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33話:ホワイトクリスマス

クランはホットレモンティーを飲みながら、降り積もる雪を眺めていた。

普段なら雪が降ること自体稀なのだが、今日は積もる程雪が降っている。


「何かの前兆、かしら?」


クランは宙に浮いているケセランとパサランに尋ねた。

ケセランがニヤニヤ笑いながら答える。


「ああ、そうさぁ。もうすぐニューイヤーが現れるぜぇ」


「……ニューイヤー?」


ケセランは不敵に笑い、クランにその意味を話した。






「着きましたよ。キラ様」


「ありがとうございます」


キラは執事に礼を言うと車から降りた。

車の出迎えまでさせるつもりは無かったのだが、招待する側として当然だとテルに押し切られ、承諾することになってしまった。


「テルお嬢様がお待ちです。あれだけそわそわしているお嬢様は久しぶりでした」


「あのテルが?」


落ち着きなく部屋をうろうろするテルを想像するのは難しかった。

しかし想像してみると少しおかしく思えて思わずクスッと笑ってしまう。


「……誰がそわそわしてたって?」


そうこうしている内に、テルが出迎えた。

黒いドレスに身を包んだその姿は、思わず美しいと思わせる。


「……綺麗、だよ」


キラは素直に綺麗だと伝えた。少し恥ずかしかったが、そう言わずにはいられなかった。


「あ、ありがとう」


テルは恥ずかしくなってキラから顔を背けた。

胸の鼓動を堪えながら、テルはキラを家の中へ誘導する。



キラは中庭を見渡して眺めた。

テルの家には何度か来ているが何度見てもあまりの豪華さに驚かされる。


「ここっていつ来ても……」


何か話でもしようかとした瞬間、寒さで動きが鈍ったのか躓いてしまう。

そして、噴水にドボンと音を立てて転倒してしまった。


「キ、キラ!?」


テルは慌ててキラを引き上げた。


「キラ、大丈…」


キラを心配して声を掛けていたが、思わず固まってしまった。

水が服に染み込んで肌に張り付いている。寒いからか体は小さく震え、頬はほんのり赤く染まっている。

そして、透けた服の下の………



「テル……!?」


キラは急に固まったテルを不審に思いその視線を辿って、自分の状態を把握した。両手で胸を隠し、体を縮こませる。

テルは後ろへ飛びのいてお付きのメイドに命令した。


「ご、ご、ごめんなさい。キラに換えの服を用意して」


メイドは執事に渡された布でキラの体を隠し、温めるようにしてキラを家の中へと連れていった。





マリスは機嫌が良かった。

今日はいよいよ愛する姉とのデートなのだ。


恋人らしく、駅前で待ち合わせをしてからデートすることにしたため、今は暇で仕方なかった。


「……何?」


マリスが後ろを見ると、そこには白黒の宝石で出来た亀がいた。

モンスターはマリスを威嚇するかのように床を足でドンドン地ならしする。



「……分かってる」


マリスは舌打ちした。

確かに最近エサを与えるのをサボっていたが、どうしてよりにもよって今日我が儘を言うのか。


「ったくもー」


仕方なくモンスター狩りに外出することにして、家を出た。

それでも頭の中ではリリーのことを考えていた。今日は久しぶりに、昔のことを回想した。



小学校に入ったばかりの頃、自分はまだ弱虫で泣き虫だった。

その日も、クラスの男の子に虐められて泣いていた。マリスにとって男は暴力を振りかざす屑でしかなかった。


そんな中、リリーが先生を連れて来て助けてくれた。

先生は泣きじゃくるマリスを心配して声を掛けた。


「大丈夫か?」


しかしマリスは泣き止まなかった。いくら優しい言葉を掛けてこようが男を信用することなど出来る訳がない。

先生が男の子の説教に移ったのを見届けると、リリーは泣きじゃくるマリスの顔を上げさせ、笑顔で話し掛けた。



「だいじょーぶ!お姉ちゃんがいっしょー守ってあげる」


マリスにとってその笑顔はあまりにも眩しすぎた。

涙の流れ落ちる顔に、自然と笑顔が生まれた。


その日からマリスにとって姉が全てだった。

毎日姉とひと時も離れずに過ごし、日に日に姉への愛情を募らせていった。それがおかしいとは思わなかったし、変だとも思わなかった。


ただ、現実は甘くない。



「……どうして?」


マリスはリリーに尋ねた。

リリーはマリスと顔を合わせず俯いている。


「分かってたでしょう……? いつまでも一緒にはいられない。恋人ごっこも、何時かやめなきゃいけないの。だから、もう……」


「分からないよ。お姉ちゃん、私のこと嫌いなの?」


意味が分からなかった。

あの日から高校生になるまでの長い時間。それをずっとリリーと過ごしてきて、何度も好きだと言った。

リリーもそれを受け入れていたのに、何故今更別れようとするのか分からない。

