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放課後の天使くん  作者: 絲夜しづる
第二章 天使は猫を探す

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第三話 柚

やっぱり、もっと小説を読む時間が欲しいので、隔日投稿になりそう。

 キーンコーンカーンコーン。

 聞き慣れたチャイムで私の飛びかけていた意識は引き戻された。みんなが一斉に椅子を引くのに倣って立ち上がる。

 やっと、帰れる。


「あー、よく寝た」

 綾音が伸びをして、私の方へ振り向いた。私の席は運よく綾音の後ろだ。


「咲も綾音も寝過ぎ」

 私と綾音がノソノソと帰る支度をし始めたところで友奈が来た。友奈の席だけ少し離れていて、私たちの斜め後ろにある。


「友奈、いつも思うけど帰る支度早いよね」


「授業終わる五分前には始めてるから」


「それもどうなの?」


「寝てるよりは良いでしょ」


「ゆきちゃん先生の声がやばいんだよ。めっちゃ快眠できちゃう」

 それは分かる。急に怒り出すとかもないから、安心して寝れる。失礼なのは分かっているけど眠いものは眠い。


「ねぇ、今日一緒に帰らない?」

 眠いといえばコーヒー。そういう連想でモコモカフェの新作ドリンクが出たのを思い出した。


「あぁ〜、私部活あるから」


「私は彼氏とデート」

 つれない……。綾音の部活はしょうがないけど、友奈は最近彼氏とお熱すぎないだろうか。ついこの間できたばっかで一番楽しい時期なんだろうけど……。


「えぇ、友奈いいなぁ。彼氏」

 綾音が項垂れながら言った。そういえば友奈の彼氏ってどんな人なんだろう。


「綾音は相手を選びすぎ」


「うーん、なんかあんまりピンとこないんだよね。運命! みたいなのがいいの私」


「運命って……。綾音、ガキだね」


「ひどくない?!」


「私も咲に賛成」


「友奈まで?!」

 そんな風に少しふざけ合ってから、綾音も友奈もそれぞれの用事に向かった。一人取り残されてしまった私は、暇だし天使部に行くことにした。



 今度はちゃんとノックしてから扉を開ける。

 部室は静かで、窓から午後の光が差し込んでいた。春風がカーテンを揺らしている。

 

「どうぞー。あ、夏月さん。こんにちは。珍しいね、金曜日に来るなんて」

 天音が今日もにこやかに挨拶してくれた。


「まぁね、綾音と友奈が今日は用事あって」


「そっか、部活が忙しいの?」


「まぁ、そんな感じ」

 机の上にカバンを置いて、天音の隣、机一つ分離れた椅子に座る。

 

 天音は、読んでいた本にしおりを挟んで、机の上に置いた。別に読んでてもいいんだけど、天音は気を遣っているのか、それとも単に人と話すのが好きなのか一緒にいると話を振ってくれる。天使部に入ってから一か月弱。週に数回は顔を出すようにしていたから、少しずつ天音のことも分かってきた気がする。


 第一にやっぱりすごく人気がある。廊下ですれ違うとみんなが嬉しそうな顔をする。上級生にも知り合いが多いみたいで可愛がられている。


 第二にすごく良い人。昨日見かけた時は剥がれかけた掲示物を直していて、一昨日は落とし物を届けていて、先週街で見かけた時はおばあさんの荷物を持っていた。いつ見ても良いことをしていて逆に呆れるぐらいだ。最初はドッキリか何かかと思った。


