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38話:ダイヤモンドは砕かれて

「私が、ミラクル☆ダイヤモンドだよ」


サティはキラとテルに自分の正体を告げた。

サティこそがダイヤモンド。第一次ジュエルバトルの勝者であり、以後も続けて最後の一人になり続けた最強のジュエラーだ。


「……嘘、でしょ」


テルは唖然とした。

サティがダイヤモンドであることにも衝撃を受けたが、今のサティから放たれている威圧感もテルを硬直させている要因だった。

キラも同様に動けずにいる。


二人には、目の前の女の子が自分達よりも年下の子供とは思えなかった。

そんな二人の動揺など露知らず、サティは歩み出すと同時に二人に話し掛ける。



「退屈だったんだよ? 今までは最後の一人になるまで隠れたりしてたから」


そうすることで、サティは他のジュエラーとは桁外れの量の魂の力を使って確実に勝利を収めてきた。その度に全てのジュエラーとモンスターの魂がサティに吸収され、サティはより強くなる。


「だから途中からはケセランに魂を移したの。そうしないと私の存在が隠せないくらい力が集まりすぎたから」


この戦いのGMと言える存在のケセランとパサランならば、他のジュエラーに感知されずに力を隠す事が出来る。ジュエラーが気づかない様に調整することなど、ケセランにはいとも簡単に出来ることだからかだ。


「ただ、今回はもう我慢出来なかったの。だって」


その瞬間、サティはキラの目の前に移動していた。一瞬の出来事だった。


「皆楽しそうに戦ってるんだもん!」


サティの拳がキラの頭に叩き込まれ、キラは一瞬にして吹っ飛ばされた。ガードなど間に合わない。無抵抗のまま直撃してしまい、壁に激突する。

テルはサティに向けて剣を振るが、サティはいともたやすく斬撃をかわしてテルを蹴っ飛ばした。


地面を何回もバウンドして転がって来たテルに、キラは頭を手で抑えながら駆け寄る。


「テル」


「大丈夫……でも、マズイわね」


テルは余裕な素振りでこちらを見つめるサティを睨んだ。

とてもカードを使っていないとは思えない。それ程のパワーとスピードだった。



《スラッシュキラー》


サティの手にダイヤモンドの剣が握られ、二人に向かって接近して来た。キラの物と比べても比較にならないサイズの大剣だった。

キラとテルもカードを使って応戦する。


<《スラッシュキラー》>

<《スラッシュキラー》>


オオヌサから光の刃が伸び、テルの剣も藍色のオーラを纏う。それぞれの刃がぶつかり合うが、数回ぶつかり合っただけでキラ達の刃は砕け散ってしまう。

キラは驚きつつも防御に切り替わる。


<《ディフェンスキラー》>


キラの両腕にダイヤモンドの盾が装着されるが、サティはそれを見てニッと笑った。何故なら、完全に無駄なことをしているからだ。

振るわれたダイヤモンドの大剣は盾ごとキラを切り刻み、剣の腹で地面へ叩きつけた。衝撃で地面はひび割れ、キラは息が止まるかと思う程のショックを受ける。


「キラ!」


<《マッハキラー》>


テルは高速で移動し、サティをかく乱しながらキラを救出しようとした。

しかし、サティはカードを二枚取り出した。引き抜かれたカードは直ぐに消滅し、読み込まれる。


《フラッシュキラー》

《オフェンスキラー》


周囲は白銀の光に包まれ、テルのマッハキラーは消滅してテルは通常の速度に戻る。そして、テルの目の前にはドラゴンの頭を右腕に装着したサティが待ち構えていた。


「いらっしゃい」


ドラゴンヘッドがテルの体に叩き込まれ、更に巨大なダイヤモンドが発射されてテルを吹っ飛ばした。

何とか立ち上がったキラはオオヌサを握りしめてサティに立ち向かうも、サティはドラゴンヘッドでオオヌサを弾き返し、地面に突き立ててあった大剣を引き抜いてキラを叩き飛ばした。


