17話:鋼の体を持つ男
一人の男の子が高校生三人組に絡まれていた。
辺りに人はおらず、誰も助けに来れる人はいない。
「お前に恨みはねぇけど、諦めろよ」
「安心しろ、殺しはしねぇよ」
高校生の蹴りが男の子の腹に命中し、男の子は力無く倒れる。
残る二人の高校生は黙ってそれを見届けていた。
「ヌン!」
突然、男の子を殴っている高校生の顔面に拳が叩き込まれた。
高校生は鼻から垂れる血を拭きながら殴ってきた男にガンを飛ばす。
「てめぇ、何すんだ!」
男は高校生を無視し男の子に話し掛けた。
「早く逃げるんだ」
「ありがとう、おじさん!」
男の子はお礼を言うと一目散に逃げ出した。
男は鋭い眼光を高校生に向けた。
男は大柄で、傷付いてボロボロになった服を来ていた。
男の体も細かな切り傷が多い。
「お前らのような腐った奴がおるからこの世はどんどん悪くなるんじゃい」
男はズカズカと歩みより、拳をポキポキ鳴らした。
「ワシが……この七海山ゴウカがその根性叩き直したる!」
「はぁ………」
キラは深い溜息をついた。
ジュエラーの戦いを止めようとするも、戦いはますます激しさを増していく。
何か止める術はないのだろうか。
「お困りのようだなぁ?」
突然誰かがキラに話し掛けてきた。
振り返ると、そこにはケセランがニヤニヤしながら浮かんでいた。
「なっさけねぇよなぁ!結局もう二人も死んじまったぁ。お前、誰も死なせたくないんじゃなかったのかぁん?」
「……私は」
「やめとけやめとけ。どうせまた誰か死ぬって。じゃあな、ダ・イ・ヤ・モ・ン・ド、さぁん」
ケセランはケラケラ笑いながら去って行った。
キラは拳をギュッと握り締めた。
「私は……どうしたら」
どうしたら、皆戦いを止めようとするのだろうか。
それとも、そんな方法はないのだろうか。
キラは何も分からぬまま、俯いて動けなくなった。
テルは内心焦っていた。
まだ冷静でいられたのはキラを仲間だと心のどこかで思っていたからかもしれない。
ユカリがあっという間にモンスターと契約を重ね、既に三体のモンスターを従えているのは懸念事項だ。
加えてユカリのあの人格は異常そのものだ。
「はぁ……」
「見つけたんだぜ!!」
やかましい声がテルを呼び付ける。
こいつも頭を悩ませている要因の一つだった。
「何かしら、アレキサンドライト」
テルはうっとうしく思いながらもヒーローに顔を向けた。
ヒーローは高らかに笑いながら歩み寄って来る。
「俺が一番ヒーローだからな!戦いに来たぜ!」
言っている意味は分からないが要は戦えということだろう。
相手が誰であれ拒む理由は無い。
キラがいない内に戦うべきだろう。
そう思ったテルがカードデッキを手に取った瞬間、何者かが割り込んできた。
「ワシも参加させて貰おうか」
「……誰?」
テルは割り込んできた男に訝しげな視線を向けた。
男は30、40程の年齢の大柄の男だった。
男はテルとヒーローに自分のカードデッキを見せた。
「ワシもジュエラー……ルビーだ」
新たなジュエラーの乱入にテルは警戒し、ヒーローはその場で駆け足を始める。
「早く戦おうぜ!俺がヒーローだぜ!」
待ちきれないとばかりにヒーローはカードデッキをバックルに差し込んで変身する。
テルも続けて変身する。
「変身!」
テルとヒーローはそれぞれアメジストとアレキサンドライトに変身する。
ゴウカはデッキをゲートに向けると両手を腰に添える位置に引く。
「変身!」
デッキをバックルに差し込むとジュエラーに姿を変え、両手で殴るように力強く突き出した。
ゴウカはジュエラーに……ルビーに変身した。
三人のジュエラーが、戦いをするためにゲートを潜った。