リリーは首を振って答えた。


「私がマリスのこと嫌いな訳ないじゃない! ……それでも、駄目なの」


「何で? 日本にいるから駄目なの? だったら外国に住もうよ」


「簡単に言わないで……」


そんなことが出来るはず無かった。

親も周囲も、決してそれを許しはしない。

どれだけ好きだったとしても、周囲には仲良し姉妹としてでしか存在することを許されない。


何度も何度も言い争いをして、ふとマリスがか弱い声で尋ねた。



「私が悪かったの? お姉ちゃんを好きになった、私が悪かったの? それとも……誰が悪かったのかな?」


「……誰も悪くない。仕方ないの、そう、仕方ないのよ」




誰も悪くない。

ならどうしてお互いに好きな者同士が結ばれることが許されないのか。どうして今更愛に規制を掛けているのか。


「法なんていらない……私は、愛する人と結ばれる世界を作る。作ってみせる」


マリスは決意を新たにし、モンスターを探し始めた。





「…………」


テルは無言で椅子に座っていた。

テーブルの上には豪勢な料理が並び、キャンドルの灯りが辺りをほんのりと照らしていた。

二人だけのクリスマスパーティーになるよう、広すぎない部屋を選んだし、料理も二人分のはず。あとは本人を待つだけなのだが……


「遅いわね……」


いくらなんでも遅すぎる。

シャワーを浴びるにしてもそこまで時間はかからないはず。シャワーを浴びるキラを夢想すると、頭をブンブン振って煩悩を振りほどく。

そこへ、誰かが入って来た。


「久しぶりだな、テル」


「お父様……」


数ヶ月ぶりに見る父親の姿にテルは驚いた。

父親はテルの向かいの椅子に腰を下ろす。


「お友達が来ていることは知っているよ。何でも噴水に落ちたとか……はは、おまえの友達らしい」


「失礼です」


テルは拗ねた口調で父を避難した。

父親はいつだって子供を子供だと思っている。

一頻り笑ったあと、父親は退室しながらテルに話しかけた。


「大事にするといい。友は、何があっても友なんだからな」


「……はい」


わずか数分のことだった。

それでも、テルには十分過ぎる程だった。

たったこれだけの時間でも家族の思いは伝わってくる。


テルには昔の自分が何故母に会わず、病気を治すために戦っていたのかもうわからなくなっていた。そんなことをするくらいなら、少しでも母親と一緒に過ごすべきだったのに。


そう考えていると、突然ドアがノックされた。

キラがやって来たのだろう。


「…………」


しかし、いつまで経ってもキラは部屋に入って来ない。

テルは不審に思って話しかけた。


「キラ、どうしたの?」


「あのね……メイドさんが服が乾くまで時間が掛かるからって服を貸してくれて」


「だったら遠慮しないでいいのよ」


「そうじゃなくて……」


一体何を躊躇っているのか。

テルは早く部屋に入ってくるように急かした。観念したのか、キラはゆっくりとドアを開けて入って来た。



時間が止まったような気がした。

薄い桃色のドレスに身を包んだキラはいつも以上に儚げな雰囲気を醸し出していた。ダイヤモンドに武装した時とは違った意味で、別人のように思えた。

テルが黙ったままなので、キラは頬を赤く染めて顔を隠す。


「やっぱり、似合ってない?」


「い、いいえ。そんなことはないわ。綺麗よ」


思わず見とれてしまい言葉を失ったが、慌ててキラを褒める。

改めて見ても、あまりの美しさに見惚れてしまう。


「……さぁ、クリスマスパーティーを始めましょう」


テルはキラの手を握り、席までエスコートした。

今日だけでもキラには楽しんで貰いたい。

テルはグラスにシャンパンを注ぎながら、そう祈った。





マリスはトルマリンに変身し、ジュエルワールドを走り回っていた。中々見つからなかったが、ようやく一匹のモンスターを見つけた。

一匹では数日もつかも怪しいが、この際贅沢は言っていられない。

今日をリリーと共に過ごせればそれでいいだけだ。


《スクリーンキラー》


マリスの胸からカメラのフラッシュの様な閃光が広がり、蟹型モンスターのハサミがマリスの右腕に装着された。

マリスはモンスターに飛びかかり、ハサミで何度もモンスターの体を叩きつける。



《サモンキラー》


もう少しでトドメがさせるという瞬間、エメラルドモールが口先の大きなドリルでモンスターを粉砕し、エネルギー源である球体を捕食すると素早くさってしまった。


「な!?」


突然の出来事にマリスは驚き、そして近くにフウヤがいることに気がついた。

フウヤはこちらの様子を伺っている。恐らくマリスの行動しだいで応戦するということだろう。

しかし、マリスに選択肢は無かった。


(もうトルマリンタートルも限界が来てる……今ここでエメラルドのモンスターを捕食しないと…)


