23話:心の拠り所
キラは自室のベッドで寝ていた。
色々なことを考えた。
自分が人を守るためだけに戦うことや、ジュエラーを殺さないことは間違っていたのだろうか。
キラはゆっくりと起き上がった。
一人では堪えられそうにない。誰かと一緒にいたい。話をしたい。
アキラさんは……駄目だ。
きっと話を聞いてはくれるだろうが、同意はしない。アキラの叶えたい願いは、そばで何度も聞いてきた。
フウヤも、ユカリも、マリスも駄目だ。
ゴウカともわだかまりがある。
なら………
「テルゥ……」
もうテルしかいなかった。
あれだけ一緒にいたのだ。テルなら分かってくれるに決まっている。
キラはそう思ってテルに縋った。
「お嬢様、本気なのですか!?」
執事はテルを呼び止めた。
テルは立ち止まって執事に話し掛ける。
「……もうこれしかないの」
「ですが……取り返しは、つかないのですよ」
テルは虚しく、薄ら笑いをした。
「だからよ……取り返しつかなくならないと、意味がない。キラしかいないのよ……キラなら受け止めてくれる」
そう言って出て行ってしまった。
奇しくも、キラとテルはお互い検討違いに縋っていた。
「……お嬢様!」
執事は扉を開けて外を見渡すが、既にテルの姿はない。変身してジュエルワールドに行ってしまったのだろう。
「お嬢様……キラ様」
執事は思い悩んだが、駆け出して車に乗り込んだ。
キラはフラフラと歩いてテルの家へと向かう。
テルならきっと話を聞いてくれる。そう信じていた。
その時、キラの頭にキーンと甲高い音が響いた。
モンスターが現れた証だ。
「行かないと……」
モンスターが出たのなら、誰かが犠牲になる前に行かなければならない。
救えるだけの人を救わなければならない。
キラはモンスターがいるであろう場所へと向かった。
ゴウカは猿型のモンスターの攻撃をなすがまま受けていた。
殴られるのも蹴られるのも抵抗せず、ボロボロになっても反撃しなかった。
(ワシは人殺しだ……生きていても仕方ない)
ゴウカは自分の犯した罪に耐え切れず、このまま死のうとしていたのだ。
真っ直ぐに生きる人間を志し、世界をそんな人で構成すれば、必ず良い世界になると信じていたゴウカにとって、人を殺したという事実は到底耐え切れるものではなかった。
三匹のモンスターがトドメを刺そうとした瞬間、アキラが飛び込んできた。
《オフェンスキラー》
アキラの拳から衝撃波が飛び、一匹のモンスターを吹き飛ばした。
続いてキラがダイヤドラゴンに乗って現れ、モンスターを全員引き連れて行った。
アキラはゴウカに駆け寄った。
「随分と情けなくなったな……どうした?」
「殺してくれ……ワシはもう正義になれん」
落ち込んだゴウカを前に、アキラは面食らった表情をしたが、モンスターと戦うキラを指差した。
「ダイヤモンドを見ろ。あいつだって悩んでる……それでも、人を助けるために戦うのをやめていない。逃げ出して楽になろうなんて考えてすらいない」
「しかし、奴は」
「お前に何があったか知らないが、お前の正義はあいつみたいに弱くて真っ直ぐだったんじゃなかったのか?」
ゴウカは昔の事を思い返した。
小さな自分は弱くて、でも曲がったことは大嫌いで。
自分を曲げたくなくて強くなった。
だが、強くなる前の自分は……あんなふうに、誰かのために一生懸命ではなかったのか。
「そうだな……かつて憧れていたのは、ダイヤモンドのように、全てを救おうとすることだった」
もう一度、立ち上がろう。
彼女のように、人のために戦おう。
そう思い、ゴウカは立ち上がった。
《スクリーンキラー》
その瞬間、拳型の赤い衝撃波がアキラとゴウカを襲った。
ゴウカは俯せに、アキラは仰向けに倒れる。
ゴウカは見えなかったが、アキラには見えていた。
ゴウカの後方から、マリスがアキラの技をコピーして襲ったことが。
マリスはカードを引き抜くと、肩に差し込んだ。
《ファイナルキラー》
マリスの背後に白黒の亀が現れ、ネガとポジを交互に写す鏡を召喚する。
マリスが両手でそれを叩くと、左右で白と黒に分かれたビームが発射された。
「やめろ!!」
アキラは悲痛に叫んだが、もう止まらない。
ゴウカが起き上がった瞬間、その体はビームの直撃を受けた。
「ぬおおおおおおぉぉぉ!!」
バチバチと全身から火花が散り、全身がビームに包まれると同時にルビーのデッキケースが砕け散った。
「何故だ……」
アキラはよろよろと立ち上がってマリスに問い詰めた。
「同盟を組んだんだろう!?なのに、なんで」
「ありえないでしょ、昨日の今日で使い物にならなくなるなんて……あと数日は駒になると思ったんだけどなぁ」
マリスは呆れた様子でゴウカのデッキが壊れたか確認した。
「最初から裏切るつもりだったけど、ホントにどーしようもない奴だったわ」
アキラはこの命を何とも思ってないマリスの態度に激昂した。
「お前……人の命を何だと思ってるんだ!」
「どーでもいいわよ。私、お姉ちゃん以外どうでもいいし」
マリスは面倒臭そうに答えた。
アキラは怒りのままマリスに襲い掛かった。
《アームキラー》
「うおおおお!!」
マリスがゴウカとアキラを襲撃した頃、モンスターを全て倒したキラは二人の危機を悟った。
早く助けなければ、と思った瞬間、キラの足元に斬撃が飛んできた。
「!?」
キラは驚いて立ち止まり、辺りを見渡した。
そこで、ある人物を見つけた。
「……て、テル?」
そこにいるのはアメジストに変身したテルだった。
テルを見つけたキラは、テルに急いで駆け寄った。
「テル、あのね、私、えっと……」
今まで溜めに溜めたことを言おうとして、上手く言葉が出ない。
そんなキラに向かって、テルはボソッと呟いた。
「……い、……て」
「な、何?」
キラはテルが何を言ったのか聞き返した。
そして、今度ははっきりと告げた。
「お願い、死んで」
《スラッシュキラー》
テルは紫色に輝く剣でキラを切り付けた。