キラとテルは自分達だけで相手をするのは駄目だと判断し、契約モンスターを呼ぶ。


<《サモンキラー》>

<《サモンキラー》>


エターナルドラゴンとスカイアメジストが空間を裂いて現れ、サティに襲いかかる。ササティは少しも慌てる素振りを見せず、カードを使う。


《サモンキラー》


その瞬間、二体のモンスターは何者かに殴り飛ばされた。

サティの後ろには、二足で立ち背中に大きな翼を生やしたドラゴン……ダイヤモンドドラゴンがサティを守るようにして立っていた。


ダイヤモンドドラゴンは二体のモンターを掴むと、空中へと連れて行った。何とか手から逃れたモンスターは、反撃を試みた。

ダイヤモンドドラゴンは俊敏に立ち回り、二体の攻撃をまるで寄せ付けない。



モンスター達が争っている間にも、キラ達の戦いは続いていた。しかし、サティの力にはまるで及ばず、キラとテルはいい様に蹂躙されていた。


《アームキラー》


「ほらほら、もっと遊ぼうよ!」


ダイヤモンドを散りばめた装甲を両手に装着したサティは、キラの頭を掴むと何度も地面に叩きつける。やめさせようと向かってくるテルに向かってキラを投げつけ、テルがキラを受け止めた隙にテルの顔面を蹴っ飛ばす。


「くっ!」


<《スラッシュキラー》>


テルはすかさず起き上がり、藍色に輝く剣を持ってサティに斬りかかる。

しかし、サティは腕を振って軽々と剣を砕き、テルの腹を何度も殴り付ける、


「テル!」


<《バーストキラー》>

《バーストキラー》


テルを救出しようとキラは七色のダイヤモンドを飛ばす。するとサティも同じカードを使い、ダイヤモンドを飛ばす。

サティのダイヤモンドがキラのダイヤモンドを次々と砕いていき、キラに襲い掛かる。


キラはカードを引き抜いて切り抜けようとする。


<《ブロッサムキラー》>


キラの周囲に桃色の粒子が舞い、爆発を引き起こした。爆発に巻き込まれて、サティのダイヤモンドが粉々に砕け散る。


《オフェンスキラー》


煙が晴れるとキラの視界に、ダイヤモンドドラゴンを後ろに従えたサティの姿が映った。右手のドラゴンヘッドをキラに向けると、ダイヤモンドドラゴンが水色に輝くビームを口から発射した。


「キラ!」


<《ディフェンスキラー》>

<《ディフェンスキラー》>


テルがキラの隣へ駆け付け、二人で宝石の盾を構える。しかし、ビームは盾を砕いて二人を飲み込んだ。



キラとテルは倒れそうな体をどうにか奮起し、何とか起き上がる。サティはそんな二人を眺めつつ、カードを引いた。


「これで、またサヨナラかな?」


《ファイナルキラー》


ダイヤモンドドラゴンが咆哮をあげ、口を大きく開き、エネルギーを充填する。

キラとテルは目を合わせて、一瞬で意志疎通する。


<《ファイナルキラー》>

<《ファイナルキラー》>


テルはキラよりも先にスカイアメジストに跨がり、藍色のオーラを纏ってサティに向かって突っ込んでいく。ダイヤモンドドラゴンの口から白い輝きを放つビームが発射され、テルと衝突する。

その瞬間、スカイアメジストが砕けると同時にテルがビームに飲まれて吹き飛ばされてしまう。


しかし、テルがやられると同時にキラがエターナルドラゴンに跨がって突撃していく。テルがやられたのは想定外だったが、立ち止まる訳にはいかない。サティを噛み砕こうと、エターナルドラゴンが口を開く。



「んー?」


《フラッシュキラー》


サティの胸から桃色の光が周囲に広がり、光に照らされたエターナルドラゴンは消滅し、キラのエターライトも解けてしまう。

キラはそれには驚かず、続けてカードを使用する。


《オフェンスキラー》


右腕に装着されたドラゴンヘッドで、サティの顔面をぶん殴る。サティは反撃しようとしたのだが、カードを使った直後でまだカードが使えなかった。

吹っ飛ばされたサティに向かって巨大なダイヤモンドを発射し、サティは煙に包み込まれる。



「あはは! やっぱり遊びって楽しいね!」


サティは尚も笑いながら立ち上がる。一体何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。そして、キラとサティは同時にカードを使う。


