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31話:愛する人へ

「ったく、あいつは何なんだ一体」


フウヤはアキラに殴られた左頬を摩った。

あの状況で自分が殴られるとは思っていなかったため、ダイレクトにもらってしまった。


「ガちゃん、なんで怒ってたんだろうね」


ユカリは不思議そうにフウヤに尋ねた。


「俺が一番知りたいよ」


訳が分からないのはフウヤも同じだった。

何故あの状況でアキラがユカリではなく自分を殴ったのか見当も付かない。


フウヤは視線をユカリに移す。


「お前がいなけりゃ俺も殴られなかっただろうな」


「人のせいにしちゃいけないんだよっ」


ユカリは軽快なスキップで移動し、クルッと振り返った。


「じゃあフウヤくん。またね」


「おう」


ユカリと別れ、フウヤは自分を罵倒した。

何が「おう」だ、これじゃあアイツが調子に乗ってまた来るだろうが。


「俺も疲れてきたのか」


フウヤは自分の体を労ることにした。同時に、自分がユカリといることをあまり嫌がっていないことに気付き始めた。


少なくとも、アキラが側にいるときよりは楽しいような気もする。


「九留実ユカリ……か」





テルがモンスターに出くわしたのは随分久しぶりだった。

少なくとも修学旅行以来だろう。あれから数日たったが、珍しくモンスターと出くわさなかった。

それでも、やはりモンスターを前にした時の澄み切った感覚は忘れられそうにない。


「変身!」


テルはアメジストに変身すると、モンスターと共にジュエルワールドに移動する。

キラがいないのが心許ないが、キラがいないと戦えない訳ではない。


《スラッシュキラー》


テルの剣が紫のオーラを纏い、迫り来るモンスターを弾き返す。

テルが対峙しているモンスターは巨大な百足型モンスターだった。


(最近、大型のモンスターが増えてきたような……)


