12話:快楽少女
今更ですが、若干キツイ描写があるので、ご注意を。
「やっぱり、まだ気分が悪いんじゃないのか?」
アキラはキラの背中をさすりながらキラに尋ねた。
「・・・はい」
キラは小さく頷いた。
モンスターが人を食う様は、あまりに非現実的だった。故に、それらはまだ受け入れられた。
しかし、先程の事件は違う。あれは、人間だった。
「どうして、あんな・・・・・あんなにあっさり、人を殺せるんでしょうか」
キラには信じられなかった。
あんなに、人を殺すことに罪悪感を覚えていない人がいることが。
「仕方ないさ」
フウヤはキラに目を向ける。
「世の中善人ばかりじゃない。お前が守ろうとしてる奴の中には、ああいうのだって含まれているんだぞ」
キラはフウヤの言葉を聞いて自分が甘かったのかと思った。
今まで人のため、人のためと戦ってきたが、そんな中にあの女の子のような人が含まれているとは、考えていなかった。
「一体、何の集まり?」
そこへテルがやって来た。
アキラは事情を話そうとしたが、長くなりそうなのでやめた。
「まぁ、色々あってな」
テルは何があったのかキラに聞こうとしたが、キラが俯いたまま顔を上げないので何も分からずにいた。
「おやおや、こんな所に集まってたのかい?」
そこにまた誰かがやって来た。
ビューティーが歯をキラーンと光らせながら歩いて来る。
「こんな美しくない場所にいられるなんて、頭大丈夫かい?」
「お前は帰れ」
フウヤはビューティーに立ち去るよう命令した。話すのも面倒だ。
「僕にはこの世の全てを美しくする使命があるからね。邪魔はさせ」
「見つけたぞお前らぁ!」
ビューティーの話を遮って、トモヒコが乱入してきた。
「お前ら、今日こそ俺様がぶっ殺してやる!特に・・・・・」
トモヒコはキラを指差した。
「お前は徹底的にぶっ潰す!」
「わ、私!?」
キラはトモヒコの脅しにうろたえる。
そして、皆が一斉にゲートに向けてケースを突き出す。
キラはどうするべきか悩んだが、戦いを見過ごす訳にもいかないので、仕方なく変身する。
【変身!】
六人のジュエラーはゲートを潜り、ジュエルワールドに移動する。
「ハァッ!」
「フッ!」
入るやいなや、アキラはフウヤに殴り掛かる。
フウヤはその拳を鞭で弾いていく。
「おらぁ!」
トモヒコはマリンコンパスをキラに振り下ろす。
キラはそれをかわし、トモヒコが再度振るう前にコンパスを押さえ付ける。
そのキラの背中に、数発の弾丸が命中する。
「痛ぁ!」
「うおりゃあ!」
怯んでしまったキラの顔面にコンパスが叩き込まれ、キラは地面を転がる。
ビューティーは銃口から出る煙をフッと吹き消した。
「君の思想は厄介だからねぇ。先に消えて貰うよ」
「諦めて死ね!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
キラの制止を聞かず、トモヒコはコンパスを振るう。
ビューティーは銃を撃ち、キラは何とかかわしていく。が、その隙を突いてトモヒコがコンパスをキラの腹に叩き込む。
「っ!」
キラは倒れそうになるがなんとか踏み止まり、コンパスをガードする。
キラの意識がコンパスに向いている隙に、ビューティーは狙撃する。
キラに弾丸が命中し、火花が散る。
「全く・・・」
テルは一方的にやられるキラを見ていられず、カードを差し込む。
《マッハキラー》
テルはビューティーの放った銃弾を弾きながらキラとトモヒコに接近し、トモヒコを斬り付けてキラを連れてある程度離れる。
「テル!」
「しっかりしなさい」
テルはカードを差し込む。
《イリュージョンキラー》
テルは分身し、トモヒコとビューティーに突っ込む。
「させるかよ!」
「甘いですよ」
トモヒコとビューティーもカードを使う。
《ガトリングキラー》
《バーストキラー》
トモヒコは連射砲台を、ビューティーは大型バズーカを召喚し、発射する。
テルの分身は砲弾の嵐に消し飛ばされ、テルはキラを自分の後ろに隠す。
《ディフェンスキラー》
テルの左手に鳥の姿が刻まれた盾が現れ、テルは盾を握る。
襲い来る弾丸を盾で防いでいく。
「無駄だ無駄だ!」
「僕の美しさに平伏すのさ!」
トモヒコとビューティーはカードを差し込んでゆく。
《ガトリングキラー、ガトリングキラー、ガトリングキラー、キャノンキラー、キャノンキラー、キャノンキラー、オフェンスキラー、オフェンスキラー》
《ガトリングキラー、ミサイルキラー、スターキラー》
トモヒコは次々と砲台を召喚し、キラとテルの足元に二つの三角形の陣を描く。
