21話:ネクストキャプチャー
十和リリーは夜道を歩いていた。
軽い買い物で、ちょっと出てすぐ帰るつもりだったのだ。
ただ、予想外の事態に陥ってしまった。
「なぁなぁ姉ちゃんよお。ちょっと俺らとお茶してくれよー」
「悪くしねぇからさぁ。へへへっ」
絡んで来る不良二人組に捕まり、ナンパにかかっていた。
リリーの容姿は美しくもあり、同時にか弱い印象を与えるため、このような不良の恰好の標的だった。
「止めてください、やめて!」
リリーは恐れていた。
ただ、不良にではない。
今も自分の傍にいるかもしれない彼女に怯えていた。
「お願いです! 早くしないと……」
そう言ってリリーが不良に逃げるよう言おうとした瞬間、不良達の姿が消えた。
「!?」
リリーはまた起きた事態に恐怖する。
不良達は消えたのでは無い。引き込まれたのだ。
「ぁぁ、ぁぁ……」
微かに不良達の悲鳴が聞こえる。
それはゲートを隔ててある向こうの世界で行われていた。
本来一般人であるリリーにはジュエルワールドはおろかゲートすら視認出来ないはずだが、リリーには見えていた。
正しくは、見させられていた。
粛正を終えた少女は、そっとリリーに向けて微笑んだ。
リリーはゲートを隔てて笑顔を向けて来る少女の名を、そっと呟いた。
「マリス……」
放課後の教室、キラは帰ろうともせずに窓の外をぼんやりと眺めていた。
以前のテルのことを思い出しては溜息をつく。
結局あれから一週間、テルとは一言も話していないし、顔を合わせてもいない。
「テル……」
<《マッハキラー》>
テルは通常のマッハキラーよりも更に速いスピードで移動し、ユカリを切り付ける。
ユカリの体にみるみると切り傷が増え、剣の一閃でユカリを吹き飛ばす。
<《スラッシュキラー》>
テルの剣に藍色の光が纏い、刀身が十数メートルに伸びる。
それを振るい、ゴウカの装甲を切り刻んだ。
<《サモンキラー》>
テルの召喚に従い、バードアメジストが現れた。
するとバードアメジストが姿を変え、咆哮する。
全身を覆うアメジストの宝石の刺々しさが増し、翼にアメジストで出来た車輪が現れる。
バードアメジストは、その姿をスカイアメジストへと強化したのだ。
スカイアメジストは全身から波動を放ち、それが強風となって皆を襲う。
身を切り刻む強風から逃げるように全員が逃走を始めた。
そして、それきり一度も会えずに今日に至ったのだ。
テルの家に行けばいいのだろうが、何だか会いに行く気になれなかった。
「……あ」
その時、キラの前にパサランが現れた。
白い体をふわふわさせながらキラの机に着地する。
そして、キラに話し掛けた。
「何か、聞きたいことはないかい?」
「……テルの、あのカードのこと」
恐らく、パサランは最初からその話をするために来たのだろう。
すぐに話を始めた。
「あれはエターライト。使用者を大幅に強化するパワーアップカードさ。ケセランがあげることになっているんだ」
「じゃあ、貴方もそれを持っているの?」
「ああ、戦いがすぐに終わらないよう、調整するためにね……欲しいかい?」
パサランはキラに尋ねた。
別に今この場でキラにカードを託してしまってもいいのだ。
強い力を手にすればジュエラーの制止力になるはず。
そうでなくとも、モンスターを倒すのに役立つはず。
キラにとって断る理由はない。だが、キラは躊躇った。
果たして、自分が力を得ていいのだろうか。
自分が力を手にして、この戦いが引き延ばしになってしまってもいいのだろうか。
「……まぁ、迷うようならあげないけどね」
躊躇しているキラに痺れを切らしたのか、それともこれ以上キラを迷わせないためか、パサランは誘いを打ち切った。
「ただ、覚えておいた方がいいよ。君が躊躇している内に、状況はどんどん変わって行くんだから」
パサランはそれだけ言うと、キラの前から飛び去った。
キラは、机にうなだれて目を閉じた。
リリーは夕食を作って机に並べていた。
今日は両親が出張のため、自分で料理しなければならない。
その時、隣に誰かが立っているのを感じ、肩まで伸びた黒い髪を揺らして振り向いた。
「マリス……お帰りなさい」
「お姉ちゃん、ただいまー」
マリスは白と青のグラデーションのかかった髪をいじりながら席についた。
妹が帰って来たことに安堵して、夕食を食べ始めた。
「お姉ちゃんシャンプー変えた? 良い香りだよ」
「ありがとう……あの、マリス」
「何?」
「その、もう戦うの、やめない?」
リリーはマリスに提案した。
