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放課後の天使くん  作者: 絲夜しづる
第一章 私は天使と邂逅する

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第二話 ポスター

「そういえばさ、昨日先生に無理やり部活に入れられた」


「え、なにそれ。ひどくね」

 昼休み、教室でお弁当を開きながら綾音と友奈としゃべっていた。


「無理やりってどうゆうこと?」


「なんか生活態度を治せ? みたいな理由で。それでさ、なんか、お悩み相談部みたいなのに入ったんだけど、知ってる?」


「え、なにその部、ウケる」

 友奈はどうやら聞いたことがないらしい。綾音はどこかで聞き覚えがあるのか、指をこめかみに当てながらうーんと頭を捻っていた。


「あ、思い出した! 天使くんの部活じゃない?」

 はっ、と目を開けた綾音が勢いよく言った。


「天使くん?」


「え、咲。天使くん知らないの?」

 友奈が目を丸くする。パンダが喋ったのを見た、みたいな顔だ。


「いや、流石に聞いたことはあるけど。いまいち誰か分かってなかった」

 あれが例の”天使くん”。なるほど、あの微笑みはずるい。


「天使くんの部活かぁ〜、良いなぁ。天使くんマジ天使だもんね。去年一緒のクラスだったけど、いつも誰にでも親切だし、会ったら必ず挨拶してくれるの」


「ね。天使くん、大会も見に来てくれるんだよ。あ、てか咲も友奈もちゃんと今年も見にきてよ」


「二回戦行ったらね」


「ひどーい!」

 大袈裟に悲しがって、綾音が友奈に抱きつこうとする。それを友奈はうっとうしそうに手で制した。そういえば、綾音の大会も一ヶ月後だっけ。

 綾音はバスケ部だ。感情が全部顔に出るタイプで、だから面白いし、放っておけない。

友奈は茶道部。表情はあまり動かないけれど、今だってちゃんと綾音の腕を払う力は優しい。二人とも、私にとっては大切な友達だ。


「にしても、咲が天使部かぁ」

 一通りダル絡みして満足したらしい綾音がそう呟く。


「天使部って」


「天使くんの部活だから天使部。そう言われたら私もわかる」

 友奈が補足してくれた。短いし、お悩み相談部よりはマシかも。


「咲、全然天使ってガラじゃないよね。どちらかというと、鬼……」


「は?」


「怖いよ!」

 売られた喧嘩は買う主義だ。誰が鬼だ全く。


「まぁ、良いんじゃない」

 友奈がお弁当を片付けながら言う。


「天使くんと付き合えたら、富、名声、力。この世の全てが手に入るよ」


「そんなどこぞの海賊王みたいな……」

 そもそも、天使くんの感じはあんまり私の好みじゃない。もう少し背が高くて端正な顔立ちの……。


「そういえば、天使くんってイケメンの友達も多いって聞くよね」


「え、ホント?!」


「咲マジ面食い」

 友奈がためいき交じりにこちらを見る。

 しまった。思わず食いついてしまった。


「まぁ、天使くんと仲良くしといたら何かと良いと思うし、部活がんばりなよ」


「……まぁ、そうだね。入部しちゃったし、最低限のことはする」

 そう。これは、イケメンを紹介してもらうため。仕方なく。


 放課後になって、また部室に来てみた。

 ホワイトボードを見る限り天音はすでに来ているらしい。


「え……」

 扉を開けると、天音は指を組んで静かに目を閉じていた。

 開け放たれた窓から、春の日差しと風が入り込み、天音を柔らかく照らしている。

 見慣れた形の空き教室が急に神聖さを帯びる。

 知らず背筋が伸びて、一瞬、息を吐くのを忘れた。


「あ」

 自分がノックをしなかったことに今気づいた。あまり見られたくない場面を見てしまったかもしれない。


「あ……夏月さんだ。ごめんね、気づかなかった。来てくれたんだね。嬉しいな」

 天音は私に気づくとすぐに人懐っこい笑顔を浮かべた。


「うん、ごめん。ノックすればよかったね」


「いやいや、全然いいよ。まぁ、してくれた方がびっくりしないで済むけど、別に見られたくないことをしていたわけじゃないし」

 そうなんだ。良かった、見ても良かったらしい。


「何してたの?」


「うーん……祈ってた」

 天音は、言葉を選ぶように間を置いた。


「クリスチャン?」


「いや、別に神様を信じてるわけじゃないんだけどね。みんなの幸せを祈ってたんだ。健康で楽しく日々を過ごせますようにって」

 一瞬驚いて目を丸くしたが、少し恥ずかしがる天音は嘘をついているようには見えなかった。変な人……。


「ふふっ、変なことするなぁって思ったでしょ」


「まぁ」


「こういうあんまり意味がなさそうなことが好きなんだよね。まぁ、趣味みたいなものだね」


「ヘぇ〜」

 別に納得できる理由を話してくれたわけではないけど、天音ならありえるかと納得してしまった。


「今日ってさ、何かすることあるの?」


「うーん、活動は相談が来るかどうかだから、分からないけど。こうして教室にいるだけもつまらないよね。そうだ! A4サイズだけど、ポスターを作ったから貼りに行こっか」

