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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第2章 株価防衛戦

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第2章(4)王の試練

取締役会は、異様なほど淡々としていた。


昊天が資料に目を通しているあいだ、

役員たちは誰一人として、

言葉を口にしなかった。


それが、不自然なほどの沈黙であることに

昊天は気づいていた。


---


「――以上だ」


昊天が短く告げる。


通常なら、ここで誰かが言う。

「海外ファンドの動きは?」

「株価への追加の影響は?」

「防衛策は検討しないのか?」


だが、今日は違った。


財務担当が口を開く。


「総裁の方針通り、当四半期は主力事業に集中します。

市場向けの追加コメントは不要かと」


法務担当も続く。


「現時点で、

 法的に即応すべき案件は発生していません」


海外事業担当は、

書類から視線すら上げない。



> 正しい。

> すべて、正しい判断だ。


だからこそ、

昊天は確信した。


――これは「放置」だ。


彼らは、何も誤っていない。

だが、「何もしていない」


それは偶然ではない。


---


会議は予定より早く終わった。


役員たちは順に立ち上がり、

いつも通りの礼をして退室していく。


誰も振り返らない。


その背中を見送りながら、

昊天は思う。


(……試されているな)


---

役員の多くは、父の代から龍騰がリーディングカンパニーへと上り詰めるのを支えてきた。

海外から上海に戻った20代の昊天を担ぎ、30歳で「玉座」へと押し上げたのは彼らだ。


彼らの結論は一致している。


* 総裁はまだ若い

* 決断は冷静だが、情を切り捨てきれない

* 李家という「家」を、なお重く見ている


昨年、昊天の不在時に、叔父派が仕掛けてきた時。

役員たちは叔父派を徹底的に叩くべきだと進言した。

しかし、取締役会など経営中枢から排除しただけで、彼らの持ち株や一族の財産については不問とした。

それは、李家のあるじとしての、判断だった。


だからこそ。


ここで彼が、 どう動くかを見極める。


自ら血を流すか

誰かを切り捨てるか

それとも、

本当に“何もしない”のか


その結果次第で、

彼に賭けるか、

保身に徹するかを決める。


卑怯だが、

合理的だった。


---



執務室に戻った昊天は、

窓の外の摩天楼を見下ろす。


株価は、まだ持ちこたえている。

市場は、静かだ。


(父なら……)


父なら、

この段階で一族を、一人切った。


それが市場へのメッセージになり、

役員も銀行団も、

迷わずついてきただろう。


だが――


(俺は、それを選ばなかった)


叔父派を完全に叩けと言われたときも。


「家」を理由に、

財産には手を付けなかった。


その判断が、

今、刃となって戻ってきている。


---


昊天は暗号化された回線で、

ただ一人にだけ指示を出す。


――香港。


――昊明。




役員たちが見たいのは、

“総裁が家の論理を断ち切れるかどうか”だ。


だが昊天は、

彼らの期待を裏切る。


(切らない。

 ――まず、根を調べる)


その判断が、

覇道か、

甘さか。


答えが出るのは、

もう少し先だ。

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