11話:脱獄少女
「ゆ、許して下さい!」
路地裏で、一人の女性が二人の男に泣きながら謝っていた。
「いやぁ、別に怒ってるわけじゃないんだ」
「ただ、アンタの金が欲しいだけなのよ」
男の一人が女性の鞄を掴む。
女性は必死に抵抗するが男の優位は変わらない。
女性の手から鞄が渡されそうになる。
その時
「おら、さっさと寄越しやがッ!!ァ゛?」
男の頭に鉄パイプが叩き込まれ、声をあげる間もなく地面に倒れる。
倒れた男の頭に更に鉄パイプが叩き付けられ、血がドンドン吹き出す。
そして、最後の一振りで頭が潰れ、辺りにドバっと血が広がる。
「な、何だよお前!?」
もう一人の男が女性を突き飛ばし、ポケットからナイフを取り出して仲間を殺した相手と対峙した。
男は相手の正体に目を疑った。
金髪を短いサイドポニーでまとめ、服はボロボロに汚れている。
少女の深い青の瞳はここでないどこかへいるような不安定さを醸し出していた
男は少女に手加減せず、襲い掛かる。
振りかぶったナイフは少女目掛けて勢いよく振り下げされる。
少女はナイフを避けると男の腕を掴んで膝蹴りを腹に捩込む。
そして、掴んだ腕を思い切り捻る。
「アアアアァァアァアァァァア!!?!?」
腕が本来有り得ない方向へ曲がり、男はその場に崩れて悶え苦しむ。
少女は先程自分が使った鉄パイプを拾い、男に叩き付け始める。
女性は少女の暴行から目を背き続けていた。
やがて音が無くなったのを感じると、女性は恐る恐る目を開けた。
目を開けると目を背けたくなる光景が飛び込んで来た。
返り血を浴びた少女の周りに血の海と二つの死体が転がっていた。
少女は女性に視線を移す。
「あ、ありがとうございました」
女性は一刻も早くこの場から離れる為、少女に礼を言って鞄を持って素早く逃げようとする。
少女は女性の手を掴み、壁に叩き付けた。
女性は少女を見上げた。
「な、何するんで・・・」
女性は顔を引き攣らせた。
少女はニヤッと笑うと死んだ男のナイフを拾い、逆手に持って女性に歩み寄る。
そして、脅えて立てない女性の目の前に立つ。
「い、嫌ぁ・・・」
女性は掠れた声で助けを呼ぶ。
しかし、誰も助けに来る者はいない。
少女の振り下ろすナイフが女性の肩に突き刺さった。
「ッ!ッァェ?!ゥィ!?ッ」
ナイフが突き刺さる度に女性の奇声と血の吹き出る音、ナイフが体をえぐる音が出る。
「・・・・・」
少女は辺りを見渡した。
そこには自分が殺した人間達の死体が転がっていた。
そして、少女にはそれぞれの殺した時の感触が確かに残っている。
「ぁ〜〜〜〜ッ!!!!!」
少女にゾクゾクとした感覚が流れる。
そして、女性の来ていたジャケットを剥ぎ取り、返り血を拭いて放り捨てた。
少女は路地裏を後にし、表通りへ帰って行った。
ある日、キラは休日に出歩いていた。
モンスターが今日も出るかもしれない。
そのために休日もいつでも戦えるようにしなくてはいけない。
「・・・あ、フウヤさん」
「倉四季か」
フウヤは絵を描いている手を止めてキラの元に寄る。
「お前、やっぱり変わった奴だな」
「いきなりなんですか」
キラはフウヤの失礼な発言に文句を言う。
フウヤはそれを訂正する。
「違う違う、お前最近のニュース見たか?」
「最近忙しくて・・・何かあったんですか?」
キラの質問にフウヤは答えた。
「昨日、隣町の殺人鬼がこの町に来たかもしれないってニュースでやってたんだよ」
「はぁ、そんなことがあったんですか」
キラは感心したように手を合わせた。
「ま、そんな都合よく殺人鬼に出くわしたりはしないから関係ないだろうけどな」
「それにその話知っておいて外出歩いてるフウヤさんも変わってることになりますしね」
「何だと」
フウヤはカチンと来たのか拳を振り上げるフリをする。
キラはとりあえず平謝りする。
「何をやってるんだお前らは」
そこにアキラが現れた。
キラは会釈をして、フウヤは嫌そうな顔をした。
「お前はどこにでも出没するな」
「貴様に言われたくはない」
「お、落ち着いてくださいよ二人とも」
キラは睨み合う二人の間に入って仲裁する。
アキラに今までのいきさつを話し、三人で話し始めた。
「なるほど、そのニュースか・・・・・というか、お前達は敵同士で何を話しているんだ」
「いや、こいつは面白いからすぐに殺すのはもったいない気がしてな」
「それ、私がつまんなかったら戦ってたってこと?」
キラは不満げにフウヤを睨み、フウヤは目を逸らす。
そこで三人は何かの音が近付いて来ていることに気がついた。
