22話:折れる心
トルマリンは沈黙を保ったまま皆を見下ろしていた。
その装甲は、手足は赤く輝いているものの、胸だけは紫、青、緑、黄色、褐色、ピンク、黒など、多彩な色で彩られていた。
「お前、何者だ?」
アキラはトルマリンに正体を明かすよう要求した。
しかし、トルマリンはそれを無視しし、ドラゴンヘッドを外してアキラに投げ付けた。
アキラは炎を纏った拳でドラゴンヘッドを焼き消す。
その瞬間、トルマリンは肩の差し込み口にカードを差し込んだ。
《スクリーンキラー》
トルマリンの胸の装甲に埋め込まれたレンズが輝き、カメラのフラッシュの様に辺りを眩しい光に包む。
すると、トルマリンの両手にアキラと同じ、赤い炎が纏われた。
「な!?」
アキラが驚くのも構わず、トルマリンはアキラに襲い掛かった。
「ま、また」
キラは新しいジュエラーの出現に動揺して気後れする。
すると、生き残っていたモンスターが現れた。
キラはモンスターを倒すためカードを使った。
《バーストキラー》
七色のダイヤが現れ、キラが手を向けるとダイヤがモンスター目掛けて一斉に向かった。
その時、アキラと交戦していたトルマリンが不意に下がって、ダイヤの射線上に入って来た。
「あ!?」
キラはダイヤの軌道を逸らそうとしたが間に合わず、ダイヤの一つがトルマリンの肩を掠めた。
そして、軌道を逸らしたせいでダイヤはモンスターを通り過ぎてゴウカの足元に着弾した。
「貴様、卑怯な!!」
ゴウカはキラに怒った。
戦いたくないだの言っておいて、騙し討ちをしたことが許せなかったのだ。
当然誤解のため、キラは否定する。
「ち、違う」
しかし、言葉が出ない。
否定したいはずが、何を言えばいいか分からない。
アキラは取り合えずモンスターを倒し、これ以上場が混乱しないようにした。
ゴウカはトルマリンに近付き、声を掛けた。
「大丈夫か?」
「ええ……」
トルマリンは肩を痛そうにしながら立ち上がる。
ゴウカはキラを睨みつけた。
「あいつ、あんな巧妙な騙し討ちをするとは……許せん」
「私も……正々堂々と戦いたいだけなのに」
トルマリンの言葉に、ゴウカは驚愕した。
「お前も、正々堂々とした世の中を望んでいるのか?」
「ええ」
「ならば、共に戦おうぞ!」
ゴウカはトルマリンと共同戦線を張り、共に戦おうと誘う。
トルマリンは頷き、二人でキラを見る。
《フュージョンキラー》
その瞬間、廃工場の壁が崩れ、外からカラージョンが乱入してきた。
そして、その背中からユカリが降りてきた。
「フウヤ君が遊んでくれなくて退屈なので、来ちゃいました♪」
ユカリは工場の中を指差した。
「やっちゃえ」
カラージョンは咆哮をあげ、強力なビームを乱射した。
工場のあちこちが爆破し、皆は命からがら逃げ出した。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
キラはジュエルワールドを脱出して電信柱にもたれ掛かった。
疲れがドッと押し寄せて来る。
もう帰ろう……と思った所で隣にゲートが発生して誰かが出て来た。
「ったく何よあの女……頭おかしいわねやっぱり」
隣の少女はぐちぐちと文句を呟く。
その時、少女はキラの視線に気付いたのか、ジッと睨む。
「何?」
「いや、その……」
キラはどうしたらいいか分からず、呆然としていた。
恐らく、この少女が新しいジュエラーなのだろう。そう予測した時、ある疑問が浮かんだ。
「あの……」
「何?」
「肩、怪我してたんじゃ……」
この少女がトルマリンなら、キラのバーストキラーで肩を怪我したはずだが、少女はグルグルと肩を回している。
少女は深い溜息をついた。
「あのね、あんなの大した怪我じゃないでしょ。やっぱルビーって馬鹿だったわ。あんなに簡単に騙されちゃってさー」
キラは唖然とした。
どうしてこの少女は自分を嵌めるようなことをしたのだろう。
