閑話休題 天使とテスト終わり
「はぁ、やっとテスト終わった」
定期試験明け。放課後の部室で体を机に投げ出して、私はそう言った。
「そうだね、手応えはどう?」
「まぁまぁ。ありがとね。今回も助かった」
「夏月さんが頑張ったからだよ。僕も勉強になったしね」
「天音、私に教える前からほとんど完璧だったでしょ」
「そうでも無いけど、まぁ、普段から勉強してるからね」
「私には無理だなぁ」
遊ぶことで忙しいし、勉強は面倒くさい。昨日もテストが終わってからは友奈と綾音とカラオケに行った。
「天音は昨日何してたの?」
「昨日は、お昼ご飯学校の近くに食べに行って。そのあと、部室に残って本読んだり勉強したりしてた」
「えぇ、昨日も部活してたんだ。読書と勉強ってすごいね」
「まぁ、もう習慣になってるからさ。案外苦でもないんだよ」
「そっか。そういえば天音ってさ、いつもお昼どこで食べてるの? 食べてるところ見たことないんだけ
ど」
「うーん、えっとね。秘密」
そう言って天音ははにかむ。
「ふーん。どうして?」
「あはは、それを教えちゃ秘密の意味もないんだけど。そうだなぁ」
天音が言い淀んで天井を見る。
この感じならもう一押しだな。
「いいじゃん。教えてくれても、別に押しかけたりしないよ」
「あはは、夏月さんには教えたくない、とかじゃないんだよ。ただ、お昼は一人で食べてるんだ。……その方が落ち着くし」
「クラスで食べたりしないの?」
「クラスでだと、なかなか落ち着いて食べられないんだよね」
天使くんは少し恥ずかしそうに言った。
なぜそこで照れる。天音が言うなら、納得なのに。
「ふーん。人気者も大変なんだね」
「あはは、みんながよくしてくれて嬉しいよ。僕も学校に来てみんなに会えるのが嬉しい」
「そっか、まぁ、私も友達に会えるのは楽しいかな。学校がなかったら、別でもっと遊んでるけど」
「確かにね。夏月さん、学校は楽しい?」
天音が私に向き直って改まったように言う。
「楽しいよ」
私は最近の日々を思い出しながら答えた。ここで天音と適当に暇を潰したり、柚と猫カフェに行ったり、綾音と友奈とボーリングに行ったり。あれ全然、学校関係ないな。
「そっか。何か困ったことがあったら相談してね」
そう言って、天音が優しく笑った。
目尻が柔らかく下がって、丸い目がこっちをまっすぐに見つめている。
目が合った。
いつも見ているはずなのに、いつのまにか私は目を逸らしていた。なんでだろう、頬が熱い。
「夏月さん?」
「あ、そうそう! この前、天使くんファンクラブの人に詰められた」
「え」
「なんか、どうやって部活入ったの。天使くんとはどういう関係なのって」
「あぁ、ごめんね。大体の人は面白そうだから入ってるだけなんだけど、たまに、ありがたいことに、熱心な人もいて……」
天音が歯切れが悪い感じで、指先を突き合わせて言う。天音もどうやら扱いに困っているらしい。
「大丈夫、実害ないし。面倒くさいから適当に巻いたけど」
「そっか。ごめんね」
「いいよ、てか悪いの顧問でしょ。入れたのあいつだし」
「あはは、確かにそうかも」
熱狂的なファンたちに見張られて大変なのは天音の方だろう。お昼ごはんぐらい一人で食べたくなるのも分かる。
昨日テレビで見た、動物園のパンダを思い出した。ちょっと似てるかも。
何を考えているのか分からない。のんびり屋さんの人気者。
白黒つかない。
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