26話:ツインイレブン
キラは学校が終わると一人で家路についていた。
最近は友達と帰ることもしていない。
もう二学期も終わりが見えた、本当に時間の流れがあっという間だと思えた。
ジュエラーになってからの日々は忙しく、いつもの日常を忘れてしまいそうになる。
今日になるまで、修学旅行が間近に来ていることを忘れかけてしまっていた。
ただ、旅行になど行ってもいいのだろうか。キラはそのことで悩んでいた。
「キラ」
そこへ突然、誰かが話し掛けてきた。
キラが驚いて顔を上げると、目の前にテルがいた。
「ここへ来るのも久しぶりね」
キラはテルの言葉に頷いた。二人は同盟を組んだ日に来たおでん屋を訪れたが、此処へ来たのも大体二ヶ月ぶりだ。
「テルは何食べる?」
「ちくわと…大根をお願い」
「分かった。おじさん、ちくわと大根二つずつ」
注文すると二人は席に付いた。
「キラ……そういえば貴女は、修学旅行はいつなの?」
「一週間後だけど、行っていいのかな……」
テルはキラの発言にテルは首を傾げた。
「どういうこと?」
「だって…旅行に行っている間は、モンスターが出ても対処できないから」
テルは溜息を吐いてキラを見た。
「キラ。貴女修学旅行くらい普通に楽しみなさいよ。私達学生なんだから」
「でも、私はモンスターから人を守らないと」
「キラ」
テルはキラの側へ近寄ると、そっとキラを抱きしめた。
「貴女は人を守りたいだけよ」
「え?」
「貴女は守りたいから戦っているの……人を守らなきゃいけないって自分に言い聞かせてたら駄目よ」
前々からテルが言いたいことだった。
キラは人を守ろうとしてジュエラーになった。
しかし、戦いが進むにつれて犠牲者は増えていくばかりで、中にはキラの目の前で死んでしまった人もいた。
そういった人々を見るうちに、キラの中で『これまでに亡くなった人達のためにこれからは人を助けなくてはいけない』という強迫観念が生まれてしまったのだ。
「あまり自分を責めないで…貴女が死んでしまった命を背負わなければならないなんてことないんだから」
「テル………」
キラは肩から重荷が取れた感覚になった。
だがそれに甘えてはいけない。テルの優しさに甘えてしまっては駄目なのだ。
ただ、今だけはこの温もりに甘えておこう。
キラはそっと目を閉じて身をまかせた。
少しはあの子の負担を減らせただろうか。
テルはそう考えながら家路についていた。
キラの進む道を考えれば少し不安をやわらげたところで、楽になる訳ではないがあのままよりはずっといい。
テルが思案していると、突然梟の様な姿のモンスターが襲い掛かって来た。
テルは素早く攻撃をかわすと、アメジストに変身する。
「変身!」
アメジストに変身すると、モンスターを追ってゲートを潜った。
ゲートを潜ると、その瞬間にモンスターが襲い掛かって来る。
テルは回避して辺りを見渡す。すると、遠くに同じく梟のモンスターと戦っているアキラの姿が目に入った。
テルは背後から迫り来るモンスターを切り捨て、モンスターは地面を滑っていく。
とどめを刺そうとした瞬間、橙色の光弾がモンスターを消し飛ばした。
テルは驚くと同時に何者かの気配を感じて周囲を警戒する。
そして、モンスターを倒した者を見つけた。
橙色の装甲を全身に纏い、特に両腕には一際厚い装甲が装着されている。
一方、アキラの前にも謎のジュエラーが現れた。
それは、テルの前にいるジュエラーとほぼ同じ姿をしていた。
違う点はどこかというと、カードの差し込み口が右腕にあるか左腕にあるかという所だろう。
「お前は…」
テルとアキラ。
二人の前に立ち塞がるジュエラーは、自分の名を告げた。
「俺は…トパーズだ」
「僕は…トパーズだ」
キラの足取りは軽かった。
テルが仲間でいてくれることが支えになっている。
自分でもそれはよく分かることだった。
(これからのこと……ちゃんと考えないと。私のしたいこと、私のするべきこと)
決意を新たにし、一歩踏み出して前を見ると………
キラの前に、白い炎を纏った不死鳥がいた。
何故不死鳥と分かったのかは分からない。ただ、その姿、存在が不死鳥と思わせる雰囲気を全身から放っていた。
そしてダイヤドラゴンが空間を裂いて現れ、キラの前に出る。
目の前の不死鳥と睨み合い、緊張がキラを襲う。
その時、不死鳥の後ろから何者かが出て来た。
少女は純白のドレスの様な装甲をしていた。
スカートの丈は短く、肩や所々の装甲は透明に澄んでいる。
少女は薄く笑うと、キラに話し掛けた。
「初めまして、ダイヤモンド」
「貴女は…?」
キラの問いに、少女は答えた。
「私はラピスラズリ。そう言えば、分かるわよね?」