「どうして、あんなことを」
「いや、あんたの考えに他の誰かが賛同したりすると厄介だからね」
「そ、そんな理由で貴女……」
「私は十和マリス。騙したお詫びに教えてあげる」
マリスはキラに自分の企みを打ち明けた。
「私、どうしても叶えたい願いがあってね。取り合えず、今は騙し易そうなルビーと同盟組んで、裏切るつもり」
「そんな……」
キラは信じられなかった。
どうして彼女はそんな事を平気で言えるのだろうか。
「どうして、人の命をそんな簡単に扱おうとするんですか!?」
「叶えたい願いがあるの。私と、お姉ちゃんのために」
キラはマリスの言葉を聞いて、押し黙った。
もしかしたら、テルのように命に関わることかもしれない。
「大体おかしいよね。好きな人と結ばれないとか」
「……?」
「私、お姉ちゃんと結婚したいの。大好きだから」
キラはマリスが何を言っているのか分からなかった。
呆然とするキラを余所にマリスはその場を立ち去った。
「じゃ、ごめんねー。いつか殺すことになっても許して」
「何なの、え……?」
もうキラは何が何だか分からなくなっていた。
マリスの目的も、ゴウカとの誤解も、テルとのすれ違いも。
もう何もかもが嫌になってきた。
全てに疲れてしまった。
何も考えたくない。
キラは地面に膝を付き、倒れ込んだ。
アキラはキラの額に濡れタオルを乗せ、一息ついた。
あのあと、倒れたキラを家に連れていってベッドに寝かせたところだ。
「しかし、お前が助けを呼ぶとは随分と珍しいな」
そう言ってアキラは窓にもたれたパサランに目を向けた。
パサランは興味なさげに答える。
「キラにはまだ死んでもらっては困るからね」
「困る?」
アキラはパサランの意図の分からない発言をいぶかしげに疑う。
「キラの結末が気になるんだ。どんな終わりを迎えるのか、ね」
パサランはそれだけ言い残すと飛んで去ってしまった。
ゴウカは河川敷を歩いていた。そんなゴウカの心中は決して穏やかではなかった。
「ダイヤモンド……あやつ、戦いを好まないようなそぶりをしておったのに」
先日のことがまだ許せないでいた。
キラの考えは闘いを望むゴウカと一致しなかったが、少なくともゴウカはキラの信念を嫌ってはいなかった。
こんな殺し合いの中でも己の信念を貫く姿勢に敬服すらしていた。
「なのに、不意打ちなどとは…」
その時、誰かの泣き声が聞こえた。
ゴウカはすかさずその場へ向かった。
見ると、前に子供を虐めていた高校生達がまた同じことをしていた。
「貴様ら、いい加減にせんか!」
「げっ、お前は!?」
高校生達はゴウカの姿を見ると一目散に逃げ出した。
ゴウカはそのうち一人を捕まえ、反省させるつもりで思い切り顔面を殴る。
ただ、ゴウカはあることを忘れていた。
ジュエラーとして戦う事で、身体能力が飛躍的に上昇していることを、ゴウカは失念していた。
高校生の顔面に拳がクリーンヒットし、思い切り地面を転がった。
鼻や口から血が流れ出し、ぴくりとも動かない。
周りの高校生達は不審がって倒れた男に集まった。
そして、そのうち一人が悲鳴をあげた。
「お、おい、死んでるぞ!」
「ば、馬鹿な!」
ゴウカが慌てて駆け寄ると、残った高校生達と後ろから見ていた子供達が一斉に逃げ出した。
「ひ、人殺し!」
「い、嫌だあああああ!」
「ああああああああ!」
「ママーぁ!!」
全員が悲鳴をあげながらその場から逃げていく。
ゴウカはこの事態を飲み込めず、立ち尽くしていた。
自分が、人を殺してしまった……? それも、ただの一般人を。
「違う…違うんだあああぁぁぁ!!!」
ゴウカの叫びが、虚空に消えていった。
その叫びを聞くものは、誰もいない。
テルは携帯電話の通話を切ると、テーブルに置いた。
今知らされた事態に、テルは堪えられなかった。
自分を抑える、事態を解決する方法は、もう一つしかなかった。
「キラ……」