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元勇者様はメイド長  作者: 白波
一章 魔王城は人手不足でございます
3/10

魔王様、整理整頓いたしましょう

 魔王の執務室では、魔王があまりにも散らかった部屋の片づけを始めていた。

 冷静に考えてみれば、メイド長がわざわざ散らかすように命じるはずもなく、足の踏み場もないようなこの部屋はすべて自分が散らかしたもので間違いなかった。


「えっと、これがこちらで……」

「いえ。その本はこちらの本棚に置いた方がわかりやすいかと……」

「そこには入らないぞ」

「こちらの書物をそちらに移せばよいと思います」


 とまあこんな具合にメイド長にアドバイス(指図)されながら整理整頓を試みているのである。


 そんなにごちゃごちゃと物の場所を言われるぐらいなら自分で片づけるとうっかり言ってしまったためにこんなことになってしまったのだと絶賛後悔中の魔王の顔は暗い。


「それにしても私一人で片づけるのか?」

「はい。ご存知の通り“少々込み入った事情”のため魔王城は大変な人出不足でございます。やはり、削れるところは削りませんと……」


 誰のせいで人手不足だと思ってるんだ! と抗議したくなるのをぐっと抑える。

 たぶん、言ったところで“私は仕事をこなしていたまでです”と返されるだけだ。


 こうなるんだったら、こんな奴雇うべきではなかったと後悔の嵐が訪れる。


「魔王様。手が止まっております」

「わかっておる。ところでこの書物は机の引き出しでよいか?」

「そうですね。魔王様にしてはとても珍しくベストなご判断です」


 余分な言葉がたくさん入っていたのは気にしてはいけないのだろう。というよりも気にしては負けてしまう。

 書類を机の引き出しに入れながら魔王はこの状況から脱する策を見出そうとしていた。


 そもそもの話、今すぐに解雇するといえばこの従順なメイド長はすぐにでも魔王城を出ていくだろう。しかし、先にメイド長が言ったとおり魔王城は魔王と彼女を含めたたった3人のメイドしかいないというかなりの人手不足だ。

 しかも、メイド長を除くメイドは魔王が声を上げればおびえて大騒ぎする始末でまともに命令もできない。そう……ほかに頼れる人材がいないのだ。


「ん? 人材?」


 そもそもこの城の問題は人材不足がおもであり、財源不足ということはない。つまり、人を雇えばいいのではないか。

 そうすれば、メイド長が教育を終えたタイミングで“今日まででもう来なくていいから”とでも言ってしまえばこれまで通りの勇者が城に乗り込む前の生活に戻れるはずだ。


「何をしていらっしゃるのですか? 手が止まっているようですが」

「いや。なんでもない」


 問題はどのタイミングで提案するかだ。恐らく、具体的な手段まで決めておかないとこのメイド長は納得しないだろう。

 魔王は、何とか手を止めないように努力しながら策を練っていた。


 今までで唯一魔王にふさわしい顔をしていた時だったとのちに彼は語る。


「さーさ。めんどくさいことは早く片付けるに限ります。私は部屋の掃除を始めますので続きをしていてください」

「うむ。そうさせてもらおう」


 素直に応じたら応じたでメイド長は一瞬、眉をひそめていたが、自分の職務に戻る。


「くっくっくっ……自分の過ちなど自分でただせばよいのだ……私は魔王なのだからな」


 魔王は必死に高笑いしそうなのを抑える。


 サーヤよ。お前がこの城にいられるのもあとどの程度だろうな……


 魔王の目ははっきりと掃除をするサーヤの姿をとらえていた。




 *




 なんだか魔王様の様子がおかしい。

 先ほどからサーヤはかなりの違和感を感じていた。いつもなら、減らず口をたたく魔王様が今日に限って素直に従っているのだ。

 気になって観察してみるが、彼はかなりの上機嫌で本棚を整理している。


 どうせくだらないことをたくらんでいるのだろうと考えたサーヤは、高みの見物を決め込み床を箒で掃き始める。


「それにしても掃除機がほしい……」


 どうせ今回のことで自分を追い出そうという考えにたどり着き、その手段を思いついたのだろうと予想はしてみるが、彼女にしてみれば魔王のたくらみ云々は結構どうでもよいことだった。


 窓を見ればいつの間にか降り出した雨が雨脚を強め、嵐が近づいていると感じさせているのだった。

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