24話:永遠、真心の中で
「………」
キラは何が起こったのか分からなかった。
キラは力を無くし、地面にひざまづく。
テルは続けて、キラを蹴っ飛ばした。
キラは口から血を吐きながら倒れた。
《マッハキラー》
「!?」
《ディフェンスキラー》
テルがカードを使ったことに気付くと、何とか反射的に防御のカードを使う。
目に見えない速度で切り付けてくる刃を防ぎながら、キラは声を絞り出した。
「テル、何で」
「………死んで」
「嫌、テル、何で」
「!……死んで、今すぐ!!」
《スラッシュキラー》
テルの剣が紫色の光を纏い、キラの盾を叩き斬った。
尚も剣は振るわれ、キラの装甲を切り刻む。
キラは剣に切られながらもテルに必死で話し掛ける。
「お願い、テル、やめて」
「私が好きなら…ここで大人しく私に殺されなさい!!」
「嫌! 嫌だよぉ!!」
《サモンキラー》
キラが呼び出したダイヤドラゴンがテルを弾き飛ばし、キラを乗せて遠くへと逃げて行った。
「…………」
《スラッシュキラー》
テルは剣から紫色の刃を飛ばし、衝撃波でキラを追撃する。
ダイヤドラゴンは巧みにかわして回避する。
やがてテルの剣から光が消え、テルは怒りに任せて叫んだ。
「キラ! キラ! キラアアアアァァァ!!!」
「………」
キラは涙を流しながらテルの叫びを背に受けた。
マリスは家の扉を乱暴に閉めると靴を乱暴に脱ぎ捨てて上がり込んだ。
「信じらんない、あの赤髪覚えときなさいよ」
マリスがぶつぶつ文句を言いながら歩いていると、リリーが駆け寄って来た。
「マリス、怪我してるじゃない!」
リリーはマリスの頬に手を当ててジッと見つめた。
そこにはかすり傷が出来ており、リリーは酷く動揺した。
「こんなの平気だよ。それよりもねお姉ちゃん、私一人殺したから一歩前進だよ」
リリーの動きがビクッと止まった。
「……そ、それより早く手当てしないと。傷が残ったりしたら大変よ」
リリーはぎこちないながらもニコッと微笑んだ。
マリスはそんな姉に思いっ切り抱き着いた。
「お姉ちゃん大好き!」
キラは道端のベンチに座り込んでいた。
その顔には、もう何の光も宿っていなかった。
「………」
キラにとってテルに殺されかけたのはショック以外の何物でもなかった。
確かに冷たい所はあったけれど、それでも少しの間一緒に戦ったのに……
もうキラは何を信じればいいのか分からなかった。
ジュエラーの戦いを止められもしない。全ての人をモンスターから守れているわけでもない。
自分が何をすればいいのか、どうしたら良かったのか全く分からなかった。
その時、キラの前に突然一台の車が止まり、中からテルの執事が出て来た。
「爺やさん…?」
「キラ様、探しました! 貴女に、どうしても見てもらいたいものがあるのです」
「………」
一人の女性が病室のベッドで横たわっていた。
キラと執事が部屋の片隅で眺めている今も医師達がドタバタと働いている。
「……あの方が、テルお嬢様の母上でございます」
執事は小さな声で語り始めた。
「つい先日、奥様の容態が悪化されて……もう、限界だそうです」
「限界って、まさか」
執事は静かに頷いた。
「テルお嬢様は苦悩なされました。そして、最後の手段を強行しました」
キラは黙って執事の話を聞いていた。
「ジュエラーとして勝ち残ることです。しかし、お嬢様はどれだけ冷徹に振る舞おうとしても、非情に成り切れる方ではありませんでした。そこで……キラ様。貴女を選んだのです」
「選んだ?」
「はい、最も身近で戦ってきた貴女を殺せば……きっと、精神的にも後戻り出来なくなると。そうお考えなのです」
だからあんなに必死に私を殺そうとしたのか。
キラの中でドンドンつじつまが合ってきた。
その時、いきなり執事が頭を下げた。
「キラ様、テルお嬢様を救ってください! 他の誰でもない貴女しか……テルお嬢様が選んだ、貴女にしか出来ないのです! 」
キラは屋上で黄昏れていた。
一体どうすればいいのだろうか。
結局、執事の頼みには答えられなかった。
キラは、自分が信じられなかった。
