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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第2章 株価防衛戦

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第2章(3) 第二波――揺らぐ信用

その日の午後。


龍騰大厦の執行フロアには、電話の呼び出し音が絶え間なく響いていた。

普段は抑制された動線が、わずかに乱れている。


「総裁、第二メインバンクからです。

“担保評価の再査定”を正式に要求してきました」


菲菲の声は冷静だが、言葉の内容は重い。


「……来たか」


昊天は、タブレットを閉じる。


担保評価の再査定。

それは、金融機関が口にする最初の撤退シグナルだった。


「一行だけではないな」


「はい。

 他二行も“内部審査が必要”との回答です。

 ただし——」


菲菲は、一瞬言葉を切る。


「そのうち一行は、叔父様の影響が強い取締役が、今朝から動いています」


「露骨だな」


昊天は、短く息を吐いた。


市場は数字よりも、空気で動く。

銀行が揺れれば、取引先が揺れる。

取引先が揺れれば、社員が揺れる。


——それを狙っている。


「IRは?」


「声明は予定通り出しました。

“当社は事実関係を精査中であり、開示が必要な場合は速やかに公表する”と。

株価は……さらに4%下落です」


「十分だ」


「……十分、ですか?」


菲菲が思わず聞き返す。


昊天は、窓の外に視線を投げた。

上海の空は曇っている。


「恐怖は、一定量を超えると質が変わる。

 今は“疑念”。

 だが、このまま下げれば——」


彼は、ゆっくりと言った。


「“誰かが責任を取るべきだ”という空気になる」


菲菲は理解した。


矛先は、現経営陣。

つまり——昊天自身。


「叔父派は、その瞬間を待っている」


「そうだ。

 “市場の声”という名の刃を持ってな」


そのとき、内線が鳴る。


「総裁、面会要請です」


「誰だ」


「……叔父様の代理人です。

 “非公式に、一言ご挨拶を”と」


菲菲の目が、一瞬だけ鋭くなる。


昊天は、少しだけ口角を上げた。


「通せ」


「——よろしいのですか?」


「ここで拒めば、“話し合いを拒否する独裁者”だ」


彼は、椅子から立ち上がる。


「向こうは、勝ちに来たと思っている。

 なら、一度くらい——」


ネクタイを、きっちり締め直す。


「勝者の顔を、見せてもらおう」


---


###


応接室に入ってきた男は、五十代後半。

柔らかな笑みと、完璧なスーツ。


「ご無沙汰しております、昊天総裁。

 いや…若様、と呼ぶべきでしょうか」


「用件を」


昊天は、椅子に座りもしない。


男は肩をすくめ、余裕の声で言った。


「市場が、少々荒れておりますな。

 龍騰ほどの企業が、外部資本に狙われるのは——

 経営に“隙”がある証拠だ」


「結論は?」


「簡単な話です」


男は、書類を一枚差し出した。


「一時的に、経営の舵を

 “経験ある年長者”に預けてはどうか、と」


——事実上の、退陣要求。


「そのほうが、

 株価も、銀行も、世論も……安心する」

「昊天様は名誉職として会長に」


静寂。


昊天は、書類に目も落とさず、言った。


「叔父に伝えろ」


低い声。


「——龍騰は、

 “安心”で動く会社ではない、と」


男の笑みが、わずかに引きつる。


「それと」


昊天は、一歩近づく。


「この買収、

 途中で降りた海外ファンドがあったな」


「……何のことでしょう」


「彼らは、私の“次の一手”を知らない」


男の背中に、冷たいものが走る。


「だが、

 叔父は——」


昊天は、はっきり言った。


「知っているはずだ」


---


代理人が去ったあと、菲菲が静かに言う。


「……総裁。

 そろそろ、仕込みが効いてきています」


「ああ」


昊天は、ようやく椅子に腰を下ろす。


「次は、

 “こちらが動かざるを得ない”と

 市場が思い込んだ瞬間だ」


タブレットに表示される、別の資料。


そこには——

龍騰が水面下で進めてきた、切り札の一端。


(もう少しだ)


嵐は、まだ終わらない。

だが、主導権はこちらの手にある。

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