《ファイナルキラー》

《ファイナルキラー》


二体のドラゴンが咆哮をあげ、相手の主を睨み付ける。キラは祈るように両手を重ね、宙に浮く。

サティも目を閉じて両手を重ね、地面を踏みしめる。そして、二人の周囲を七色のダイヤモンドが囲い、光り輝く。

ドラゴン達が口からエネルギーを発射して主を飲み込むと、二人はそのエネルギーに包まれながら両足に集まったダイヤモンドをキックの要領でぶつけ合った。二人のキックが激突し、周囲に余波と光が行き渡る。バチバチと火花をあげながら、二人の技はより激しくぶつかり続ける。


やがて決着がつき、二人の衝突は辺りへ強烈な閃光を放ちながら収束していった。




テルは跪きそうになった体をどうにか奮い立たせ、前を見た。辺り一面煙に包まれ、キラがどこにいるのか全く分からない。そして、テルが一歩踏み出すと何かが砕ける音がした。

テルのデッキケースが砕けたのだ。


(……ここまで、か)


契約切れの結果バードアメジストとの契約が切れ、殺されることになるがそれは予想の範疇だ。

母が死んだ時点でテルのジュエラーとしての命は無くなったも同然。ここまで生きてきたことが蛇足のようなものなのだから。

ただ、今はキラの事が先決だ。何をしてでもキラの勝ち残らせなければならない。そのでなければ自分は……


テルがそんなことを考えていると、何かが自分に向かって飛んできた。それはダイヤモンド。テルを殺そうと七色に輝きながら襲いかかる燐く刃。

死ぬ。そんなことは問題ではなかった。テルが受け入れられないのは、自分の前にキラが立って、その背に全てのダイヤモンドが刺さったということだけだ。



「…………キラ?」


キラは数歩歩いてテルの隣まで来ると、そのまま倒れ込んだ。壁を背にしてもたれ掛かり、ぴくりとも動かない。テルは何が起こったか理解出来なかった。ただ、テルの頭は長い間事態を理解することが出来ないほど愚かではなかった。