テルは何か嫌な予感がした。不吉な出来事の前触れとでも言うべきか、そんな不穏な予感を感じたのだ。


テルが考え事をしている最中、百足モンスターは大量の液体を吐いて攻撃してきた。だが、特に体勢を崩していた訳ではないので、簡単に回避出来た。


しかしその瞬間、何者かが乱入してきた。


《エレメントキラー》


テルは背後から飛んできた岩石を剣で受け止めるも、耐え切れず弾き飛ばされてしまう。飛ばされた剣は不運にもモンスターの下敷きになる。


《ディフェンスキラー》


テルの周囲をオレンジ色の光が囲い、閉じ込められてしまう。


「そこでじっとしていて貰うよ」


《ディフェンスキラー》


同じくオレンジ色の光が、モンスターを閉じ込める。モンスターがじたばた暴れ回っても壊れないのを見て、テルは抵抗を諦めた。

自分の前に立っている男に聞かなければならないことがある。


「ガーネットの前にいた、トパーズね」


「ええ、そうですよ」


カツヤは、テルの問いに素直に答えた。

未だ謎の多いトパーズに探りを入れるため、テルはカツヤに話し掛ける。


「貴方の願いって何なの? もう一人のトパーズとの関係は?」


「貴女に言う必要はありませんよ」


やはり言わないか、とテルは溜息を吐く。

しかし、ここで素直に明かさないのは想定済みだ。



「そうよね。どうせくだらない願いなんでしょうし、言う必要なんてないわよね」


カツヤがピクッと反応したことを見極めると、テルは更に畳み掛ける。


「違うっていうの? ジュエラーの願いなんて、大抵くだらないことでしょ?」


「ふざけないでください!」


思ったよりも簡単に引っ掛かったことにテルは驚き、それを動揺と思ったカツヤはテルを囲う光の壁を思い切り殴る。


「僕達の……ミナミを救いたいという思いは、くだらなくなんかない!!」






アキラは自分が何を考えているのか分からなかった。

何故フウヤを殴ったのだろう。


あの時、アキラはフウヤに失望したのだ。

三人のあの思い出の地に、ユカリがいることを許したフウヤが許せなかった。


「私は……あの頃に戻りたいのかもしれないな」


《エレメントキラー》


突然、アキラをトゲのように地面を伝って進む岩石が襲った。

かわし切れずに、足に切り傷を負う。タツヤが地面に突き刺していた腕を引き抜き、近寄って来る。


「くっ……変身!」


アキラがガーネットに変身し、タツヤに殴り掛かる。

タツヤは両腕の装甲で受け止めると、アキラを突き飛ばしてジュエルワールドに移動する。

アキラも急いで後を追う。



《エレメントキラー》


地面を裂いて突き進む衝撃波がアキラに襲い掛かる。

負傷した足では咄嗟にかわすことも出来ず、直撃してしまう。


それでも何とか立ち上がり、カードを使う。


《ナックルキラー》


両手にガーネットで出来たメリケンが装着され、更に続けてカードを使う。


《アームキラー》


両腕に装甲が追加され、徹底した武装でタツヤに立ち向かう。



《ディフェンスキラー》


タツヤの両腕にも強固な装甲が装着され、アキラを迎え撃つ。

アキラはタツヤに何度も拳を打ち込むが、尽くガードされてしまう。


足を負傷してしまったことで、アキラの動きは比較的鈍っていた。

パンチの威力も落ち、読みやすい軌道の拳を弾くとアキラを殴り飛ばす。


「この程度か」


アキラは悔しさで唇を噛み切りそうになった。

力のない自分が情けなく思えた。


「私は負けられないんだ……」


「知るかよ」


タツヤはアキラの言葉を切って捨てた。


「俺には絶対に負けられない理由がある。お前なんかの願いなんてどうでもいいんだよ」


「一体何なんだ、お前の願いは……ジュエラーにまでなって、叶えたい願いって何だ」


タツヤは黙り込んだ。

その様子から、タツヤが希望を持ってジュエラーになった訳ではないことをアキラは悟った。

何かに絶望し、最後の望みをジュエラーに託したのだろう。


(私と同じ、か)


