野営の準備は楽ではございません
魔王様を見送った後、メイド長は二人のメイドに指示を出しててきぱきと野営の準備を進めていく。
テントの中を空間の魔法を使って極力広くしたのち、そこに布団などを用意する。
空間の魔法を使ったからと言って、魔王城ほどの広さが確保されるはずもなく、魔法で生成し用意するのは必要最低限の物だけだ。
しかしながら魔法というのは昔から反則的な手段がしてならない。
願って術式を描けばほしいものが何でも手に入っていしまうし文字通り城を浮上させることだってできてしまう。
これは、自身や上司である魔王がとてつもない魔力量を誇っているからこそ出来るという面があるのだが、逆に考えると魔力さえあれば何でも実現できてしまうのが魔法だ。
「今度、参考程度に魔法でできないことを探ってみましょうか……」
「メイド長、何か言いましたかー?」
気づけばアクアが首をかしげながらこちらを見ていた。
どうやら考えが口に出ていたらしい。「どうもしないわ。続けて頂戴」とだけ言って作業を再開する。と言っても必要なものは大体出してしまったので、あとはちゃんと数があっているか確認するだけなのだが……
「よしっあとひと踏ん張りね!」
大きく伸びをした後、メイド長は数を数えるのと同時にそれぞれの物をテントの中に配置していった。
*
城の中に入った魔王は、地下の一角に来ていた。
ここには城を浮上させるシステムの根本と思われる装置が置いてあった。
見ると城内の魔力を制御している宝石が台座から外れており、城から過剰に魔力を取られてしまったのが魔力切れの原因だとうかがい知ることができた。
何はともあれ、原因を突き止めるに至った魔法は胸をなでおろして宝石を台座に設置した。
「なっ何だ?」
その途端、城は大きく揺れはじめ装置が大きく動いているのが分かった。
コーン、コーンという独特の高い音を立てながらいくつかの装置同士が共鳴するように動いていた。
「何が起きている」
よくよく考えてみれば、この城に入って以来この宝石に障るのは初めてだ。
台座に置いたのもここにあったはずといううろ覚えからだったため、何か手順に間違いがあるのかもしれない。
そう思った魔王は、急いで宝石をどかそうとしたが足元の床が動き始めたためにそれはかなわなかった。
ふと視線を横に向けると床の上にいくつかのガレキが落ちていた。今まで宙に浮いていたため気づかなかったのだが、城はすでに均衡を取り戻して真横という状態は解消されたようだ。
装置が動き始めてから15分ほど経つと、最後に宝石が置かれた台座が奥の方へと動いていき静寂が空間を支配した。
「なんだったのだ……あれは……」
*
一瞬のうちに水平に戻った城を見てあいた口がふさがらなかった。
いくら魔王様の力でも真横という状態を直すまでには少し時間がかかると思っていたからだ。
今回、はっきりと口には出していないが、墜落の原因は魔王様の魔力切れだと思っていた。だが、城を一瞬で戻したところを見るとその限りではなかったらしい。
「わっ城が戻りましたー」
「本当だね。なんだか、こんなにあっさりされると損しちゃったって感じかな」
いつの間にか横に来ていた二人のメイドもこの出来事に少なからず驚いているようだ。
これほどのことをあっさりとやってのけてしまえる魔王様はやはり、すごいお人なのだろう。
「損したとか言わないようにして頂戴。せっかく用意したのだから、いやでもこのテントで一夜は過ごすからね」
「メイド長らしい意見ですね。そういうと思いました」
「そうですねーこうじゃなきゃ疲れただけですしー」
二人の同意が得られたところで魔王様をこの場で待つこととしよう。
メイド長は夕食の食材を選びながら力強くうなづいた。