2話:契約、ダイヤモンド
「さあ、叶えたい願いを言いなぁ?何でも願いが叶うぜぇー?」
黒い球体はキラに詰め寄った。
キラはどうしたらいいのか分からずにうろたえる。
赤い髪の女性がキラと黒い球体の間に割って入る。
「おい」
「何だぁ、邪魔すんなよぉ」
黒い球体は女性に突っ掛かるが、白い球体がそれを止める。
「僕も賛同しかねるね。せめて情報は正確に伝えるべきだ」
「ちっ」
黒い球体は舌打ちし、キラに向き直る。
「まあいいか、どうせ何しようが同じだろうしなぁ?」
キラは黒い球体の言いたい事が分からずに戸惑う。
赤い髪の女性は球体を手で追い払い、キラに向き合った。
「すまないな。戸惑わせてしまっただろう」
「いえ・・・あの、貴女達は一体・・・」
キラは女性にその正体を尋ねた。
女性はどうしようが迷ったが、キラに正体を明かした。
「私の名は一長アキラ、この姿はガーネットという・・・そして、あいつは二宮テル。あの姿は・・・・・アメジスト」
少女・・・テルはモンスターの攻撃をかわしながら剣で切り付けていく。
少女が動く度に髪はたなびき、キラキラと輝いているようだ。
少女はモンスターを蹴って跳び上がり、空中で宙返りしながら着地する。
少女は腹にあるケースからカードを引き抜く。
そしてそのカードを剣の柄に差し込む。
差し込むと同時に柄にある小さな翼が広がる。
《イリュージョンキラー》
剣から電子音声がなったかと思うと、テルが三人に分身した。
キラはあまりの事態に驚く。
分身したテルは蜘蛛のモンスターを切り刻み、モンスターは抵抗出来ずに吹っ飛ばされる。
すると、二匹の内の一体は逃走を始めた。
しかし、一体は取り残される。
テルは構わずまたカードを抜いて差し込んだ。
《ファイナルキラー》
空の空間が裂け、そこから全身がアメジストで出来た鳥が現れた。
テルは剣を上に掲げ、回転させる。
テルの周りから紫色のエネルギーが剣に集まり、テルを中心に強力な竜巻が出来る。
テルは剣をしっかと握ると、後ろに剣を引く。
アメジストの鳥・・・バードアメジストは巨大な翼になるとテルの背中にくっついた。
そして次の瞬間、テルはモンスターに目掛けて突進した。
背中の翼は光となってテルを覆い、テルと翼で一つの刃と化す。
紫の刃は一瞬でモンスターを貫き、爆発させた。
テルは剣を右腰のホルダーに仕舞う。
そして、キラとアキラを見つめた。
「終わったわよ」
テルは辺りを見渡し、やがてある場所へと歩き始めた。
立ち止まり、手を翳す。
すると空間がひび割れ、またあの穴が現れた。
「あ、待って。貴女達は・・・?」
「すまない。全部忘れてくれ」
そう言うとアキラはキラを抱え、穴の中へ放り投げた。
「キャッ!」
穴の中から飛び出し、キラは尻餅をつく。
辺りを見渡すが、さっきの変な世界ではない。
元の世界だ。
周りには誰もおらず、道端にはスーツケースがポツンと落ちている。
キラは呆然とその場に座り込んだ。
夜、キラは風呂でお湯に浸かりながらぼんやりと今日の出来事を思い返していた。
あれは現実だったのだろうか。
湯気が蔓延し、室内はキラの思考と同じくぼんやりと霧がかっている。
湯舟のお湯を両手で掬い、顔にバシャッと掛けた。
翌日の放課後。
キラは真っ直ぐ家に向かって下校していた。
昨日のこともあって、あまり道草を喰う気にならなかったのだ。
今でもあのサラリーマンの男の死に様は記憶に染み付いている。
あの時、どう動けばあの人を助けられたのだろう。
どうすれば良かったのだろう。
そして、昨日の少女達や球体は一体何者だったのだろう。
そんなことを考えながら歩き続ける。
その時、キラの視界に一人の女性が映った。
・・・ただの勘違いだろうか。
いや、でも・・・
キラはその女性に声を掛けた。
「あの」
「ん?・・・君は昨日の」
そこまで言った所で女性はハッと口を抑える。
「しまった・・・これでは正体を明かしてる様なものだ」
キラが話し掛けた女性はアキラだった。
髪は赤ではなく薄茶色だ。
あの姿に変身した時だけ髪の色が変わるのだろうか。
「あの、昨日の事をもっと詳しく教えて下さい」
キラが頼むと女性は困った様な顔をした。
