魔王様、片づけぐらいご自分でなさってください
「まったく、こんな大切なものをこんな場所にほったらかしにして! どういうおつもりですか!」
「そっそれはだな……少し呼ばれてそちらに行っているうちに仕事がだな……というより、なぜ私がいちいち片づけなくてはならないのだ」
どこぞの平原のど真ん中にある魔王城で今日も怒声が響く。
怒号を上げている方の声の主は、元勇者にして魔王城のメイド長であるサーヤのものだ。彼女は、もともとどこかの世界から召喚の術式で呼ばれた人間で向こうの世界では西村咲夜と名乗っていたらしい。
ところが、それがこちらの言語では非常に呼びにくい名前のため結局、勇者サーヤと呼ばれているのだ。結局、彼女自身もそれを気に入っているため、今となってはこちらが本名のようなものだ。
さて、そんなメイド長の前で正座して開き直っている人物はかつて世界を恐怖に陥れた大魔王サタンである。目の前のサーヤに名乗ってみたら“ベタすぎてつまんない”などと言われ三日ほど部屋から出てこなかったのだが、今の彼は違った。
「まさに! 今の私は勇者と出会った時と同様に気持ちが高まっておる! 今の私こそ魔王にふさわ」
「何言ってらっしゃるのですか?」
胸を張ってみたものの最後まで言わせてもらえずにメイドのかかと落としで見事に撃沈。あっけなくやられた主をメイドは涼しい顔で見下ろしていた。
なぜ、このような事態が起きているのどろうか?
話は一時間ほど前にさかのぼる。
*
視察を終えて執務室に帰るとたくさんの物が床や机の上に散乱していた。
「なっなんだこれはー!!」
魔王の叫びが城中に響く。
普段であれば、出かけている間にメイドが片付けているはずだ。
こういう類いの嫌がらせ……もとい命令を出来る人物は一人しか思い浮かばなかった。
「おい! 誰かメイド長を呼んでこい!」
あまりに怒気を含んだその声に城中は何事が起きたのかと大騒ぎである。
人々がてんやわんやと城中を走り回っている中、ただ一人何食わぬ顔で人の波をすり抜けて歩いている者がいた。
「どうかされましたか? サタン様」
呼び出された本人であるやや丈の長いメイド服に身を包んだメイド長は、魔王の前までつかつかと歩いていく。
「これはどういうことだ」
「これはこれは……随分と散らかしましたね。ちゃんと片づけていただきますか?」
「そのようなことを言っているのではない!」
平然と言ってのけるメイドに魔王はさらに語気を強めた。
普通の者ならばあまりの迫力で動けなくなるはずなのだが、このメイド長だけは特別性のためまったく動じていなかった。
「私を誰だと思っている! 私はこの城の主である魔王だぞ!」
「だからなんですか? ご自分の部屋も満足に片づけられない貴方様にそんな資格があるとは思えません。そもそも、前に別のメイドが部屋を掃除した時に自分で片づけるから手を付けるなとおっしゃったはずですが?」
「そっそれは……」
魔王はメイド長にたいする言い訳が見つからなかった。
確かに数日前、部屋を片づけようとしたメイドがあまりにも危なっかしい動きをしていたので自分でやると言っているのだ。それが、何かしらの形で耳に入っていたのだろう。
「それとこれとは別であろう!」
メイド長は謝る気配もなくため息をついていた。
「まったく……こんなことで開き直られますか? いっそのことサタンからニートに改名したほうがよろしいのでは?」
「意味は分からぬが完全にバカにしておるな」
「さぁ? どうでしょうか?」
メイドは白い目で魔王を見下ろしままだ。
「とはいえ、本来ならば部屋の片づけはメイドの仕事。私の監督不足ですので“私が”片づけさせていただきます」
「うむ。それでよいのだ。それで」
こうして、メイド長は片づけを始めたのだが、これにより魔王が物の管理に関してあまりにも甘いことが露呈し、冒頭に戻る。
読んでいただきありがとうございます。
魔王様は、かなりダメなお方です。えぇよく魔王やってたなってぐらいに……そして、勇者は半年の間に何があった! という疑問は後ほど……
これからもよろしくお願いします。