ここは河川敷で、特に騒がしくなるものは無いはずだが・・・・・
「これ、パトカー?」
キラは音の正体を推測した。この独特の音はパトカーのものだ。
「スピード違反でも追っ掛けてんのか?」
フウヤは辺りに車がいないか見渡した。
しかし、辺りに車は見つからない。
その時、分かれ道から金髪の少女が飛び出して、キラ達に向かって来た。
そこですかさず後ろを振り返り、ダッシュした。
分かれ道からパトカーが出て来て、曲がる為に一瞬速度が遅くなる。その隙に少女は鉄パイプをパトカーのフロントガラスにたたき付ける。
そして、警官を引っ張り出すと地面に放り投げる。
そして、パトカーから飛び下りながら鉄パイプで警官を叩き潰す。
「っ!」
「見ない方がいい」
キラは目を背け、アキラはキラが悲惨な現場を見ないよう体で庇う。
フウヤはアキラとキラの前に出る。
少女が警官にとどめの一撃を振るう。鉄パイプが警官の顔を叩き潰した。
少女はキラ達三人に気づき、鉄パイプを引きずりながら走って来た。
「倉四季を守ってやれ」
フウヤはアキラに命令すると、少女の前に出た。
少女は思いっ切り鉄パイプを振り下ろす。
フウヤは鉄パイプをかわし、パイプを蹴り飛ばして少女に殴り掛かる。
少女は拳を避け、フウヤに蹴りを繰り出す。
フウヤは脚を受け流し、少女の足を蹴る。
少女は気にせずフウヤの髪を掴む。
フウヤは頭突きで少女の目にぶつけ、その隙に少女の顎を殴った。
少女は地面に倒れ、口から血を吐いた。
「九留実ユカリ!大人しくしろ!」
すると数台のパトカーとその中から何人もの警察官が出て来る。
数人で少女・・・ユカリを拘束し、警官の一人がキラ達に話し掛ける。
「怪我はありませんか?」
「平気です」
フウヤが警官に答える。
キラは目を開け、アキラから離れた。
「大丈夫か?」
アキラはキラに体調を悪くしていないか尋ねる。
「はい・・・」
キラは何とか答えた。よほど衝撃的だったのかかなりまいっているようだった。
その時、
「ァハハハハハハハハハハハ!!」
ユカリが突然暴れて騒ぎ出し、警官隊が抑える。
「凄かったよー。君、名前は?」
ユカリはフウヤに名前を尋ねた。しかしフウヤは無視した。
ユカリと話したくないのだろう。
キラはユカリに尋ねた。
「どうして・・・どうして、こんなこと出来るんですか?」
「えーっとね・・・」
ユカリが話し出す前に、警官隊はその場からユカリを連れていった。
三人はユカリを連れていった車を見送った。
ユカリは牢屋の中に収容されていた。
部屋の中はユカリが暴れた後で、椅子や机の破片が散らばっている。
ユカリは一休みの為に壁にもたれた。その時、黒と白の球体が鉄格子の向こう側に浮かんでいることに気が付いた。
「よお、お嬢ちゃんよぉ」
「だぁれ?」
ユカリはケセランに正体を尋ねた。
ケセランはそれには答えず話を続けた。
「そんなことよりよぉ、どうしてお前は牢屋に入れられてんだぁ?」
「普通、未成年の女の子がいきなり牢屋に入れられたりしないと思うけど」
ユカリは拘束された後、真っ先に此処に閉じ込められて手足を縛られた。
確かに普通では有り得ない。
「お前、一体何やらかしたんだぁ?」
「私、そんな悪いことしてないんだけどなぁ」
ユカリは首を傾げて、んー、と考える。
「君はさっき警官を殺したけど、あれは何人目の犠牲者だい?」
「へへ、忘れちゃった」
ユカリはテヘッ、と笑って答える。
「おいおい、お前は一体どうやって殺してきたんだぁ?」
「週に一人。それまでは虫や魚で我慢してたよ!半年前からようやく習慣になったよ!」
パサランは不快な表情でユカリを見た。予想以上の狂人だ。
「じゃあ、半年前まではどんな生活を送ってたんだぁ?」
「殴ったり蹴ったり絞めたりしてたけど、満足出来なくなっちゃって。てへっ」
ユカリはまたも満面の笑みを浮かべる。どうやら今までの殺人の記憶を思い返している内に楽しくなってきたようだ。
ケセランはニヤッと笑って、またユカリに話し掛けた。
「今のお前に、叶えたい願いはあるかぁ?」
「人を殺したい!貴方でもいいよ!!」
ユカリはケセランを見ながら答える。
脱獄したいとか、罪を無くしたいとか、それよりも先に殺人願望か。とパサランは呆れた。
次の瞬間、ケセランの体が光り出した。すると、ユカリを縛っていた物がちぎれた。
ケセランはユカリの足元にデッキケースを召喚した。
そして、ニヤニヤしながらユカリに告げた。
「さあ・・・・・新しいジュエラーの誕生だぜぇ!」