あまり話したくないのだろうか。
「・・・私は、君をあんな事には巻き込みたくはないんだが・・・そうだな、あいつ等が余計な事吹き込んでも困るな」
あいつ等とは白黒の球体のことだろうか。
アキラはキラを連れてどこかへと向かった。
「ここなら多少は落ち着けるだろう」
アキラが連れて来たのは町にある喫茶店だった。
各々の好きな物を注文し、それが持ってこられた時、アキラは本題に入った。
「昨日のアレだが・・・あの姿はジュエラーという。モンスターと戦っているんだが・・・どうして戦っているかは言えない」
それでは昨日得た情報と大して変わらない。
どうしようかキラが悩んでいると、アキラが話し掛けてきた。
「事情は話せないが、ここで巡り会ったのも何かの縁だ。自己紹介でもしよう。私は一長アキラ、20歳」
「倉四季キラ、中学2年です」
「そうか、テルの奴と同い年か」
「え?」
キラは昨日の少女を思い出して驚いた。
確かに身長は同じくらいだったが同い年とは。
大人びた人だから年上だと思っていた。
「とにかく、あまり私達に関わらない方が・・・」
アキラは話の途中で立ち上がり、窓に向かって走り出した。
キラも慌てて付いていく。
アキラは窓から下の通りを見下ろした。
しかし、そこには誰もいない。
「もう連れていかれた後か!」
アキラは喫茶店を飛び出して下の階に降りて行った。
キラは代金を払ってその後を追い掛ける。
キラが外に出ると、アキラは少し離れた場所に立っていた。
そして、ポケットから拳の紋章が刻まれたカードケースを取り出した。
すると、昨日と同じ異世界に繋がる穴が現れた。
アキラがカードケースを謎の空間に突き出すと、アキラの腰に銀色のベルトが現れた。
アキラは二発の蹴りを宙に繰り出し、大地に力強く足を降ろす。
「変身!」
アキラはカードケースをベルトに差し込む。
すると赤い光がアキラの体に集まり、アキラの姿が変わった。
赤い宝石を纏った拳の戦士、ガーネット。
「君は此処で大人しく待っていてくれ」
アキラはキックボクシングの様に軽くステップして穴の中に飛び込み、アキラが飛び込むと同時に穴は砕けて消えてしまった。
キラは大人しく待っていようとしたが、やはり昨日の事が忘れられずにいた。
自分が行っても足手まといにしかならない。
それでも、昨日の様な死人を出すことだけは耐え切れなかった。
「困ってるみたいだなぁ?」
突然背後から声がした。
キラは驚いて振り返った。
そこには昨日の黒い球体と白い球体がいた。
「・・・もし、力が欲しいなら僕等が君をジュエラーにしてあげるよ。ただし」
「おら、叶えたい願いを言いなぁ?」
白い球体の言葉を遮り、黒い球体がキラに詰め寄る。
白い球体は不服そうな表情を浮かべた。
「ケセラン。正しい情報伝達をしないのは感心しないよ」
「パサランよぉ。楽しけりゃいいだろぉ?」
ケセランと呼ばれた黒い球体は白い球体を突き飛ばした。
パサランは仕方ないといった顔をして静観に徹した。
「さぁ、願いを言いなぁ!それが契約だぁ!」
ケセランはキラに強く言い寄った。
キラは考えた。
本当に自分は戦えるのか。
死ねば両親はどうなるのか・・・
色々な思いが頭の中を駆け巡るが、最後に頭をよぎったのは、蜘蛛に殺された男と何も出来なかった自分だった。
覚悟を決めてケセランを見る。
ケセランはニヤッと笑うとカードケースをキラに投げ渡した。
「さあ、ゲートの前に立ちな」
ゲートとは恐らく異世界に繋がる穴のことだろう。
キラは言われた通り、ケセランが開いたゲートに向かう。
「くっ!」
《アームキラー》
アキラの両手に大型のガーネットが装着され、モンスターを殴り飛ばす。その瞬間、アキラのいる場所が炎上し、アキラは爆風で吹き飛ばされる。
何とか起き上がり、アキラは敵を見る。
昨日の蜘蛛モンスターの生き残り。
そして、大きなモンスターが空中を舞っていた。
体中にダイヤモンドを生やした美しい輝きを放つドラゴン。
その体表は白い光沢を出しつつもうっすらと赤い輝きも放つ変化に富んだものとなっている。
ダイヤドラゴンが咆哮すると大地が震え、アキラの体も痺れて動けなくなる。