「夏月さん? どうしたの? 僕の顔に何かついてる?」


「うん、目と鼻と口がついてる」


「そりゃついてるよ」

 そう言って楽しそうに天音は笑う。意外とノリがいい。そしてツボが浅い。

 こういうところが人気の秘訣なのかな、なんて思っているとコンコンと扉がノックされた。


「あ、どう――」

 天音が言い終わるより先に勢いよく扉が開いた。女の子が飛び込んでくる。低めの位置で髪を二つ結びにしていて、袖からは指だけが見えていた。


「天使くん大変なんだよ!」

 その女の子は、小走りで天音の前まで行くと勢いよく机に手を置いて、これまた勢いよく言った。


「ど、どうしたの?」

 天音が少し面食らっている。


「あのね、あのね。うちのポンが」


「一旦落ち着こうか、座って」

 いつもの微笑みを取り戻した天音が、椅子を手で示した。


「あ、そうだね。ごめんごめん」

 天音の落ち着いた声に、その子も少しは落ち着いたみたいだ。でも、まだ膝の上で手を握ったり開いたりして、忙しない。

 その目がふとこちらに向いて、それて、また向いた。

 綺麗な二度見。


「え、え! だ、誰?」

 気づいてなかったんだ。


「あぁ、二人は初めまして?」


「うん」


「そっか、じゃあ紹介するね。こちらは、うちの新しい部員の夏月咲さん。こちらは、二年四組の古岩(ふるいわ) (ゆず)さん」


「よろしくね、夏月さん」

 古岩というその女の子は、こっちに向き直って、笑顔でそう言った。

 嘘くさい。営業スマイルっていうか、慣れてるなぁって感じ。


「よろしく」

 こういう男子人気の高そうな、あざとい系女子苦手なんだよなぁ。なんて思いながらも、最低限の挨拶を返した。


「さて、それで、どうしたの柚さん?」

 天音が早速本題を尋ねた。


「あ、そうそう。うちの猫がね。いなくなっちゃったんだって」


「ポンさん?」


「そう! お母さんから連絡が来て……どうしよう」

 眉尻が下がって、困り顔が可愛さを演出する。この子は天音が好きか何かなのだろうか。意図的に庇護欲を誘っている気がして、私はあえてぶっきらぼうに、

「そのうち帰ってくるんじゃない?」

 なんて突き放してみた。


 猫なんて気ままな生き物だ。おばあちゃんの家の猫だって、二、三日帰ってこないことぐらいざらにある。嫌な顔をするかと思ったけど、案外、古岩は素直に答えた。


「いや、完全に室内で飼ってるから入って来れないの」


「それならなんで逃げたの?」


「洗濯物干してる間に、逃げちゃったんじゃないかって。ポン、すごい好奇心旺盛だから……」


「そっか、心配だね……」

 天音が眉を寄せ呟く。


「そうなの」

 古岩は俯いてしまった。相変わらず手を握ったり、開いたりしている。

 古岩は上目遣いで天音を見つめて、控えめに口を開いた。


「あの」


「うん」


「一緒に探すの手伝ってくれない?」


「もちろん。心配だよね。僕にも探させてほしい」


「やった。ありがとう天使くん」


「夏月さんはどうする?」

 天音が振り向いた。優しく笑って、私に選択権を残してくれている。こういうとき、天音は意外と手伝うことを強制しない。

 古岩はどう思っているのだろう。天音と二人きりで探す方が都合がいいんじゃないか。


「夏月さん、お願い。探してくれないかな」

 意外だった。古岩の表情は真剣で深刻だった。古岩は本気でそのポンという猫を心配しているらしい。

『猫好きな私かわいい』っていうアピールの猫ではないのか。少し穿った見方をしすぎていたらしい。


「いいよ、モコモカフェの新作フラペチーノ奢ってくれるなら」


「モコモカフェ夏月さんも行くの?」


「うん」


「そうなんだ! 良いよね。私も好き。奢るよ。天使くんにも奢ろっか?」


「うーん、とても魅力的な提案だけど、僕もポンさんが心配で探すわけだし、お礼を受け取るようなこと

じゃないよ。さっ、善は急げだ。行こう」

 天音が立ち上がる。それに私も、古岩も続いた。


「ところで、古岩の家はどこなの?」


「あ、夏月さん」

 天音が寄ってきて耳打ちするより先に、私は古岩の異変に気付いた。


「ふ、ふるいわ。ふるいわ……古岩」

 古岩がぶつぶつと呟く。

「柚は柚だもん!」

 少し涙目になりながら古岩が私を睨んだ。


「柚さん。自分の苗字嫌いらしいんだよね」

 天音が今更ながらそう言う。そういのは紹介の時に言ってもらわないと困るんだけど。

 にしても。


「へぇ〜、良いこと知った」


「え、夏月さん?」


「大丈夫大丈夫、何もしないよ」

 私は極めて友好的な笑顔を見せた。


「目が笑ってないよ……夏月さん」


「もう、行こ。天使くん」

 怒らせちゃっただろうか。私のモコモカフェ無料券が危ない。


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