ビューティーの肩にガトリング砲、胸にミサイル砲を装着し、空から流れ星のような光線を発射する。そして、ガトリング砲と小型ミサイルを大量に発射する。
隙の無い強力な攻撃がキラとテルを襲う。
キラはテルの前に出て、カードを使う。
《フラッシュキラー》
キラのダイヤバイザーから光が拡散し、ミサイルなどの攻撃を飲み込む。そして、トモヒコとビューティーの攻撃と武装が消滅した。
「なにぃ!?」
「美しくない!」
トモヒコとビューティーはまさかの効果に驚く。
「たぁっ!」
アキラはフウヤに跳んで殴り掛かり、フウヤはバックステップで避ける。
六人はお互いの動きを警戒して睨み合う。
ザッザッ
その時、何者かの足音が周囲に響いた。誰かがこちらにやって来る。
全員が、足音のする方を見た。
少し黒ずんでいるが、見るものを魅力する深い青色の装甲は妖しい光沢で輝く。
頭の右側にある金髪のサイドポニーは足を進める度にゆらゆらと揺れ、頬を撫でる。
そして深青色の瞳は獲物を求めるかの如く鈍く輝く。
そして、六人の元へある程度近付くて、口をニヤッと広げる。
キラとアキラはその顔を見て驚愕した。
「っ!!?」
「お前っ!」
フウヤは少女の名を呟いた。
「・・・九留実ユカリ」
突如現れたジュエラー。その正体は、大量殺人鬼九留実ユカリだった。
「九留実ユカリ?」
テルは少女の正体が本当にそうなのかキラに目で尋ね、キラは頷いた。
トモヒコは顔を引き攣らせて呟いた。
「ガチの犯罪者かよ・・・」
「私、サファイアって言うらしいよ?」
ユカリは笑顔でそう告げた。しかし、キラ達にはその瞳は鈍く暗いままに見えた。
「ねぇ、黒たまさんにあなた達みーんな殺していいって言われたんだけど、いいよね?」
ユカリの首を傾げながらの一見可愛い仕草に、キラ達は大きな狂気を感じ、身構えた。
少し離れた位置にいたビューティーは、皆の意識がユカリに集まった瞬間、
《ファイナルキラー》
必殺技を使った。
「なっ!」
アキラは驚いてビューティーを見た。
「全く、美しくない奴だけ増えるんだから・・・・・ここで、皆仲良く消えて貰うよ!」
ビューティーの後ろにライオサードニクスが現れ、咆哮をあげる。
そして、全身の砲門を解除する。
ビューティーも銃をキラ達に向ける。
「じゃあね」
ビューティーが引き金を引くと、銃口から大量のビームが放たれ、ライオサードニクスからもミサイルや弾丸が発射された。
「くっ!」
アキラは必殺技は間に合わないと悟り、防御のカードを使う。
《ディフェンスキラー》
アキラの腕に固い盾が装着される。
《ディフェンスキラー、ディフェンスキラー》
キラの右腕にシールドが装着され、更に二人を光の竜巻が囲う。
キラとテルは竜巻の中で盾を構える。
《ディフェンスキラー》
《ディフェンスキラー》
トモヒコとフウヤも防御のカードを使い、それぞれ自分の体を水と風で覆う。
「?」
ユカリは皆がカードを使う様子を見て、見様見真似でカードを引く。
左腰に付いている魔導書を手に持ち、栞を挟むようにカードを差し込む。
《オフェンスキラー》
「はぁ!?」
アキラはユカリの使用したカードに驚いた。
デッキから引くカードはその時引きたいカードを引けるように出来ている。
つまり、ユカリはミサイルや弾丸が迫り来るこの状況にも関わらず、身をを守ろうとしていないということだ。
「ありゃ死んだな」
トモヒコはユカリの死を確信する。
キラはユカリを助けようとするが、テルが首を引っ掴んで動かないよう引き止める。
ユカリの右手に青白いモンスターの爪が装着され、ユカリはコンコンと手の甲で叩く。
見上げると、大量の弾丸が降り注ごうとしていた。
そして、ミサイルや光線が着弾し、次々と爆発が起こった。
「う・・・・・」
キラは起き上がろうとしたが、体が上手く動かない。
近くにテルが倒れているのが分かった。死人の気配ではない。ちゃんと生きている。
起き上がれないのは、アキラやフウヤ達も同じだった。
ビューティーはそれらを見渡して、勝ち誇った。
「どうやら、僕の勝ちのようだね・・・・・ん?」
見ると、ユカリは倒れてはいなかった。しかし、俯いて動く気配が無い。
しかし、体の所々が被弾で傷ついているのは一目瞭然だった。
ビューティーは肩透かしを喰らった気分になった。
しかし、ビューティーは気付くべきだった。
防御を展開していないユカリが立っている不審さに。
次の瞬間、ユカリは魔導書にカードを差し込んだ。
《サモンキラー》
「へ?」
ビューティーが素っ頓狂な声を出すのと、大きな手がビューティーの体を掴んだのは同時だった。