もし契約モンスターが痺れを切らしたら、その時捕食されるのは契約を疎かにした自分だ。

そんなことは出来ない。なんとしてでもエメラルドを倒さなければ。





リリーは一人駅の前でマリスを待っていた。

マリスが時間に遅れるなんて今までなかったが、それでも待つしかない。

ふと気がつくと、雪がパラパラ降り始めた。


「ホワイトクリスマス、か」


リリーは目を閉じて、マリスの笑顔を思い浮かべた。

見るだけで心が暖かくなるあの笑顔を。






エメラルドの戦闘能力はさほど高くない。

混戦時なら、トルマリンが負ける理由はない。


しかし、一対一の場合ならば、話は変わる。


「ハァッ!」


フウヤの鞭がマリスの胸に叩き込まれる。マリスもスクリーンキラーでコピーしたフウヤの鞭を使っているが、鞭の扱い方には雲泥の差があった。

普段から鞭を使っているフウヤとは違い、いきなり鞭を使うマリスでは相手にならない。


(どうして、どうして、カードを使わないの!?)


更に、トルマリンの弱点はまだある。

相手がカードを使わなければ、自ずとジリ貧になってしまう。

何の策も練らずに戦って勝てる程トルマリンは強くなく、またフウヤも弱くない。


フウヤの蹴りがマリスの腹にねじ込まれ、マリスは息が止まる程の衝撃を受けて吹っ飛ぶ。

その隙を逃さず、フウヤはカードを使った。


《チェインキラー》


緑色の線がマリスの両手を縛り、身動きが取れなくなる。

本来ならコピーのチャンスなのだが、両手が使えなくてはカードが使えない。


《ファイナルキラー》


フウヤにエメラルドモールがぶつかり、緑色の光となってフウヤを覆う。そして、ドリルのようになると地面の中に潜った。

地面の中から高速で動く細いドリルが飛び出し、マリスを傷つける。

そして、フウヤ本体がいる一番強力なドリルがマリスの腹に直撃し、デッキを砕いた。



「…………」


薄れゆく意識の中、マリスはリリーの笑顔を幻視した。

泣いてばかりだった私に光をくれたあの笑顔を。


「……何だ」


世界がどうとか。愛する人がどうとか。

一体いつから自分はそんなややこしいことばかり考えるようになったのだろう。


本当は、ただあの笑顔をもっと見たかっただけなのに。



「お姉ちゃん」





「……マリス?」


どうしていきなりマリスの名前を読んだのかは分からない。

立ち上がった瞬間、母親がやって来て自分の腕を掴んできた。


「リリー、心配したのよ。さぁ早く帰りましょう」


「待って、マリスが」


「…………あの子のことは、忘れなさい」


別に母はマリスの死を感じ取った訳ではない。ただ、家族に迷惑をかけ続けたマリスを嫌っているだけだ。それに文句を言うつもりはない。

ただ、私にはマリスが必要なのだ。


「……マリス」


遊園地のチケットが落ち、大切な何かがこぼれ落ちた気がした。






「……」


テルは腕を枕にしてテーブルで寝ているキラの頭をそっと撫でた。

シャンパンに酔ったのか、グッスリ寝入っている。起きる気配のないことを確認すると、テルは安堵した。

やはり今日だけは休んで欲しい。


本当は戦いが始まって、誰かが死んだことも分かっていた。

キラを起こして一緒に行けば助けられたかもしれないことも。それでも、キラを起こすことは決してしなかった。


「本当のことを知ったら、貴女は私を嫌うでしょうね」


人を見殺しにするのはキラの大嫌いな事だから。だからこそ、わざわざキラが早めに寝てしまうようなものばかり勧めたのだ。

そうしてまで、キラを休ませたかった。


「本当にごめんなさい……多分私は、一歩も成長してないんだと思う」


母に依存していた頃と変わらない。

ただ自分の隣にキラがいる状況を長く維持したいだけなのだ。こんな利己的な人間は、キラの嫌いなタイプだろうに。



「明日からこんなことしない……貴女の好きなようにさせるから……」


テルはもう一度、キラの頭を撫でた。

キラの寝顔は気持ちよさそうになり、テルの顔にも笑がこぼれた。


「メリークリスマス」

十和マリス CV.喜多村英梨

十和リリー CV.後藤沙緒里


トルマリン

デッキ構成


スクリーンキラー

ディフェンスキラー×1

フラッシュキラー×1

サモンキラー×1

ファイナルキラー×1

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