何も出来なかった自分が、今更テルを救うなんて出来るはずがない。
「出来なかったから、今からしなきゃいけないんじゃないのかい?」
突然頭上から声が聞こえた。
キラには誰の声だかすぐ分かった。
「パサラン……」
「相変わらず、君は悩むことのスペシャリストだね」
パサランにしては珍しく、冗談まじりで話し掛けてくる。
ただ、皮肉を込めている所はパサランらしい。
「私、どうしたらいいの?」
「僕にアドバイス求めるなんて自殺行為だね……そうだな、君のしたいようにすればいい」
キラはまた俯いた。
「私、自分が何したいかなんて分からないよ」
「そんなはずはない」
キラはパサランを見上げた。
パサランはフワフワと移動してキラの前へと行く。
「君にしたいことがないなんてありえないよ。だって君はジュエラーなんだから……君は自分の思いを伝えるだけでいい」
そして、パサランの中から光に包まれた一枚のカードが現れた。
「君が自分の思いを伝えるのに……この力は不要かい?」
パサランはキラに問い掛ける。
キラは……………
アキラが道を歩いていると、前からユカリが現れた。
アキラは反射的に身構える。
「何の用だ」
「えっとねー、戦いたい」
大体そんなものだろうと思っていた。
ユカリに人並みの悩みがあるとも、用件があるとも思えない。
「変身!」
「変身!」
ガーネットとサファイアへと変身すると、ジュエルワールドへとゲートを潜って移動する。
二人が移動してから数分後、キラもその場にやって来た。
二人の戦っている気配を感じたのだ。
「キラ」
後ろからキラを呼ぶ声がする。
キラは振り向いた。
そこには、テルがいた。
ずかずかと近付いてくる。
目の前で二人が対峙すると、キラが口を開いた。
「中途半端じゃテルに応えられないと思うから……いいよ、戦おう」
「……………」
二人は無言でカードケースを向け合う。
二人の腰にバックルが装着され、二人はデッキを挿入する。
「「変身!」」
《アームキラー》
《スラッシュキラー》
キラの拳とテルの剣が何度もぶつかって激しい火花が散る。
テルが思いっ切り剣を横に振るとキラの頭に当たり、地面を転がり回る。
《バーストキラー》
七色のダイヤモンドがテルに襲い掛かり、テルはダイヤモンドを次々と弾いていく。
《オフェンスキラー》
キラは右手にドラゴンヘッドを装着するとテルに接近し、思い切り腹を殴る。
空中に浮いたテルに次々とダイヤモンドが追撃する。
《ディフェンスキラー》
《スラッシュキラー》
キラの右腕にドラゴンシールドが付けられ、更に左手にダイヤソードを握る。
《ディフェンスキラー》
《スラッシュキラー》
キラの両手に盾が装着され、二刀流でテルと切り合う。
「っ!」
《イリュージョンキラー》
テルは分身してキラを撹乱する。
キラは剣を一本捨てて、新しくカードを使う。
《フラッシュキラー》
キラの右手から強烈な閃光が広がり、テルの分身が消滅する。
テルは次のカードで切り替える。
《マッハキラー》
テルは高速で動いてキラを少しずつ切り裂いていく。
《ディフェンスキラー》
キラの周囲を光の竜巻が覆い、竜巻に阻まれたせいでテルの動きが一瞬止まる。
その隙を突き、キラはテルを押し倒して顔を何回も殴る。
<《エターライト》>
テルの体から暴風が吹き荒れ、キラは吹き飛ばされる。
体を起こすと、エターライトにパワーアップしたテルが立っていた。
キラはテルに近付いて切り掛かる。
テルが剣を振るうとダイヤソードが砕け散り、続けて振ってキラのシールドを切り裂く。
<《スラッシュキラー》>
藍色に輝く剣がキラの装甲を瞬く間に切り裂いていく。
テルの拳がキラの顔面に命中し、キラは落下してしまう。
コンクリート橋の上に倒れたキラに、テルが一歩一歩近寄る。
「戦え……戦え…」
テルは自分に言い聞かせるように呟く。
震える剣が、テルの迷いを表している気がした。
「私と……戦え!」
毅然としたふりをして声を搾り出すテルの姿に、キラは堪えられなかった。
「だけど……やっぱり、私は!」
キラは立ち上がり、デッキからカードを引き抜く。
