表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第1章 出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

第1章(8)逃げない夜

### 昊天&妻視点


メッセージを送ったのは、

夜の11時を回ったころだった。

『今夜、帰って来られますか。少し、話したいことがあります』

送ったあと、手が震えていた。

頼るような、縋るような言葉を選ばないように。

でも強すぎてもいけない。

ただ“向き合いたい”と伝えるための

ぎりぎりの文章。

「送信完了」妻はゆっくり息を吐いた。


(……逃げてもいい。でも、今日だけは向き合ってほしい)

梅さんの言葉が胸を支えていた。

 ——坊ちゃんは、自分が幸せになってはいけないと

思い込んでいるんですよ

あの言葉で、

妻は初めて「逃げる理由」に触れた気がした。


---


昊天は本社ビルの執務室で、

資料を手にしたまま動けずにいた。

今日もまた、妻の顔を見ていない。

机に置いたスマホが

一度だけ震えた。

昊天は、

その名前を見るだけで胸がざわつく。


(……なぜ、今)

開くべきでない。

見れば揺らぐ。

読んだら、帰りたくなる。

恐怖に近い感情が指先を止める。

けれど、

逃げ続ける重圧に疲れ切った心が、

ほんの少しだけ沈黙を破った。

通知を開く。

『今夜、帰って来られますか。少し、話したいことがあります』


昊天は息を呑んだ。

胸の奥のどこかが、

静かに崩れるような感覚。


(……話したい?

俺と?)


逃げる理由は、

自分が壊れているからだ。

妻を傷つける未来が見えてしまうからだ。

だから距離をとってきたのに——

妻の言葉は、

昊天の逃げ道を優しく塞いでいた。


(……帰らなくては)


昊天はゆっくり息を吸って、

スーツの上着をつかんだ。


---


カードキーを翳すと、

軽い電子音が鳴った。

昊天はドアを開け、

ゆっくり歩いてくる。

ペントハウス2階のここは夫婦だけのプライベートなスペース。

ソファにいる妻と目が合う。

昊天が口を開く。

「……来た。」

本当に幼い子どものような声で。

妻の胸に何かがせり上がる。

「ありがとう。」

昊天は眉を寄せ、視線を逸らす。

その姿に、

妻ははっきりと気づいた。

(ああ……この人は、怖いんだ)

自分ではなく、

自分が「家族」になることが。


「話はなんだ。」

昊天が座り、前を向いたまま言った。

妻は頷いた。


「うん。……昊天さん、

ずっと私のこと避けてたよね。」


昊天は息を殺す。


「嫌いなの?」

「違う」


間髪入れず返ってきたその一言に、

妻の胸が熱くなる。

「じゃあ……なぜ?」

昊天は顔を手で覆った。


「……俺は、人を幸せにできない」

「そんなこと——」

「ある!」


強い声だった。

昊天自身の痛みが裂けて出た声。

妻の胸がぎゅっと締めつけられた。


「だから、

おまえを巻き込みたくなかった。

……おまえが俺のそばで苦しむのが怖い」


その言葉——

すべてが答えだった。

妻はゆっくり首を振る。

「そんなふうに、ひとりで決めないで」

涙が一粒だけ落ちた。


「昊天さんは私が怖くて逃げてるんじゃない。

……私のこと、大事だと思ってるから逃げてるんでしょう?」


昊天の呼吸が止まる。

「違うって言える?」

彼は……言えなかった。

妻は近づき、

そっと昊天の手に触れた。

「ねぇ……

私はあなたが怖がることも、

逃げることも、

全部知りたい」

昊天は小さく震えた。

「……俺は……

どうしたら、いい?」

その問いは、

少年のような声だった。

妻は微笑んだ。

「まずは、戻ってきて。ここは、あなたの家」

昊天は顔を上げた。

目の奥が揺れていた。

彼はゆっくりと、

とてもゆっくりと

妻の手を握り返した。


その瞬間、

二人の間に流れていた長いすれ違いが

ふっと消え去り

あたたかいものが

静かに二人を包んだ。

妻の首に手を回し、ゆっくりと口づける。

顔を離し、見つめあう。

そしてまたゆっくりと、長く、唇をあわせる。

身じろぎをし、身を横たえる。

妻の吐息が耳をくすぐる。

まるで溶け合うようだ。

昊天はぼんやりと思った。


和解の夜は、

静かで、深く。

そして確かな未来へ向かって

ゆっくりと動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