第3章(14)ふさわしい場所
###編集会議
会議室は、いつもより空気が重かった。
午後3時。
紙面割りの最終調整。
長机の上に、知夏の企画メモが置かれている。
「……で、これは何ページ想定?」
デスクの一人が、紙をめくりもせずに言った。
「港湾でのスマート化運用を軸に、
“都市OS”という——」
「また生活の話?」
遮るように、別の先輩が鼻で笑う。
「前も言ったよね。
生活はCFに分解できないと、経済記事にならないんだって」
「港湾? インフラ?
それ、設備投資の話に落とせるの?」
「数字は? ROIは?
“運用が大事です”って、感想文じゃないんだから」
知夏は、反論しなかった。
というより——できなかった。
(違う)
(これは、そういう話じゃない)
でも、口にすればするほど、
ここでは“ズレている側”になるのが分かっていた。
「紙面は限られてるんだよ」
誰かが、決定打のように言う。
「今月は決算特集もあるし、
正直、これを載せる余地はないな」
——終わりかけた、そのとき。
編集長が、ゆっくりと口を開いた。
「……紙じゃなくてさ」
全員の視線が、そちらに向く。
「Webで出してみないか」
一瞬、間が空いた。
「Web?」
「最近、数字見てるだろ。
雑誌は落ちてる。でもWebは伸びてる」
編集長は、知夏の企画メモを手に取った。
「この企画、
写真が多いほうがいいだろ」
港湾ゲート。
AGV。
管制室のスクリーン。
ドローン映像。
「現場の絵がないと伝わらない話だ」
誰かが言いかける。
「でもWebって——」
「軽い、って言いたい?」
編集長は、被せた。
「今は違う。
21世紀に入って何年経ったんだ」
少しだけ、声が低くなる。
「IPの話、
運用の話、
“資産じゃなく仕組みが価値を生む”って話は、
紙よりWebのほうが届く」
知夏の胸が、わずかに高鳴った。
「それに——」
編集長は、知夏を見る。
「君の書こうとしてるのは、
“未来予想”じゃない」
一拍。
「今、動いてる現実、だろ」
会議室が、静まった。
「Webで一本、しっかり書いてみろ。
反応が出たら、次を考える」
それは、条件付きの許可だった。
でも——
(開いた)
知夏は、深くうなずいた。
「……やります」
会議が終わり、
デスクに戻る。
狭い机。
ノート。
港湾の写真データ。
画面を開いた瞬間、
言葉が、溢れそうになった。
(書ける、じゃない)
(——書かなきゃいけない)
知夏は、キーボードに手を置いた。
仮題を打つ。
「スマートシティ」という言葉を消し、
「都市OS」と入れて、また消す。
少し考えて、
仮題を置いた。
——未来ではなく、現場の運用の話。
画面の白が、
ゆっくりと埋まり始めた。