ゆっくりとカードを顔の高さまで持って来る。そして、パッと反転させた。
そのカードには、桃色の光に包まれた翼が描かれていた。
テルは一瞬でそのカードが何なのか理解した。
キラが左手を突き出すと、竜頭型の装置が粒子に分解し、姿を変えた。
左手に握られた柄の先にはおおぬさの紙の代わりに何本もの細いダイヤモンドが付けられた物があった。
キラが少し動かすだけで、シャラシャラと音が鳴る。
次の瞬間、キラの周囲を桃色と銀色の光が包んだ。それに対抗するかのごとく、テルの周囲も藍色と白い風が包む。
二人は見つめあい、お互いを見た。決して目を逸らさずに。
《スラッシュキラー》
ユカリは斧を握るとアキラに思いっ切り振り下ろそうとする。そこに、突然フウヤの鞭が叩き込まれた。
《スクリーンキラー》
そこへユカリが持っていたものと同じ斧を持ったマリスが飛び込んできた。
ユカリは斧を捨てて身軽になると振り下ろされる斧を回避した。
アキラは突然の乱入に動揺したものの、すぐに全員を視界に入れて様子を伺う。
マリスとしてはアキラを潰したかったが、どう考えてもユカリの方が厄介なため、ユカリの排除を優先することにした。フウヤは最初からユカリを倒すことを考えて来た。
フウヤの鞭が真っ直ぐユカリの顔面を狙い、襲い掛かる。
ユカリは難なく鞭を避けるも、続けざまにマリスが斧を振り下ろしてきた。ユカリはとっさに後方にジャンプして回避する。
《エレメントキラー》
空中に浮いてまともに動けないユカリの顔面に、炎を纏ったアキラの拳が叩き込まれた。
ユカリはズザザザと音を立てながらコンクリートの地面を滑っていく。
「アッハハハハハハハハハハ!! いいよいいよ、面白くなってきた!」
ユカリは笑いながら起き上がり、カードを魔導書に差し込んだ。
《フュージュンキラー》
三体のモンスターが現れ、一つに合体する。
カラージョンが咆哮をあげると、全員が身構える。
そこで、全員はあることに気がついた。そしてそこへ視線が釘付けになる。
ユカリも全員が何かを見ていることに気付き、皆の視線の先……自分の背後を首を回して見た。
アキラ達が見つめる先には、今まさにカードを使わんとするキラの姿があった。
キラはカードをオオヌサの柄にある挿入口に入れようとする。
迷いが無かった訳ではない。本当にこの力を使っていいのか分からなかった。
ただ、今はこの力がいる。
テルと正面から話し合うには、力が必要なのだ。
キラはカードを差し込み、カバーを倒した。するとカードは中に仕舞われ、効果を発揮する。
<《エターライト》>
光がキラを包み、辺り一面を照らすと、キラの姿が変わった。
体の装甲の所々に刺刺しい竜を模した装飾がなされ、左目を長いダイヤモンドが隠し、中の桃色の宝石がキラキラ光り輝く。
キラは、ダイヤモンドエターライトへと進化を遂げた。
ダイヤドラゴンが咆哮をあげながらキラの側にやってくる。
すると、ダイヤドラゴンも刺刺しい皮膚と体にバイクの車輪を付けた姿へとパワーアップする。
バードアメジストもやって来て、その姿をスカイアメジストへと変えた。
エターナルドラゴンとスカイアメジストが咆哮をあげ、互いを威嚇する。
キラとテルは、尚も真っ直ぐ見つめ合っていた。
互いの全力を出し合っている今、二人はようやく正面から話し合うことが出来る。
キラは口を開き、自分の思いをテルに告げる。
「私は、絶対に死ねない」
「…………」
「貴女が後戻り出来ないように死ぬなんて、出来ない」
「お母様を救うにはそれしかないの……貴女だって分かってるでしょう!!」
「そうだとしても……たとえ貴女を傷つけるとしても……貴女に、人を殺させない!!」
「……やってみなさい」
<《スラッシュキラー》>
<《アームキラー》>
テルの剣に藍色のオーラが纏わり、刀身が伸びる。
キラの両手に常に輝きを放つ宝石が散りばめられた装甲が装着される。
二人は歩みを進める。
エターナルドラゴンとスカイアメジストがそれぞれ口から光弾と念波を放ち周囲が次々と爆破していく。
爆発する中、二人は真っ直ぐ進み、互いの武装をぶつからせた。