過去を悔いてジュエラーになったのは自分もだ。

アキラが自分と似た動機でジュエラーになったことを悟ったのか、タツヤは口を開いた。


「……俺には、姉さんがいた」






士守タツヤと士守ミナミは仲の良い姉弟だった。

そして士防カツヤと二人は幼なじみで、子供の頃は一緒に遊んでいた。


カツヤとミナミは互いに惹かれ合い、やがて二人は婚約した。タツヤはその知らせを聞いた時、嬉しさで涙が零れた。

この二人なら絶対に幸せになれる。そう信じて疑わなかった。


あの日が来るまでは



ミナミが、集団に強姦された。

結婚式の前日、タツヤとカツヤは地面に組み伏され、目の前で襲われるミナミを見ることしか出来なかった。


幸いすぐさま通報されたこともあり、タツヤ達を取り押さえていた連中は逮捕された。しかし、ミナミを襲った数人は捕まえられなかった。


この事件は確実にミナミの心を深く傷付け、再起不能にまで追い込んだ。そして………




タツヤとカツヤは目の前の光景を疑った。

二人で刺激しないように、ミナミの食事を運んで来ただけだったのに。


何故ミナミは宙に浮いているのか。


何故天井から縄が伸び、ミナミがそれに吊るされているのか、分からなかった。

ミナミの足元に手紙があった。


遺書だった。




「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」





「どうしてミナミが死ななければならなかったんだ……あんな男達が生きていて、ミナミが死ななきゃいけない理由は何だ!?」


カツヤは怒りに体を震わせた。

テルはそんなカツヤを黙って見ていた。


カツヤの気持ちが分からない訳ではない。愛する人とやり直したいその願いが彼にとって何よりも大事なのは分かるし、それを非難する気もない。

ただ、それでもカツヤの願いを容認することは出来なかった。


自分が母親の為に戦っていたからこそ分かる。

その願いは彼を幸せにしない。


「それで、貴方は幸せなの? 」


「そうに決まってるでしょう! ミナミもタツヤ君も僕も、初めて幸せになれるんだ!」


「人を殺した手で、彼女と向き合えるの? その目を、真っ直ぐ見られるの?」


カツヤには答えられなかった。

今まで気にもしていなかったのだ。人を殺した自分がどうなるか、など。


「確かに生き返らせたいでしょう……でも、人を殺したら二度と他人と向き合えなくなる! そんな貴方の姿を彼女が見たがると思うの!?」


「それでも……それでも、彼女を救い出さないといけないんだ!」





一方、アキラはタツヤに何も言い返せなかった。死者に縛られ、冷静に物事を考えられないのは自分も同じなのだから。


「もう復讐の準備は整った。あとは姉さんを生き返らせるだけだ」


アキラは聞き返した。


「復讐……?」


「ああ、姉さんを襲った奴らをようやく捕まえた。今は監禁しているだけだがな」


タツヤはアキラに近付く。

アキラはどうすれば良いのか分からなかった。


「なぁ教えてくれよ。どう殺すのが一番の復讐になると思う?」


何があっても人を殺すなんて間違っている。などと言えなかった。

例え非人道的だとしても、アキラにはタツヤを否定することは出来ない。



《バーストキラー》


アキラが悩んでいたその時、二人を爆風が包み込んだ。

タツヤに砲弾が命中し、起爆したのだ。


アキラは痛む体を無理矢理起こし、自分達を襲った相手を睨みつけた。



そこには、大きなサードニクスの銃を両手で構えるユカリがいた。

ユカリは銃を放り捨てるとニコニコ笑いながら歩み始めた。


《オフェンスキラー》


「今、面白そうなこと言ってたね」


タツヤは両手に爪を装備したユカリから逃げようとするも、タツヤが逃げるより先にユカリの拳がタツヤの腹に捩込まれた。


「ガッ」


「あのね、人を殺す時は殴って、殴って」


畳み掛けるようにユカリの拳が叩き込まれ、トパーズの装甲が破片を散らしながら砕かれてゆく。


「殴って、殴って、殴って、殴って殺すのが……」


「やめ…」


アキラはユカリにやめるよう呼びかける。しかし、その声はユカリに届くことはなかった。



「楽しいんだよおおぉぉぉぉ!!!」


ユカリの拳が、タツヤのデッキケースを粉々に砕いた。

タツヤは消え行く意識の中、姉の結婚式を幻視した。


(姉、さん……)