蜘蛛モンスターは頭の宝石を輝かせ、蜘蛛の糸の様な光を放つ。
蜘蛛の光はアキラを縛り付け、身動き取れなくなる。
そして、ダイヤドラゴンはアキラを仕留めるために向かっていく。
その時、ダイヤドラゴンの動きが止まり、どこか別の場所を見る。
アキラはダイヤドラゴンの視線の先を見詰める。
そこには、ゲートを隔てた先にこちらを見詰めるキラがいた。
どうして逃げずにいるのか、とアキラが叱る前にダイヤドラゴンが咆哮を挙げながらキラに襲い掛かる。
アキラは止めようとするが縛られている為動けない。
そしてダイヤドラゴンがキラに到達する直前
キラは紋章の刻まれていないカードケースを前に掲げた。
次の瞬間にはゲートを中心に強烈な閃光が放たれ、アキラと蜘蛛モンスターは直視出来ず、目を覆った。
そして暫くした後、光は収まった。
アキラは恐る恐る目を開いた。
そして、ゲートの先ではなく、自分達のいるこの異世界にキラは立っていた。
赤白く輝くブーツ。
ダイヤを彩った装甲服に頭に付けられた煌めくダイヤの結晶。
ダイヤドラゴンを従える戦士、ダイヤモンドがダイヤドラゴンと共にこの場に降臨した。
蜘蛛モンスターはキラに襲い掛かる。
キラはケースからカードを引くと、それを左手に装着されている竜頭型の装置に差し込む。
装置の口を閉めるとカードが読み込まれた。
《スラッシュキラー》
キラの手元にダイヤの宝石で出来た剣が現れた。
キラはそれを握り締め、蜘蛛モンスターを待ち構える。
アキラは自分を縛っている蜘蛛の糸を何とか引き裂こうとしていた。
その時、テルが物陰からこちらの様子を伺っているのが見えた。
「あいつ、一体何を・・・?」
テルの意図が読めず、アキラは困惑した。
「えいっ!」
キラが剣を振り下ろすと、蜘蛛モンスターの体から火花が散り、地面に転げた。
まだまだ様になっていない型だが、着実に蜘蛛モンスターを追い詰める。
途中、蜘蛛モンスターが頭から蜘蛛の糸のような光を放つが、キラはそれを切り裂く。
そして、再びカードを使う。
《アームキラー》
キラは剣を投げ捨て、拳で構える。
すると、ドラゴンの鱗の模様のダイヤで出来たナックルが現れ、キラの両手に装着される。
キラは何度か蜘蛛モンスターを殴り、アッパーで大きく殴り飛ばす。
そして、止めにカードを使う。
《ファイナルキラー》
キラの体が七色に輝き出し、祈る様に左手を右手で包んで目を閉じる。
すると、七色のキラの幻影が現れてキラの体が宙に浮く。
ダイヤドラゴンが宙に浮くキラの背後に付き、激しく咆哮する。
そして、キラの幻影が本体に重なり、その度にキラの足のダイヤが大きくなる。
ダイヤドラゴンは口から輝くエネルギー波を発射し、それに包まれてキラは両足でキックを繰り出す。
蜘蛛モンスターは逃げようとするも間に合わず、キラのキックが炸裂した。
蜘蛛モンスターと地面が爆発し、煙がキラを包み込んだ。
やがて煙も晴れ、キラの姿があらわになった。
キラは縛られているアキラと気絶して倒れている子供を助けようとするも、途中でテルが近寄って来ているのに気付いて足を止めた。
「あの、えっと、二宮さん?」
キラは何を言えば良いか分からず、しどろもどろになる。
テルは竜の紋章が刻まれたキラのカードケースを見詰めながら口を開いた。
「ダイヤモンド・・・か」
「私?・・・うん」
キラは自分の変身した姿のことだと思い、返事をした。
キラの戸惑いながらも真っ直ぐキラキラと見詰めて来る瞳を見ながら、テルは告げた。
「エサが目当てだったけど・・・ダイヤモンド、今潰しておいた方が良さそうね」
キラがその言葉の意味を理解する前に、テルの一閃がキラの体を切り付けた。
Q.何でアキラは変身の時キックやステップしたの?
A.本作品のリスペクト作である『仮面ライダー龍騎』はそれぞれのライダー事に変身前のポーズと変身後の仕草が違います。
よって、本作もそれをパクり・・・いえ、真似した結果です。
ダイヤモンド
デッキ構成
サモンキラー×1
ファイナルキラー×1
オフェンスキラー
ディフェンスキラー
スラッシュキラー
バーストキラー
アームキラー
フラッシュキラー×1