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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第1章 出会い

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第1章(16)春節の宴

春節当日。 李家屋敷は、年に一度の最高潮の緊張に包まれていた。


中庭には赤い灯籠が連なり、爆竹の残り香が冬の空気に混じる。

本家の大広間では、すでに分家・傍系の面々が席につき、当主の到着を待っていた。 ——いや、正確には。


(奥様は……来るのか?)


誰も口にしない。 だが、誰もが時計を見ている。


「今年も、総裁おひとりかしら」 「さすがに今日は……」


囁きは、期待と失望の境目で揺れていた。

そこへ。 扉の外から、足音が響いた。

慌ただしくない。 数を誇示するでもない。

ただ、揺るぎのない一歩。


老梅の低い声が通る。


「——李家当主、李昊天様。 ならびに……奥方様にございます」


その瞬間、 空気が一段、落ちた。 ざわめきが止まり、 視線が一斉に入口へ向かう。

現れたのは、 黒の正装に身を包んだ昊天。 そして、その半歩後ろ。 淡い金色のチャイナドレス。


光を反射しすぎない、上質な絹。

胸元と裾に施された龍の刺繍は控えめだが、 近づくほどに、格”を主張する刺繍だった。

装身具は最小限。 翡翠のイヤリングが、灯籠の赤を柔らかく映す。


妻は、伏し目がちに歩きながらも、 背筋は一切、崩れていない。


——怯えていない。

——気後れしていない。


それだけで、 いくつもの噂が崩れ始める。


昊天は、広間の中央で立ち止まった。 「遅れた」 それだけ。

言い訳も、説明もない。


そして、自然な動作で—— 妻の手を取り、自分の隣に立たせた。

半歩後ろではない。 同列だ。


その配置に、 親戚筋の目が、わずかに見開かれる。


(……立場を、示した)


昊天が当主として挨拶を終えると、 次に口を開いたのは、妻だった。

声は低くも高くもない。 広間全体に、澄んで届く。


「本日は、春節の佳き日に、 李家にお集まりいただき、ありがとうございます」


一礼。 深すぎず、浅すぎない。 迎え入れる側”の礼。


「準備が行き届かぬ点もあるかと存じますが、 どうかご寛恕くださいませ」


その言葉に、 何人かの年配者が、はっと息を呑む。


——準備が行き届かない?

——この屋敷で?


それは謙遜であり、 同時に、 「すでに掌握している者」だけが使える言葉だった。


昊天が、視線を親戚筋に向ける。

誰かが、遅れて気づく。


(不在だったのではない)

(“立つ時を選んでいただけ”だ)


その理解が広がるより早く、 昊天が告げる。

「では、祝宴を始めよう」


その瞬間。 広間の空気は完全に切り替わった。


——観察の場から、

——従う場へ。


噂は、もう意味を持たない。


妻は軽く微笑み、優雅な手つきでシャンパングラスを手にとる。


李家の当主と並び立つこの女は、 李昊天の妻である前に、 “李家の女主人”として、 この場に立ったのだ。


昊天は、 隣に立つ妻を一瞥し、


(……守る必要はないな)


そう、初めて思った。



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