「っ、何だ!?体が……ウワアァァ!!」


カツヤを護る装甲が蒸発して消滅し、うろたえている隙に百足モンスターがカツヤの体に噛み付いた。

ゴリッゴリッと音を立ててカツヤの体を喰らう。


「アアア、アァ、アアアアアアア!!!」


「……っ!」


テルは目の前で繰り広げられる惨劇から目を背けた。

カツヤが知る由もないが、タツヤが死んだ事によってカードの効果が切れてしまったのだ。

元々トパーズのダブルキラーによって半ば例外としてジュエラーになったため、タツヤが死んだらもうジュエラーにはなれなかったのだ。


カツヤを食べ終えると、百足モンスターがテルを標的に定めて這い寄って来た。


テルは応戦しようとしたがカードを読み取る剣はモンスターの下敷きになっており、戦うことができない。

テルを閉じ込めていたシールドが消えた瞬間、百足モンスターがテルに襲いかかった。



「………」


目を閉じて身構えたが、いつまで経っても衝撃が来ない。



目を開けると、そこには両腕に付けたドラゴンシールドでモンスターを押し止めているキラがいた。


「キラ!」


テルと目を合わせると、キラはモンスターを蹴って押し返す。


《オフェンスキラー》


右手に装着したドラゴンヘッドで百足モンスターを殴り飛ばし、モンスターを追い掛ける。

テルはモンスターの下敷きから解放された剣を拾い、カードを読み取らせる。


《マッハキラー》


テルは高速で移動し、モンスターの足や体を次々と切り刻む。

モンスターが奇声をあげている隙にキラがドラゴンヘッドから巨大なダイヤモンドを発射してモンスターを吹っ飛ばした。

そして、二人は同時にあのカードを使った。



<《エターライト》>

<《エターライト》>


二人の体をまばゆい光が覆い、剣とオオヌサを振るうと同時に光が弾け飛び、エターライトに進化したキラとテルが現れた。


<《スラッシュキラー》>


テルの剣が藍色の光に包まれ、刀身が数十メートルに伸びる。テルが剣を振るうと、一瞬で全ての足を削ぎ落とす。


<《アームキラー》>


「はああああああああっ!」


キラの両腕に大きな装甲が装着され、モンスターを何度も殴り、地面に叩き付ける。

地面に叩き付けられたモンスターをキラとテルが拳と剣で吹っ飛ばす。



<《ファイナルキラー》>

<《ファイナルキラー》>


エターナルドラゴンとスカイアメジストが空間を裂いて現れ、バイクの姿に変形する。キラとテルは自分のモンスターに乗り込み、それぞれピンクと藍色の光を纏ってモンスターを轢く。


空中へ急上昇するとドラゴンと鳥の姿に戻り、口から光弾を何発も発射する。百足モンスターも光弾を発射して抵抗するも、ドラゴン達の光弾は百足モンスターの光弾を貫通して百足モンスターを襲う。


キラとテルはモンスターから飛び降り、モンスターの口から放たれたビームを纏ってキックを繰り出す。二人のキックがモンスターに直撃し、衝撃が辺り一面に広がった。

光が収まると、中からキラとテルが立った姿が現れた。






「じゃあ、トパーズは……」


「ええ……残念だけれど」


トパーズの死を伝えると、キラの目から涙がこぼれ落ちた。

テルはそっと涙を拭ってあげた。


「貴女のせいじゃない。気にする必要はないのよ」


キラは悲しそうな顔でテルを見つめた。キラが何を言いたいのか分かったテルは、少しだけ悲しくなった。


(どうして私は、人が死んだのに悲しくならないんだろう)


それはジュエラーの戦いに感覚が麻痺したのか、それとも自分が元々冷たい人間だからなのか。


それでもテルは、キラを護りたい思いだけは失わないと決めた。






《エレメントキラー》


アキラはユカリの放つサードニクスのガトリング砲をかい潜り、炎の拳をユカリの腹に叩き込んだ。


《ボンバーキラー》


その瞬間ユカリの体が爆発し、アキラは地面を物凄い勢いで転がった。そして、起き上がった瞬間に、ユカリの蹴りを顔面に喰らう。


《バーストキラー》


「いやっハアアァァァァァゥ!!」


ユカリは歓声をあげながら両手持ちの大砲でアキラを殴り飛ばし、そのまま狙撃した。

やがて煙が晴れると、そこには誰もいなかった。


「逃げちゃった?」


ユカリは辺りをキョロキョロと見渡し、誰もいないことにガッカリした。


「うーん、ガちゃんはあんまり面白くないなぁ」


ユカリはスキップしながらその場を離れた。

ユカリがその場を去って暫くしてから、アキラは物陰から出て来た。

負傷した左手を押さえてヨロヨロと歩いていたが、我慢出来ず倒れてしまう。


悔しかった。

ユカリに勝てない自分がふがいなくて許せなかった。



「くそ……ちくしょおおおおおおお!!!!!」


アキラの叫びが周囲を震わせた。一人の憎悪が、虚しさを纏って増大していった。

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