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元勇者様はメイド長  作者: 白波
一章 魔王城は人手不足でございます
7/10

城は嵐の中にございます

 さて、飛び立ってから二日が経とうというこの日。

 魔王城は嵐のど真ん中を突き進んでいた。


「メイド長! 本当に大丈夫なんですか?」

「さー」

「落ちたりしたらどうしましょう?」

「さーねー」


 フーが仲間になりた……もとい、心配そうな目でメイド長を見つめていた。

 当のメイド長と言えば、遠い目をして生返事を返すのみである。


 それが返って不安をあおっているようでますますフーの顔は真っ青になって行った。


 自身の行動がメイドの不安をあおっているなどとつゆほどにも思っていないメイド長は、相変わらず一点を見つめていた。

 彼女の視線の先には、力強く空を飛ぶドラゴンが見えていた。


 最初は、稲光でも見間違えたのかと思ったが、それが真っ赤なわけがなく赤いドラゴンに目を奪われているということだ。

 確か、どこかの資料によるとドラゴンというのは常に嵐を伴って移動するものらしい。つまり、今まさに城を襲っている嵐はあのドラゴンがもたらしたものとみて間違いないだろう。


「メイド長! 大変なんですー!」


 フーがあたふたし始めたとき、これまた顔をこれでもかというぐらい真っ青にしたアクアが駆け寄ってきた。


「私のお菓子がー私が大切にとっておいたお菓子がー」

「城が……あぁこんな嵐に耐えられるのかな……」


 メイド長がドラゴンに見とれている横でメイドたちの手によって混沌(カオス)が形成されていく。


「フー! アクア! うるさい!」


 メイド長の声が響く。

 自分のせいでこの混沌(カオス)が形成されているなどとはもちろん知らない。


 二人のメイドのあわってっぷりにあきれながら冷静に事の対処にあたる。

 まずは、フーに城は落ちることはありえないと説明し、アクアに関しては新しいお菓子を支給するという形で折り合いをつけた。

 二人を落ち着けるために(普通の)笛を吹くことも考えたが、今は何かとそんなことをしている場合じゃない。


「さぁさ! わかったら、フーは南側、アクアは北側の窓を閉めて頂戴。私は東をやるから」

「西は開けっ放しですか?」

「何言ってるの? 魔王様がやられるにきまってるでしょ?」


 衝撃的な発言を残してメイド長は、その場から立ち去っていく。

 フーとアクアはしばらく動けないでいたが、またメイド長に叱責されたくないとの思いから普段からは考えられないような動きで行動開始したのだった。




 *




 二人のメイドが懸命に窓を閉めているころ、魔方陣を展開してある食堂の椅子に魔王が座っていた。


「失礼いたします」

「なんだ?」


 突然、入ってきたメイドの姿を見て魔王は、手に持って行ったものをとっさに隠す。

 メイド長は、しばらくの間魔王の方を見つめていたが、やがて軽くため息をついてから話し始めた。


「魔王様。とっくの昔にご存知かと思いますが、魔王城はただ今嵐の中にござます。ですので風雨が城の中に入らぬように西側の窓を閉めていただいてもよろしいでしょうか?」

「なんで私が!」

「いいのですか? もう少し嵐がひどくなれば結界を超えて執務室は風雨にさらされぐちゃぐちゃですよ。その場合でも片づけるのは“魔王様”ですからね」

「ぐっ」


 メイド長の指摘する通り、魔王の執務室があるのは西側で当然ながら、西に面した窓が存在する。

 今のところ、城の周りに張っている結界の効果で城内はいたって穏やかなのだが、彼女が言う通りこれ以上激しくなるとその効果も保証できない。


 そして、他の者にやらせようにもこのメイド長のことだ。自分も含めてすでに配置済みなのだろう。


「それは、西側すべてをやるだけでよいのか?」

「はい。当然ながら、魔王様に必要以上の負担をかけるつもりはございません」

「わかった。それでは行ってくる」


 結局、窓閉めに行くことになった魔王は、城の西の方へ向けて歩いていく。

 だが、この城の主であるはずの彼は知らなかった。


 この城において一番窓が多いのは以外にも南ではなく西であるという事実を……

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