マリスはふるふると首を振って拒否した。
「やだ。お姉ちゃんの頼みでも聞けない」
マリスには叶えなければならないと確信している願いがあった。
そして、それは姉の為でもあると確信していた。
リリーは今日の説得を諦め、マリスと世間話を始めた。
その途中で、マリスが箸を止めた。
「……お姉ちゃん、私ブロッコリー嫌い」
「駄目よ。好き嫌いしちゃ……」
リリーが説教をしようとすると、突然マリスが立ち上がった。
「あれぇ、おかしいなぁ」
空気が変わったことをリリーは感じた。
冷たい空気を抱きながら、リリーの隣までマリスが歩いて来る。
逃げようとすることも出来ず、マリスが近づいて来るのをただ待つだけだった。
「私が嫌いって言ってるのに、どうしてお姉ちゃんはそんなこと言うのかな」
「いや、その……」
しまった。
リリーが失言に後悔した瞬間、マリスがリリーの腹を思い切り殴りつけた。
「がっ、」
マリスはリリーの前髪をわしづかみにすると床にたたき付け、キッチンにもたれ掛かせるて何度も蹴りつける。
「何で、どうして、私と同じ気持ちでいてくれないのかな!?」
一際強く蹴ったあと、さっきまでとは一転して慈しむようにしてリリーの頬に手を合わせて撫でる。
そしてゆっくりと、優しくリリーに口づけた。
長い長いキスを終え、マリスはリリーの薄い胸にうずくまって呟いた。
「お姉ちゃん、大好き」
またか、とリリーは思った。
もう何回も今やったことを繰り返している。
妹の機嫌を損ねれば暴力を受け、かとおもえば深い愛をぶつけられる。
リリーだって、殴られて良い訳がない。
これが他人から受ける暴力なら全力で逃げようとするはずだ。
ただ、相手が妹のマリスで、その行動の根底に自分への好意が含まれていることを知っていると、どうしてもリリーにはマリスを拒むことは出来なかった。
だから、リリーはマリスの頭を撫でながらそっと呟いた。
「私もよ……大好き」
「フウヤくーん。遊ぼ〜。ドッジボールとか」
「…………」
フウヤは傍らでしつこく話し掛けて来るユカリを無視していた。
いつも殺し合いを要求しているくせに、時々突拍子もなくこのようなことを言い出す。
「それ、それ」
しまいにはフウヤの頭にポンポンとボールを当て始めた。
フウヤは、ただただユカリが飽きてこの場を離れることを望んだ。
《エレメントキラー》
《オフェンスキラー》
キラは右腕に装着されたドラゴンヘッドから巨大なダイヤを発射し、アキラは炎を纏った拳でサナギ型のモンスターを蹴散らしていく。
キラがモンスターが現れた気配を感じ、廃工場に来た所でアキラと合流したのだ。
「…………」
キラはドラゴンヘッドでモンスターを殴りつけ、床にたたき付ける。
無言でモンスターを倒していく姿は、いつもと変わらないはずが、どこか痛ましかった。
(私は、戦いたくない)
戦いたくない。戦いたくない。
そう自分に念じながら黙々とモンスター退治に身を投じる。
《サモンキラー》
アキラの側からガーネットカンガルーが現れ、怒涛のラッシュで残ったモンスターを蹴散らした。
モンスターの魂を喰らうと、二人のモンスターはその場から離れた。
「待て!」
戦いが終わり、帰ろうとした二人を、誰かが呼び止めた。
振り返ると、そこには仁王立ちで構えるゴウカがいた。
「俺と、戦って貰おう」
「嫌だ」
一瞬で、空気が固まった。
ゴウカの申し入れを、キラが速攻で拒否したのだ。
アキラとゴウカは何が起こったのか分からない表情をした。
「戦いたくない……嫌だ」
キラは頭を抱え、激しく横に振る。
「もういや! 戦いたくない!!」
「っ、訳の分からぬことを!」
《タックルキラー》
ゴウカは赤い衝撃波を身に纏い、キラ目掛けて真っ直ぐ突っ込んだ。
キラはゴウカがぶつかって来る直前に足元を砕き、ゴウカを宙に浮かして殴り飛ばした。
ゴウカは火花を散らしながらも何とか堪え、立ち上がった。
ゴウカは突然の事態にも冷静に対処したキラを恐れた。
《スクリーンキラー》
その瞬間、辺りに電子音声が響き、巨大なダイヤがキラとアキラ、ゴウカの中心に激突した。
これは、キラのオフェンスキラーと同じ技だった。
「な、何だ!?」
アキラは慌てて辺りを探る。
そして、見つけた。
積まれたコンテナの上に立って三人を見下ろすジュエラー……トルマリンの姿を。
七海山ゴウカ CV.東地宏樹
ルビー
デッキ構成
タックルキラー
エクスプレスキラー×1
エレメントキラー×2
ディフェンスキラー×3
サモンキラー×1
ファイナルキラー×1