「失恋の数だけ腕輪をつける白髪ツインテールの彼女に、『7番目の彼氏になれ』と迫られている」
授業中の教室。高校に入学してまだ間もない頃、僕は席に座りながらぼんやりと考えていた。彼女ができるって、いったいどんな感じなのだろうか、と。でも、恋愛経験なんて皆無の僕にうまくやれる自信なんてない。世の中には、悲惨な結末を迎える関係だって山ほどある。
(ざわざわと響く教室の話し声……)
きっと、僕なんかが付き合ったら絶対に失敗する。それは頭では「欲しい」と思うのに、いざ手に入った瞬間に「……で、これから一体何をすればいいんだ?」と途方に暮れる類のそれに違いなかった。
可愛い彼女ができるならそりゃあ嬉しいけれど、だけど……。
(キーンコーンカーーンコーン――チャイムの音)
これといった予定もないまま中庭へと向かい、ベンチに腰を下ろして持参した弁当を広げたその時、遠くに見慣れない少女の姿が目に留まった。
ツインテールにした長い真っ白な髪に、涼しげな灰色の瞳。やけに目を引く容姿だった。おまけに、両腕にはそれぞれ3本ずつ、合計6本の 腕輪 をつけている。あれは何か特別な意味があるのだろうか、それともただの飾り?
だが、彼女はまっすぐこちらに向かって歩いてくるように見えた。もしかして、じろじろ見ていたのがバレたのだろうか? 別に気を悪くさせるような真似をした覚えはないはずだけど……。それに、彼女の顔なんて今まで一度も見たことがない。本当に僕たちと同じ学年なのだろうか?
僕は何事もなかったかのように視線をそらし、見なかったふりをしながら弁当を口プッシュし続けた。しかし――彼女はそのまま、僕の隣にすっと腰を下ろしたのだ。
……彼女は一言も発しない。正直、居心地の悪さで冷や汗が出てきそうだった。最初は急いで残りの弁当をかき込んでいたものの、食べ終わってしまえばもうその場から逃げ出すしかなかった。けれど、妙なプレッシャーに押されて、僕はしびれを切らして声をかけた。
「あの……僕のこと、どこかで見たことある?」
「森 星子」
「……え?」
「私の名前」
「森さん、僕は佐藤 陽翔だけど」
「よろしくね、陽翔くん。私を見つめていたみたいだけど、何か話したいことでもあったの?」
分かっていたけれど、やっぱりめちゃくちゃ気まずい。そんなに露骨に見つめてしまっただろうか? 別に変な意味じゃなくて、ただ好奇心をそそられただけなんだけど……。ここは正直に言うしかない。そうすれば、きっと納得してもらえるはずだ。
「その腕につけてる腕輪が気になってさ。何か意味があったりするの?」
僕はできるだけ引きつらないよう、作り笑いを浮かべながら尋ねた。
「うーん、あるよ。知りたい?」
彼女は両腕をすっと伸ばし、僕の目の前でその腕輪を見せた。
「もし差し支えないなら……うん、気にはなるかな」
「これね、一つひとつが私の過去の恋愛の失敗作なの。失敗した関係の記念品みたいなもの。数えてみると、ちょうど六つあるんだよね」
……一体どう反応すれば正解なんだこれ? 「それはドンマイ」とか言うべきか? いや、さすがに他人の痛い恋愛事情に踏み込むのは気が引ける。めんどくさいことになったぞ……。
「森さん、その腕輪の色に何か特別な意味はあるの?」
彼女は少し考え込むように自分の腕の飾りを見つめ、しばらく間を置いてから答えた。
「ううん、特に何もないよ」
またしても返しに詰まってしまう。どう切り上げようかと考えあぐねていると、タイミング良く午後の授業を告げるチャイムが鳴り響いた。
立ち上がろうとしたその瞬間、彼女が僕の腕をグイッと掴み、まっすぐ僕の瞳を見つめてきた。――え、待って、僕今なにか地雷を踏んだ!?
「陽翔くん」
「……はい?」
「私の、7番目の彼氏になってくれない?」
「……は?」
その疑問は、最後の授業中ずっと頭から離れなかった。直感的に、その場でなんて返していいか分からなかったんだ。何て答えるのが正解だったんだよ!?「はい」って即答すべきだったのか? まだろくに名前も知らない相手だぞ。おまけに、過去に6人も男を振ってきた(あるいは振られた)女だ。いったいどういう状況なんだ……。ぐるぐると頭を悩ませているうちにチャイムが鳴り、僕はすごすごと帰路につくしかなくなった。
そして、翌日の放課後。校門を出ようとしたところで、彼女が僕の前に立ち塞がった。――もしかして、ずっと待っていてくれたのか?
