射ている。真面目な話、この前の嵐のときにかなりの魔力を消費し、予想より早く魔力切れを起こしたのだ。
そもそも、魔力というものは森羅万象、100パーセント自然由来のもので魔族を始めとした魔力を使える生物は自然にその気を吸収することができる。
その回復時間はかなり個人差があるのだが、再び魔王城を飛ばすとなるとそれなりに時間がかかるだろう。
「まぁ原因については置いておいて、落ち着いたら城内を点検して回りましょう。城の設備の不備の可能性も否定できません」
「いや。安全を確保するために私一人で行く。メイド長はここでメイド二人とともに野営の準備をしてほしい」
「かしこまりました」
メイド長が頭を下げているのを横目で確認した魔王は、城に向けて歩き出す。
原因は間違いなく自分の魔力切れかもしれないが、それを知られるわけにはいかない。そうなると、計画性がないとか言われかねない。
なんとしても説教を避けたい魔王としては、城の中で原因を見つける……というよりでっちあげるのが最優先事項となっていた。
「しかし、どうしたものか……」
改めて城に近づくとどうして原形をとどめているのか不思議な状態だ。
はっきり言って半分ほど地面の下なのだが、城自体に損傷は見られない。というよりもこの状態になってもなお、普通に朝まで寝ていた自分たちの寝つきの良さはなんなのだろうとまで考えてしまう。
「さて、どこから調べるか」
奇跡的に入り口は地上に出ているため出入りは苦労しない。
廊下を進んだりということに関しては、魔法を使えば浮遊できるためなんとかなるだろう。
ここで立っていても仕方ないと魔王は、扉を開けて中に入る。
中の家具はなぜか、メイド長が非常に強力に固定していたため、棚の中のものが落ちているだけで棚自体がどこかに動いているということはなかった。
向かって下に見える壁に叩きつけられて割れているツボや銅像が墜落の激しさを物語っている。
「とりあえず下へ向かうか」
地下には城を動かす原動力となっている装置が置いてあるはずだ。
何代か前の魔王が設置したもので詳しい仕様までは伝承されていないが、城の基本機能の修理ぐらいだったら自分でもなんとかなる。
しかし、これほどのハイテクノロジーを積んだ城は、いったいどこから来たのだろうか。
もともと、この城はかついていた世界とはまた別の世界にあったのだという。魔力さえ供給すれば空を飛び、海に潜り、異世界への移動すら可能なのだ。
こんな城が何千年も前から存在するなどとは到底信じられないが、それが事実なのだから仕方ない。
魔王は、深く思慮しながらすっかりと暗くなった廊下を下へと進んでいった。