キラが、自分を庇って死にかけていることを理解したテルはすぐさまキラの体を揺さぶりながら呼びかけた。


「っキラ! キラ! キラ!」


キラは虚ろな瞳でテルを見上げた。もうテルの顔を認識することも出来なかったが、最後に伝えたいことは一杯ある。


「私……やっぱり、この戦いを止めたい。そのために多くの人が傷ついたけど……それでも、自分のために殺し合うなんて間違ってる」


それを分かっていながら、戦いの渦中にいた結果がこれだろう。何も守れず死んでしまう。

ただ、今テルは生きてキラの前にいる。

それだけが、キラにとっての希望だった。


「ありがとう、テル。貴女は……なるべく生きて」


「嫌! キラ、貴女が死ぬなんておかしいわよ!! 生きて、ずっと私のそばにいて!」


自分が生きることがキラの希望に、生きた意味になる。

そんなもの認められなかった。どうしてキラがいないのに自分だけが生きなければならないのか。他人なんてどうでもいい。キラさえ生きていればそれで良かったのに。


キラはテルにある物を握らせ、そして、微笑んだ。

背中にサティのダイヤモンドが刺さっている苦痛で笑えるはずもなく、虚しいものだった。それでも、キラにとっては大切なことだった。

最後には、テルに自分が不幸ではなかったと思って貰いたい。


例え二人がすれ違うことになっても、こうして思いを託すことが出来たのだから。

キラは瞳を閉じて力を抜いた。


そして、長い眠りにつく。




「…………キラアアアアアアアアアアア!!!!!」


テルは叫んだ。目の前の光景が受け入れられなかった。

結局、自然の摂理に逆らって母を死から逃れさせようとしたのが間違いだったのだ。その結果が、大切な人を全て失うこの有様だ。

誰ひとりテルの大事な人は残っていない。大切な一人を救おうとした代償に、大切な人全てを失った。


考えれば考えるほど無様だった。

醜く自分だけ生きているこの状況がおかしくてたまらなかった。今すぐ死んでしまいたいが、そうはいかない。

一つだけ、やらなければならないことがある。



「貴女が生き残ったの?」


サティが歩いてきた。装甲の所々が砕け、痛むのか左肩を摩りながらフラフラとしている。

サティは残念そうにしていた。もう残ったのはアメジストの力を失ったテルのみ。


「もっと遊び集ったのにー。ま、しかたないよね」


テルはサッと立ち上がると、あるものを目の前に突き出した。

サティはそれを見て表情を変える。


「それって…」



「……変身!」


ダイヤモンドのデッキケースをバックルにはめ込み、テルはダイヤモンドへと変身した。

桃色に染まった純白の装甲がテルの身に纏われる。

そう、キラの望むことではないし、キラが最も悲しむ行為だろう。ただ、それでもテルはやらなければならないと思った。


今から、殺さなければならない。

例え刺し違えてでも、この悪魔の様な子供を殺す。

それが今テルがやらなければならないことだ。



「サティィィィ!!」


《オフェンスキラー》


「!?」


テルは右腕に装着されたドラゴンヘッドでサティに殴りかかる。サティはそれをさばいていくが、捌ききれず思い切り左頬へ直撃してしまう。サティに弾かれたことでドラゴンヘッドは砕けてしまったが、そんなことは気にも止めずに素手で何度もサティの顔面を殴りつける。


「あっ、あっ、あぁ!」


《オフェンスキラー》


サティは右腕に装着されたドラゴンヘッドの口から高エネルギーのビームを発射した。テルはそれに飲み込まれるも、構わず前進してサティの腹に蹴りを捩じ込む。

ただでは済まないはずだった。実際テルの体から少しの肉が削ぎ落とされていたが、テルは少しも気に止めず、サティへの攻撃を続ける。


《スラッシュキラー》


「何で、何で何で何で!?」


テルが仕掛ける斬撃は今までと変わらないはずだった。今まで何度もテルの攻撃を捌いて軽く反撃してきたはずなのに、今サティはテルの振るダイヤソードに切り刻まれている。



サティには知る由もなかったが、それが恐怖による怯えだった。

今までサティが戦ってきたのはサティの力に恐れを抱いていた敵のみだった。

しかし、今は違う。今テルは、それまでサティが経験したことの無い程の強く明確な殺意で動いている。


サティは知らない。

これまで何度も人を殺し、その最中にいたとしても。殺意を向けられたことなど、今まで一度も無かったのだから。



「こ、これで!」


《スラッシュキラー》


サティの手に握られた大剣が、テルの体を突き抜いた。鮮血が周囲に飛び散り、テルの手からダイヤソードが零れ落ちる。

サティは安堵した。これで全て終わったのだ。


《サモンキラー》


「え?」


ダイヤドラゴンがテルを跳ね飛ばしてサティを咥えて舞い上がった。

元々テルと契約したわけではないダイヤドラゴンがテルごと攻撃をしたのは無理もないが、この一撃でダイヤモンドのデッキは砕け散り、衝撃で強引に大剣が抜かれたことによりテルの腹から大量の血が吹き出だした。


サティは助けを呼ぼうと辺りを見回した。しかし、ダイヤモンドドラゴンは助けに来なかった。

サティが強大な力を酷使し続けた結果、負担を押し付けられたダイヤモンドドラゴンは限界が来ていたのだ。

もう助からない。そう認識したサティの目から涙がこぼれ落ちた。


「嫌だよ……死にたくないよ」


サティはただ楽しく遊びたいだけだった。

少女はその生涯の最後を、後悔と絶望の中で終えることとなる。


ダイヤドラゴンは、口の中の少女を噛み千切った。




テルはとぼとぼと歩いていた。

朦朧として来た意識を何とか保ちながらキラのそばまでやって来た。

そして、キラにもたれかかる形で倒れ込んだ。もう限界だった。


「キラ……私、やったよ」


「…………」


キラがしゃべるはずがない。

まるで人形の様に沈黙を続け返事を返さないキラを見て、テルは泣いた。


「一人は、嫌だよ……」


そうして、テルは体中から力が抜けていくのを感じていた。

キラの体は、冷たかった。

自分の体も、冷たくなっていった。

サティ CV.花澤香菜


クォーツ

デッキ構成


イカロスキラー×3

スピアキラー×3

ファングキラー×4

レインキラー×4



ミラクル☆ダイヤモンド

デッキ構成


スラッシュキラー

フラッシュキラー×2

オフェンスキラー

ディフェンスキラー

アームキラー

バーストキラー

サモンキラー×1

ファイナルキラー×2

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