「陽翔くん。もう答えは出た?」
「……森さん。僕の答えは『断る』だ。意味がわからないし、君のこともまだよく知らない。それに、あまりにも急すぎるよ。ごめん、森さん」
彼女はほんの一瞬だけ沈黙し、それからまっすぐ僕を見据えて言った。
「そっか。じゃあ、私を好きにさせてあげる。また明日ね、陽翔くん」
そう告げると、彼女はくるりと背を向けて別の方向へ歩いていった。その背中は、妙な決意に満ちていて――なんとも気まぐれで、目が離せない女の子だった。
そして迎えた翌日。教室の扉をくぐると、そこには森さんの姿があった。やっぱり同じクラスだったらしい。これまで全く存在に気づかなかったなんて、僕の視野が狭すぎたのか。彼女はどこか思案げな顔をしていて、足元のスクールバッグの脇には、何やら中身の隠された袋が置かれていた。
――もしかして、昨日言っていたことと何か関係があるのだろうか?頼むからこれ以上面倒事に巻き込まれないでくれ……僕は自分がどうしてこんな状況にハマりかけているのか、まったく理解できなかった。
やがて昼休みになり、いつものベンチへと向かう。弁当の準備をしようとしたその時、またしても彼女の姿が見えた。両手を後ろに組んだまま、どこか怪しげな足取りでこちらに近づいてくる。
彼女が十分な距離まで近づくと、ふっと足を止め、そして――やおら僕の目の前で膝をついた。そして、背中に隠していたものをスッと差し出したのだ。一輪の花束を添えて。
「陽翔くん、私の彼氏になってくれますか?」
持っていたお弁当が、ガタンと音を立てて足元に落ちた。最悪なことに、周囲にいた野次馬の生徒たちがざわめきながら集まってきてしまう。おいおい、マジでここまで本気でやりやがったのかよ!?
「……返事は今すぐじゃなくてもいいの。だけど、もう少しだけ私にチャンスをちょうだい。一緒に過ごしていけば、きっと気持ちもわかるから」
周囲の視線がすべて僕に突き刺さる。そんな中、森さんはまだ膝をついたまま、けなげに花束を差し出し続けていた。
「……森さん、もういいよ。ほら、立ち上がって。……分かったよ、試してみるだけなら」
僕がそう言うと、彼女はパッと花を咲かせたような笑顔を見せ、受け取った花束を左手で支えながら、すかさず僕の右腕に自分の腕を絡めて密着してきた。なぜだか、心底嬉しそうな顔をしている。
周囲から冷やかし混じりの拍手が沸き起こる中、当事者の僕は「これからいったいどうなるんだ……」と遠い目をしていた。こうして、僕と森さんの交際――いや、「お試し期間」が始まったのだ。周囲にはあんなに男子がいるというのに、なぜか彼女が選んだのは僕だった。
もっとも、見た目はびっくりするほど可愛い。――そう、これだ。最初に思った「期待して手に入れたはいいものの、次にどう動けばいいのか分からない」というあの感覚。今まさに、そのまんまの心境だった。これから僕は一体どうすればいいんだ? こうして彼女のペースに巻き込まれ、本当に7番目の「使い捨ての腕輪」になってしまうのだろうか? 正直、喜んでいいのかどうか全く分からない。
「陽翔くん」
「ん、どうしたの? 森さん?」
「ねえ、カフェに行こっか」
「――って、まだ授業終わってないからね!?」
彼女は少しだけ潤んだ瞳で上目遣いに僕を見つめ、ふっとそっぽを向いた。
「……ううん、放課後になったら、ね?」
――その瞬間、彼女の瞳がキラリと輝いた気がした。切り替わりが早すぎないか!?
本当に、とんでもない沼に足を踏み入れてしまったらしい……。
今回は「ちょっと変わった恋愛モノを書いてみたい」と思い、ふと――*「もし、失恋の数だけ記念の腕輪をつけている女の子がいたらどうなるだろう?」*というアイデアからこの物語が生まれました。
彼女の腕にある腕輪の本当の意味とは……? そして、なぜ彼女はごく普通の主人公・佐藤くんを選んだのか……?
短いお話ですが、二人の少し風変わりな関係を楽しんでいただけたら嬉しいです!感想やコメントもお待ちしています!