 そう言って天音はカバンからポスターを取り出した。


「悩みごとはお悩み相談部まで……。あ、これ見たことあるかも……」


「ホント? 結構色んなところに貼ってるからね。あんまり他の掲示物の邪魔をしないようにだけど」


「へぇ〜。結構ちゃんと活動してるんだ」


「あはは、まぁね。前のは期限が切れちゃったから新しくってわけ。じゃあ、早速だけど行こっか。荷物置いてく?」


「うん」

 荷物を置いて、天音に付いていく。


「ホワイトボードのやつ変えといてもらえる? それと出来れば、すぐに戻りますって書いといて欲しいな」


「分かった」


「ありがと」

 天音が鍵を閉めている間に、ホワイトボードのマグネットを移動させ、すぐに戻りますと書く。


「あ、書いといてくれた? ありがと、字綺麗だね」


「え、あぁ、書道習ってたから」

 あまりに自然に褒めるものだからびっくりしてしまった。でも、天音にとっては当然のことだったのだろう。もう前を向いて歩いていた。


「書道かぁ、良いね」

 天音は楽しそうに言った。少し先をいく背中の肩が弾む。

 天音は時々私がついてきているか後ろを振り返りながら進んだ。

 まずは階段の踊り場らしい。


「ここに一個貼ろうかなって、あとは一階の正面玄関のところと、西階段と旧校舎の方とか。一年生の廊下にも貼ろうかなぁ」

 あそことか、あっちも貼ろうかなぁ、と天音が指を折って数える。確かに、ポスターは十数枚はありそうだった。


「そんなにたくさん貼るの?」


「うん。色んな人に知って欲しいし、ふとした瞬間に目につくとかあるからさ」

 声は穏やかだけど、その視線はまっすぐに固定されている。


「そっか、結構地道に活動してるんだね」


「うん、できることを精一杯、ね。草の根活動っていうのはちょっと意味が違うかもだけど、大事なことだよ。生徒会とか先生にはできないこともあるから。あ、ごめんこれ持っててくれる?」

 そう言って、天音はポスターを一枚とると他のを私に渡した。そのまま天音は画鋲を取り出して、掲示板の右上に少し背伸びをしながら画鋲を刺す。


「ちょっと斜めってるんじゃない?」

 一歩後ろに下がって見る。


「あれ、どっちが下がってる?」


「右」


「これぐらい?」


「うん」


「ありがと、うん、良いね」

 天音も一歩下がって私の横に並ぶ。

 ポスターを確認すると、顎を引いて静かに頷いた。


「あのさ、天音」


「ん、何?」


「天音は、先生から私の更生を頼まれてるの?」

 天音は先生の相談も受けると言っていた。人が足りないから私に白羽の矢が立ったのかと思ったけど、そういうわけでもなさそうだ。だって、あの天使くんの部活だ。入りたいという人はいる気がする。こうやってポスターを貼っているのだから知名度がないわけでもないはず。


 一瞬本当に一瞬。息継ぎをするみたいに天音の顔から笑顔が消えて、探るような目が私を射抜いた。グレーの目が磨りガラス越しのぼんやりとした光に照らされている。


 天音が眉を寄せた。……図星だったのかもしれない。


「正確にいうと相談されたんだ」


「へぇ」

 やっぱり。

 私と背のほとんど変わらない天音の目を見下すように睨みつける。

 天音は、正面から私の視線を受け止めて、すぐに笑みを浮かべた。目を逸らして、私に背を向ける。


「じゃ、次行こっか」

 先生の言いなりの良い子ちゃんをどう説き伏せてやろうかと、少しワクワクしていたのに。全く張り合いのない天音に拍子抜けした。


「ちょ、ちょっと待ってよ。言っとくけど私、良い子ちゃんになったりなんかしないから」

 あんなすぐに目を逸らされたら張り合いがない。私に怯えたようにも見えなかった。


「良いんじゃない? それでも。別に暴力沙汰を起こしてるとか、犯罪に巻き込まれそうな危ないことをしてるわけじゃないんでしょ?」

 階段を降りていた天音が振り返って私を見上げながら言った。


「え、まぁ、うん」

 また、天音が背を向けて階段を降りる。


「夏月さんがさ、変わりたいならその手助けはできるだけしたい。でも、変わりたくない人を無理やり変えようとはあんまり思わないかな」


「そうなんだ……」

 私は勝手に敵視して睨んだのに、天音の調子は終始機嫌が良さそうな柔らかい声だった。


「夏月さんが優しい人なのなんとなく分かっちゃうしね」

ふと振り向いた天音が、微笑んで言う。それはまさしく天使の微笑みだった。


「べ、別に優しくなんてない」

 追いかけようと思って、踏み出したところで足を滑らした。

 足が空を切った瞬間、腰を掴まれる。気づけば、天音がすぐ目の前にいた。


「大丈夫? 足捻ったりしてない?」

 私が、体勢を整えたのを確認すると、天音は抱き止めていた手を離した。


「う、うん。大丈夫。ありがと」

 恥ずかしい。耳から首まで、フラミンゴみたいに赤くなっているに違いない。


「怪我がなくてよかった」

 天音が笑いかける。

 漫画やアニメではよくある展開。でも、現実で、こんな風に受け止めれる人ってどれだけいるんだろう。これくらい天音にとっては普通のことなのかも。


「あの、とにかく私、別に優しくなんてないから」


「えぇー、別に優しいことは悪いことじゃないと思うんだけどな」

 コロコロと天音が笑う。


「……。はぁ、早くポスター貼ろ。すぐ戻るんでしょ?」

 ため息が出たのは、天音の明るさと優しさがあまりに底なしなことと、そんな天音を警戒していた自分に呆れたからだ。


「そうだった。うん、ちゃちゃっと終わらせようか」

 天音に私を更生するという思惑がないと分かって、間に引いていた線がなくなった気がする。時々、天音に部のことを聞いたりしながらポスター貼りは終わった。


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