青黒い皮膚。頭に生えた山羊のようなツノと背中に生えた藍色の羽根。
ビューティーを掴んだユカリの契約モンスターは、まさに巨大な悪魔だった。ユカリの契約モンスター・・・イーヴィルサファイアはビューティーをライオサードニクスに目掛けて叩き付けた。
ライオサードニクスはその巨体をゴロゴロ転がし、川に落ちた。
ビューティーはライオサードニクスと激突した衝撃で弾かれ、ユカリの足元に転がった。
トモヒコはビューティーのファイナルキラーを喰らって動けるユカリに驚愕した。
「まさか、殆どの攻撃を叩き落としたのか?」
フウヤは可能性を口にした。
実際にその通りで、ユカリは向かって来た攻撃を八割方叩き落としたのだ。
ユカリは自分の足元で恐怖に顔を引き攣らせたビューティーを見て、ニヤッとした。
そして、ビューティーの髪を掴んで目の前に頭を持って来る。
「か、顔だけは・・・僕の、究極的に美しい顔を傷付けるのだけはやめてくれ!」
ビューティーはユカリに懇願する。
ユカリはその言葉に頷くと、攻撃を弾いたばかりで煙を上げている右手の爪で、ビューティーの目を突き刺した。
「アアアァァァァイアェォアウオァオァィィィィィ!!?!??!!?!?」
ビューティーはどこから出しているのか分からない程の声で悲鳴をあげた。
ユカリは爪を引き抜くと、今度はビューティーを殴り始めた。
イーヴィルサファイアの手と同じ形の武器は、鋭い爪があるだけでなく、手の平や甲も固く出来ている。
ユカリが殴る度にビューティーの体から血が滲みだし、やがてユカリの武器や体に掛かる程に噴き出し始める。
「・・・・・ィヒッ」
ユカリの口から声が漏れる。
「ッアハハハハハハハハハ!!!楽しいイイイイイィィィィィィィ!!」
ユカリの顔は狂気に満ちており、同時に本当に楽しそうに笑っていた。
「っ、あ・・・」
キラはユカリを止めようとする。しかし、傷ついた体は言うことを聞かない。
ビューティーに傷つけられた体は、誰ひとりビューティーを助けにいけない状況を作り出していた。
ユカリはビューティーを蹴り飛ばした。
ビューティーは必死に這いつくばって逃げようとする。
顔はもう見れたもので無くなり、体の至る所から血が流れ、手足は有り得ない方向へ折れ曲がっていた。
「ひぁ、ぁ、ぁ、ぁ、」
もうまともに声は出せない。ただただ、必死に逃げようとする。
「ハアァァァァ・・・」
ユカリは息を吐きながらカードを魔導書に差し込む。
《ファイナルキラー》
イーヴィルサファイアはユカリの背後に移動し、両手を合わせてゆっくり広げていく。手の間には毒々しい青色のエネルギーが溜まってゆく。
ユカリは少し屈むと、ゆっくりと若干後方へ跳んだ。
イーヴィルサファイアが手を突き出してエネルギーを飛ばし、そのエネルギーに押されてユカリは真っ直ぐ飛んでいく。
ユカリがビューティーを蹴ると宙に浮かび上がる。そして、ユカリは何度も何度も何度もビューティーを蹴り続ける。
イーヴィルサファイアの放ったエネルギーは強力な毒性を持っており、サファイア以外には体を溶かす脅威の力となる。
ユカリの足にはエネルギーが纏われている為、ユカリが蹴る度にビューティーの体は溶けて中身が出て来ようとする。
そして、最後の一撃がビューティーの腹に当たった。
ビューティーのケースは砕け、ビューティーの体も宝石のように砕け散った。
皆、この光景を見て唖然としていた。
初めて、本当にジュエラーが死んだ。それも人によって直接。
あまりの衝撃に誰も動けなかった。
ユカリはその場に立ち尽くしていた。
自分が一体何をしたか。それをよく思い返す。
自分がトドメを刺した時の事を回想する。
足には、確かに蹴り殺した感触が残っている。
「ッアアアァァァァァァァァァ!」
ユカリは快感に身を震わせた。背中がゾクゾクする。
「何で・・・」
キラはフラフラと立ち上がり、ユカリに尋ねた。
「どうして、こんなことが出来るの!?何で!?」
ユカリは答えた。
「人を殺すと、すっごい気持ちイイからぁ」
ユカリは微笑んでいた。
目に、鈍った光を宿して。
ユカリの返答を聞いたその瞬間、キラは自分の中で何かが切れる音を聞いた。
「お前エエエエエエエェェェ!!!」
《ディフェンスキラー、スラッシュキラー》
左腕にドラゴンシールドを装着、右手にダイヤソードを握ってキラはユカリに突っ込んだ。
《スラッシュキラー》
ユカリの前に柄が長い青色の斧が現れ、ユカリはそれを両手で握る。
ユカリは狂った笑顔でキラを迎える。
二人の刃がぶつかり合った。