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先輩

作者: 侑子

今日は、中学校の文化祭。


吹奏楽部の私達は、早めに昼食を食べ、

午後一のステージの用意をしていた。


吹奏楽部に入って2年が経つけれど、

今回が始めての文化祭での演奏。


去年はインフルエンザ大流行の関係で、

文化祭自体が中止になってしまったから。


だから、今日のステージはとても大切なもの。


私の中学始めての文化祭ステージであり、

お世話になった3年生との最後のステージでもある。


お昼休憩が終わり、吹奏楽部のステージが始まると

1曲目にはまず、1・2年生だけの新メンバーで

最近の映画の主題歌を演奏した。


そして、練習通りに1曲目は終わり、

部長の挨拶が入った。


部長の挨拶が終わると、3年生だけでの演奏。


受験勉強のため引退する3年生にとって、

この中学の吹奏楽部での最後の演奏。


私達後輩は、ステージの横に一度下がって

最後の先輩達の演奏の姿を見ていた。


先輩達の演奏を聴きながら、色々な思い出が蘇える。



入学したばかりのときの新入生歓迎会。


誰もが1度は聞いたことがある有名なジャズの曲を、

聞きなれない吹奏楽のサウンドで聴いたときは、

全身鳥肌になるほどの感動を覚えた。


入部して、パートを決めて、

そこで出会った3人の先輩達。


たかが1・2歳違うだけなのに、

すごく大人っぽく見えて憧れていた。


そして去年の今頃、

覚えの悪かった私に根気強く教えてくれた

頼れる3年生が引退してしまって、

新しいメンバーでの活動になった。


新しいメンバーは、私達1年生が4人、

そして先輩達2年生が2人の計6人。


3年生がしっかりしすぎていたのか、

2年生の先輩達が抜けすぎていたのか分からないけれど、

どんどんパートの雰囲気がたるんでいってしまった。


その事で何度もパートで話し合いを繰り返して、

先輩後輩関係なく文句を言い合った。


今考えると、私達1年生は怖いもの知らずだったのかもしれない。


時には先輩が言い負かされる程、

後輩から色々言ったのだから。


でも、けんかをする程仲がいいとはよく言うもので。


私達は多分、部内で一番仲のいいパートだったと思う。


何でも言いたい事は言い合える仲で、

時には人生相談に乗ってもらったり、

けんかの愚痴を聞いてもらったり。


先輩後輩というよりは、家族みたいなものだった。


私は母親みたいといつも言われ、

他の皆もそれぞれ姉系と妹系に分かれ、

一つの家族みたいだった。


私達は、先輩達が大好きだった。


決して、素晴らしい人間だったわけじゃない。


後輩に勉強を教えてもらうくらい成績が悪くて、

私達1年生のテストの成績は、全員150人中30人以内に入っているのに、

2年生は2人とも下から両手の指で数えられるくらいだった。


整理整頓や片付けがありえないほど出来ない人達で、

私達後輩が何度片付けても部室はすぐに汚くなるし、

部室には先輩の私物がこれでもかと言うほど散らばっていた。


実際、去年の先輩のコートがまだ置いてある。


そして、練習の仕方が究極に下手な人たちだった。


呆れるくらい下手なのに、何故か演奏の腕だけは

他の先輩達よりもはるかに上だったりした。



そんな先輩達だったけど、私達は大好きだった。


一緒にいる時間が長すぎて、

家族同然の存在になってしまっていた。


そんな大好きな人たちの引退は、

例えるなら家族の中から2人がいっぺんに

東京から北海道まで引っ越してしまうようなもの。


まだ卒業じゃないから会えないことはないけれど、

私達にとってもう一つの家だった部室で、

毎日会って雑談したり相談したりすることは出来ない。


2人とも面倒臭がり屋だから、

引退したらよっぽどのことがない限り来ないだろう。



先輩達3年生だけの演奏が終わり、

最後の曲、1・2・3年生全員での最後の演奏になった。



私は、入部した頃からずっと思っていた。


人は、何故音楽を奏でるのだろう。


音は、一度出たらすぐに消えてしまう。


どれだけ素晴らしい演奏をしても、

少しの間ブランクを挟むだけで演奏のレベルが落ちる。


今日完璧にできても、明日もできるかは分からない。


文化祭の演奏だって、音楽に無知な人に聴かせるのだから、

少し音程が悪かったりリードミスをしたり、

スティックやマレットを落としたところで問題はない。


「こういう楽譜ですが何か?」って顔をしていれば、

そうそうバレることはないだろう。


なのに私達は毎日必死になって努力をして、

理想の音を追い求め、生まれては消えていく音を繰り返す。


ずっと、不思議に思っていた。


けれど、今ならきっと分かる。


もう二度とこのメンバーで演奏する事はない。


だから、その最後の瞬間を惜しんで、

一つ一つの音に魂を入れて大切に演奏する。


きっとこれが、一音入魂ってヤツなんだろう。


そして、私はお世話になった先輩達のために、

精一杯の感謝をこめて一緒に演奏する。


楽器の基礎を一から教え、面倒を見てくれ、

落ち込んでいれば慰め、相談すれば親身に考え、

そしていつも楽しい雰囲気を作ってくれた先輩。


そして、入部したときからの疑問の答えを、

吹奏楽部らしく演奏で教えてくれ、

誰かのために演奏することも教えてくれた。


きっと私達にとって、先輩は生涯で一番

素晴らしい先輩であると思う。


だから、今はただ感謝する。


そして、受験に成功するように私達は祈る。


せめて、後輩に教えてもらうレベルは脱出できますように、なんてね。

どうだったでしょうか?

最後は少しふざけた終わり方にしてみました(汗


感想・批判等ありましたらお気軽にお願いします。

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