第2章(9)記者会見
カメラのフラッシュは、
すでに、嵐のように降り注いでいた。
「龍騰総裁の臨時会見――」
「敵対的買収か?」
「またお家騒動か」
「総裁の責任問題は?」
ざわめきが波のように広がり、
記者たちの視線が一点に収束している。
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昊天が姿を現した瞬間、
それまで荒れ狂っていたフラッシュが、一拍だけ止まった。
会場が静まるのを待って、
昊天は原稿に一度も目を落とさず、口を開いた。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます。
龍騰グループ総裁の、李昊天です」
一拍。
「本件について、噂や憶測が市場に流通していることは承知しています。
本日は、事実のみを、簡潔にお伝えします」
フラッシュが焚かれる。
「第一に。
現在、龍騰グループの経営権に変更はありません。
当社の取締役会、執行体制、ならびに主要事業の運営は、通常通り継続されています」
ざわめきが起きるが、昊天は気に留めない。
「第二に。
当社株式の市場取引についてです」
スクリーンに、簡潔な図が映る。
「海外投資ビークルを経由した当社株式の取得が、複数確認されています。
これ自体は、法令に従う限り、違法ではありません」
ここで、ほんの一瞬だけ間を置く。
「しかし——」
空気が張りつめる。
「その取得資金の原資、
ならびに担保設定の過程において、
重大な法令違反の疑いが認められました」
会場が静まり返る。
「具体的には、
特別背任、
情報開示義務、
および資本規制関連法令への抵触です」
記者の誰かが息を呑む音。
「現在、当社はすでに、
関連資料一式を金融監督当局および司法当局に提出しています」
ここで初めて、明確に言い切る。
「——調査は、開始されています」
フラッシュが激しくなる。
「第三に。
龍騰グループの対応方針です」
昊天は、淡々と続ける。
「当社は、
違法行為を前提とした資本介入、
およびそれに基づく経営干渉を、
一切認めません」
「同時に、
正当な株主の権利は、
国内外を問わず、厳格に尊重します」
矛盾のない、逃げ道のない言葉。
「金融機関、取引先、従業員の皆様には、
本件が当社の財務健全性および事業継続性に影響を及ぼさないことを、
ここに明言します」
一拍。
「龍騰は、脅しや噂で動く会社ではありません」
昊天の視線が、カメラの奥——
つまり「市場」そのものを射抜く。
「法と事実に基づき、
必要なすべての手段を講じます」
息を継ぎ、
「以上です」
深くも浅くもない、正確な一礼。
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記者の質疑応答が続く。
「グループ会社が、内地資産を担保に海外融資を受けていたとのことですが――
龍騰の経営への影響は?」
会見場の扉の前に立つ菲菲がわずかに息を呑んだ。
その質問は、鋭すぎる。
だが――昊天は、即答した。
「ありません。」
静まり返る会場。
「龍騰の基幹技術資産は、
本社ではなく、別法人に帰属しています。
ご心配には及びません。」
記者席から、どよめき。
世界が――気づく。
“龍騰の本丸は、昊天が別に握っている”
株価の盤面が今、
裏で動いているのが見えるほどの反応。
マイクが切られる前、
最後に、記者が叫ぶ。
「総裁——
今回の件は、李家内部の問題では?」
「総裁。
今回の件で、“辞任の可能性”を問う声もあります。
ご自身の責任について、どのようにお考えですか?」
昊天は、立ち止まり、振り返る。
そして、一言だけ。
「——法は、姓を見ません」
それだけ言って、去る。
昊天が会場を出た瞬間、
香港市場で龍騰株が急騰し始める。
上海も、追随する。
市場は、答えを出した。
“覇道総裁の勝ち”だと。




